第2話:名前つけちゃいます
小説書くのって難しいですね
ふと目を覚ます。あれからどれくらいの時間がたったのだろうか。不思議な感覚だったな。新しい力がどんどん満たされていくような感覚と力がどんどん抜けていく感覚が同時に襲ってくるとは…とりあえず成功したのか? 目を瞑り自分の魂に刻まれたであろう固有魔法を使おうとしてみるが、一瞬で今は使えないという事が理解できた。固有魔法は魂に刻まれる為、習得すれば自ずと使用方法や条件が理解できるのだが、どうやら召喚魔法の創造には成功していても召喚魔法を使用するための条件が満たせていないようなのだ。何はともあれ、これで自分も一流魔道魔導士の仲間入りである。カイトは興奮を落ち着かせるために深呼吸した後、とりあえず魔法が完成したので師匠を呼びに行く事にした。
生活スペースに戻り大きな声で師を呼んだ。
「ししょー、戻りましたよ」
「煩いわアホ!そんなに大きな声を出さんでも聞こえとる」
ゆっくりと部屋の奥から師匠が出て、「で、さっそく呼んでみるのか?」
と好奇心を隠し切れない顔でそう言った。興奮している師匠には本当に申し訳ないが、いろいろ条件があってすぐには使えないと伝えた。すると少し落胆した表情をした後に切り出してきた。
「そうか……で、発動に必要な条件はなんなのだ? まぁ、かなりの効果をつけた魔法だったので発動するのに苦労しそうな気はしていたがな……」
「召喚ゲートを作り出すための触媒が必要なようです。しかもかなりの魔力を含んだ物質でなければいけないので最低でも魔法銀レベルの物が欲しいですね。後は成功・失敗に関わらず一度召喚魔法を使用すると数か月は再使用できないようです。とはいえ魔法銀なんて相当な金を積んで買うか未採掘の鉱山でしか手に入らないでしょうから、こちらは気にしなくても良いです。まぁ、しばらくは触媒探しと金稼ぎを兼ねて冒険者ギルドで仕事でもしようかと思います」
ウォッホンと咳き込むと師匠が突然質問してきた。
「カイトよ、ワシが誰だかわかるか?」
おいおい……いきなり何言ってんだこの人は? 遂にボケたのかジジィ……
「誰って師匠じゃないですか」
半目になって可哀そうな者を見るような目を向ける。
「その目は失礼な事を考えていたな、お前」
「イエソンナコトハナイデスヨ」
「まぁ良いわ。ワシが誰か分かるかと聞いたのはそういう意味で言ったのではない。ワシはお前の師匠だが、その前にほらいろいろあるだろう……」
カイトはよくわからず首をかしげる。
「ワシの名は」
師匠の名? いったい何だって言うんだ……
「マリクでしょ」
「職業は?」
……? 彼はさらによくわからなくなる。
「大魔導士」
マリクは納得のいく答えがカイトから出たのか満足そうに口を開いた。
「そこよそこ、その大魔導士の部分が重要だ」
「はぁ…でなんなんですか?」
「大魔導士マリクとまで言われたワシが魔法触媒の一つや二つ持っていないわけなかろうが!」
そんな師匠の言葉に多少の苛立ちを感じ悪態をついた。
「……ハァ? おいジジィ! そんなもん持ってるならなんで俺が固有魔法を創造するときに出してくれないんだよ。おかげで寿命を削って固有魔法創ったんだぞ!」
そんなカイトの考えをマリクは一蹴する。
「甘えるでないバカ弟子め! 魔法の創造とは一人前の試験のようなもの。自分の命を削るのが嫌ならば自力で触媒を取ってこんか! お前はその面倒をすっ飛ばしてさっさと合格したいから自身の命を削ったのであろう。甘んじで受けるべきリスクだ!」
厳しい意見だが正論である。ぐぅの音も出なかったが、同時に疑問も湧いてくる。
「そんな弟子を甘やかさない師匠がなぜミスリルを出してくれる気になったんですか?」
マリクはくっくっくと笑うと楽しそうに勢いよく答えた。
「召喚魔法が見てみたいからだ!まして、異世界人にはもっと興味があるからに決まっているだろう」
「ああやっぱり、そんなとこだろうと思いました」
そもそも魔導士という職業についてる人間は好奇心旺盛な者が多い。自分も師匠と同じ理由で召喚魔法を創造したので、似たもの子弟だなとカイトは苦笑した。
「んじゃ、師匠の持ってる魔法銀で早速、召喚魔法やりましょうか」
「いや、待つのだ」
「はい? どうかしましたか」
「カイト、お前の召喚魔法に名前を付けろ」
師匠の突拍子もない言葉に思わず聞き返ししてしまう。
「魔法に名前?どういうことですか?普通に召喚魔法ではダメなんですか?」
その質問に師匠は簡単に理由を説明してくれた。彼が言うには魂に魔法を刻んでいるので、名前を付けることでその魔法の存在がより洗練されて性能が上がるとの事。また、似たような魔法でもそれぞれ魔法を行使する過程や条件は人それぞれ違うので、名前を付けないとギルドに登録の際に魔法について事細かく記載する羽目になるそうだ。名前を付けると名前のみ記載すればいいらしい。特に固有魔法の内容を事細かに知られることは戦いや研究において致命的なので皆、名前を付けるのだとか。
話を聞いたカイトはあまり悩むことなく魔法の名前を決めた。
「境門召喚にします」
マリクの方を向いてそう答えた。理由は特にあるわけではないが、ただ何となくこの名前がいいと感じたのだ。
「そうか、それではその境門召喚を見せてくれ」
そう言ってマリクは幾つかのミスリルを持ってきてカイトに手渡した。
「分かりました。早速始めましょう」
カイトはゆっくりと魔法の準備を始めた。