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プロローグ:神話時代の最強賢者、転生する

 ——もはや、ここまでか。


 俺は世界の全てを諦め、嘆息する。


 魔王城。

 災厄の魔王を前にして、騎士団員、冒険者、そして勇者たちが命を燃やした。数にして、数万人。


 魔王による状態異常魔法からの追い討ちのように降り注いだ広域殲滅魔法を前にして生き残ったのは俺だけだった。


「我の魔法を正面から食らって生き残るとは、さすがだな賢者シリウス・ディオンス」


 妖艶な女性の姿。甘い声を出しているが、こいつは史上災厄の魔王エルネスト本人だ。


「それはどうも。……で、このまま大人しく降伏するつもりはないんだよな?」


「面白い冗談を言うのだな。我が降伏だと? ふん、ありえんな」


「なら、覚悟するんだな」


 聖剣エクスカリバーに魔力を充填し、攻撃体制に入る。

 仲間は全滅したが、まだ魔王討伐を諦めたわけじゃない。ここで諦めれば、全てが無意になる。


「まあ待て。急ぐ必要もないだろう。シリウス——貴様もなかなか損な人生だったな」


「……どう言うことだ?」


「貴様は勇者になれなかった。人間の肉体の限界まで鍛え、魔法を極め、そして賢者にまでなったというのに王国からはぞんざいに扱われていたそうじゃないか」


 やけに俺のことを知っているかのように話す魔王。

 気にせず、俺は魔力の充填を続ける。


「貴様の功績なら、領地の1つや2つもらえても良かったのにな」


「汚職を暴いて悪目立ちしただけだ。誰だって自分の庭に土足で踏み入られるのは嫌う。俺は分かっててやったんだ」


 魔王は俺の反応を面白そうにケラケラ笑い、そして、俺に提案した。


「賢者シリウスよ、我と手を組め。貴様だけは我が特別扱いしてやろう。そして世界を牛耳るのだ。全てを得た暁には、世界の半分をくれてやろう。血の契約をしてもいいのだぞ」


「なんだと……?」


 魔王は、本気で手を組まないかと提案してきたのが分かった。

 血の契約は、生あるもの同士で執り行う究極の契約——命の儀式だ。

 約束を破れば、その瞬間に死ぬ。そこに人間であるか、魔王であるかは関係ない。


「我には貴様が必要なのだよ。今すぐ決めるが良い、世界の半分は目の前だぞ」


「……一つ聞くが、どうして俺なんだ? エルネスト、お前一人でも俺を殺し、世界の全てを手に入れることはできるんじゃないのか?」


「それは、勘だ。我の勘はよく当たる。勘が耳元で貴様と敵対しない方が良いと囁いておるのだ」


「理由になってねーよ。天下の魔王ともあろう者が、考えなしに危険因子を入れるわけないだろ」


「ああ、シリウス。貴様は頭も良いのだな。ふっ、真の狙いは————貴様と我の子を作るためなのだよ」


「…………」


 魔王は、顔をほんのり紅潮させてのたまう。


「ふっ、魔王と人類最強の賢者が組み合わさったらどうなる?」


「……古い文献によれば、絶滅した魔族と人間の子はとんでもない力を得たらしい。俺とお前の組み合わせなら、とんでもないどころの話じゃないだろうな」


「そうだろう、そうだろう。そして貴様にとっても悪い話じゃない。ほら、どうだ?」


 魔王が胸元をはだけさせ、大きな双丘があらわになる。


「……?」


「興奮せんか? 人間の女よりも魅力的だろう。男に元気があればあるほど良質な子供ができるのだ。貴様にとっても悪い話じゃないだろう?」


「つまり、魔王が色仕掛けで賢者を誘ってるのか……?」


「ち、ちゃうわい! 貴様にもメリットがあるということだ。いや、貴様にとってはメリットしかない。なぜなら、貴様は我を倒す手段を持っていないのだからな」


 痛いところをつかれた。

 こんなにも魔王が余裕を見せているのも、俺よりも力が勝っているという自信があるからにすぎない。

 彼女の読み通り、俺には、まともな手段で魔王エルネストを屠る方法を持ち合わせていないのだ。


 魔王に敵対すれば、その場で俺は殺される。

 魔王の味方になれば、世界の半分の富と権力、そして絶世の美女が手に入るというわけだ。


 こんなの、断る奴がいれば大馬鹿者だな。

 やれやれ、俺はどうしようもないやつだ。


「非常に魅力的な提案だが、断る」


「なんだと……?」


「全ての準備は整った」


 俺は、もうとっくに世界の全てを諦めている。

 その中には、俺の命すらも含まれる。


 災害級魔法であり、俺が禁呪に指定したオリジナル魔法——『ワールド・エンド』。

 聖剣エクスカリバーを核に使い、俺の命を同期させる。そして、この場にいる全ての亡骸を媒介に使い、大地・海・空・宇宙のエネルギーを強制的に集める。


 魔法を発動した瞬間、世界の9割は消滅する。

 都市部に住む住民もろとも巻き込むだろうから、99%の人類は死ぬ。


 当然、魔王エルネストも巻き込む。

 魔王は、魔法が起動した瞬間、全てを察したらしい。


「貴様、正気か!? と、止めろ! 今すぐ!」


「もう遅い。既に俺でも止められない」


「こんな魔法……発動すれば世界が終わるのだぞ!? お前はなんのために戦っていたのだ? 民のためではないのか!?」


「人間は案外しぶといもんだ。これでも1%か、それ未満くらいは生き残るだろう。世界を魔王に渡すか、少数だけ生き残って自由を得るか——俺は自由を選んだというだけのことだ」


 聖剣エクスカリバーが黄金に輝き、弾ける。


「まったく大胆な賢者だ。……我が見込んだ男なだけはある」


 そう言い残して、魔王と俺が同時に消滅する。


 消滅する直前、俺はある試作魔法を思い出した。

 この世界に勇者が現存または死亡から100年未満の場合は、新たな勇者は誕生できない。


 だから、俺は勇者になれなかった。

 でも、今からでも勇者になれる方法が一つだけあった。それは、転生すること。


 転生し、次の人生で勇者になることを予約しておく。

 いつ、どの時代に転生するか選ぶことはできないが、自分がなりたい勇者になることができる。


 ついでに、過去の記憶も引き継ぐことができる。


 どうせなら、『次の人生は癒しの勇者になろう』。そう思った。


 俺の知る癒しの勇者は、薬草やポーションがあればいらないと邪魔者扱いされた。居場所を失った癒しの勇者は、勇者パーティを脱退。盗賊に襲われて死んだ。


 だが、本当にパーティに必要だったのは癒しの勇者だった。

 癒しの勇者さえいれば、状況は一変していた。

 最強の賢者が死ぬことも、世界の9割を失うこともなく、魔王を倒すことができた。


 一定時間だけ無敵に近い状態にする魔法や、パーティ全体の生命力を均一にする魔法を使えれば、十分に可能だった。もっとすごい魔法もある。


 だが、癒しの勇者は強くなる前に死んでしまった。


「ま、転生した世界が平和だったとしても、人を癒せる能力があって損はない」


 癒しの勇者に転生するための条件は——癒しの勇者としてふさわしい『痛み』を知ること——だったな。

 転生後、俺はどんな困難、苦痛を味わうのかわからない。


 でも、俺は最悪を目の前にしている。

 これよりも悲惨な未来は絶対にないはずだ。


 最後に試作魔法を起動する。

 その瞬間、『ワールド・エンド』に巻き込まれた。その後の記憶はない。



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