第7話:あと一歩まで来ました
どうしても野郎2人で話してるだけの話になっちゃうんですよね…
とは言えあちこちに冒険に行くような話にするのも難しい…
私の話の作りが甘いんでしょうね…
実験後、俺と響也は風呂に入っていた。実験場所が山中の無人神社だった為、整備されてない道をひたすら歩いたからだ。風呂に入って一息つくと響也が話しかけてきた。
「あとは帰りの魔法をどうするかと魔力を吸われない方法か…カイト、なんか当てはないのか?」
「帰りの魔法は分からないが魔力を吸われない方法には心当たりが少しある。お前が持ってきてくれた資料で過去の人々が魔法を使ったんじゃないかと思われるものが幾つかあっただろう。最初に文献を見た時にも話したと思うが、そこに共通して出てくる石…あれがカギになると思う」
「あー、そんなんあったな。でも石ってだけじゃ情報がすくなすぎるな。気長にいくしかないか」
「まだしばらく世話になる」
そう言って俺は風呂から上がり、キッチンで夕食の手伝いを行った。――
――実験を行ってから2週間が経過した。
依然、手掛かり得られなかった俺たちの元に突然情報が入った。響也が以前から調査を依頼していたチームから、文献にあった石に似た特徴を持つ石を見つけたという連絡だった。急ぎ持ってきてもらって確認してみる。
「文献があった地方の使われていない倉庫に保管されていたそうです。いくらかお支払いしてお譲りしていただきました」
チームの報告者がそう告げて響也に石を渡した。
「報告感謝する。この石についていろいろと判明いたしましたら今回の調査は終了だ。しばらくは休暇を楽しんでくれて構わない」
響也がそう指示を出すと報告者はこう答えた。
「いえ、響也様。同じような石がいくつもあるかもしれません。しばらくは調査を続けます。ご友人の研究のお手伝い頑張ってください」
そう言って屋敷を後にした。
「かなり、慕われているんだな。待機指示にも関わらず継続して調査するだなんて」
「いや、待機って言ったら待機してほしいんだがな…追加で報酬を出すわけじゃないし。こういうのが横行して行き過ぎるとブラック企業のやり口と同じになってしまう」
「ブラック企業?」
「あー、なんというか劣悪な労働環境で雇用者を使う会社の事をこちらの世界ではブラック企業と言うんだ」
「成程、大奴隷主みたいなもんだな!」
「その表現はやめてくれ……いろいろな人の名誉のために。まぁ、とにかく石を調べてみよう」
「そうだな」
俺は響也から石を受け取ると魔力の痕跡などを調べ始めた。
1時間程調べると、石が持っている効果が分かった。この石は元居た世界にある神晶石と呼ばれる石に近い効果があった。周囲の魔力を吸い上げているという効果である。ただし、神晶石とは違い、石が吸い上げた魔力を利用することができるようだ。過去にこの世界で魔法が使われた文献があるのはこの石を魔法触媒として利用していたのだろう。俺は響也に石の効果を伝え、これで魔法が使えると簡単に説明した。
「あと一歩というところまできたな。あとはお前の魔法か……」
「そうだな。少し考えたいので一人にしてもらってもいいか?」
「分かった。飯の時間になったら呼びに行くように使用人に伝えておく」
こうして俺は一人で考えをまとめる時間をもらった。響也のおかげでここまで来ることができた。
後は帰還用の魔法をどうするかだったが……。向こうの世界はこの世界のように魔力を吸い上げたりしない。そうなると暴走させてというのは難しいだろう。とは言え、新しい魔法を創るキャパは恐らくない。
かなり厳しい状況である。色々な考えが頭の中でグルグルと巡るが良い解決法が一つも見つからない。状況的に詰んでいる。2時間程考え込んでいると扉をノックする音が聞こえた。
「カイト様、ご夕飯の支度が出来たそうです」
俺は使用人の方に礼を言うと食堂へ向かった。
「今日は夕食の手伝いが出来ずにすみません」
キッチンにいる料理長とスタッフに頭を下げた。
「いえ、そもそも若様のご友人ですから……。本来お手伝いしていただくのも申し訳がないのです」
「それを言うなら私のほうこそ、響也や皆さまのご厚意に甘えているようなものです」
そう告げた後食堂の席に着いた。
「解決法見つかったか?」
響也が席に着いた俺に声をかけてくる。
「いや、正直何も思いつかない。お手上げ状態だな……」
「カイト、お前に聞きたいことがあるんだが、俺にも魔法が使えたりするのか?」
「可能だとは思うが…。」
いきなりの発言に耳を疑った。
「実は思いついたことがあってさ…お前に能力が足りないなら俺が作って飛ばしてやればいいんじゃないかって」
「理論上は可能だとは思うが、固有魔法の創造にはかなりの危険が伴う。まして、今まで散々世話になっているのにこれ以上負担をかけるわけにはいかない」
「前にも言ったろ、道楽だって。せっかく魔法を使えるかもしれないのにそのチャンスをみすみす逃すのはどうかと思うんだよ。なかなかいい考えじゃないか?」
「正直、俺は反対だ。もちろん魔法を教わりたいというなら基礎魔法を教えるのは構わない。だが、固有魔法の創造は絶対にしてほしくない。固有魔法仮想製造装置が無いとかなり危険というのもあるし、なにより触媒がない。それに一から覚えるとしてもどのくらい時間が掛るかも分からない」
「成程、言いたいことは分かった。なら、試験をしてくれないか? もし俺が基礎魔法を1か月で完璧に出来たら固有魔法の創造を許可してほしい」
「ダメに決まっているだろう」
「なんでだ?」
「さっきも言った通り触媒と道具がない」
「触媒に関してはお前がやったように寿命を削ればいい。道具に関しては無くても一発勝負できるんだろう?」
「その寿命を削るのが一番駄目なんだよ。道具なしのリスクも高すぎる。失敗したら寿命だけ持っていかれるんだぞ。とにかくこの話は終わりだ」
その日は響也との話し合いが堂々巡りで終わらなかった。――
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