最終話:帰ってきました
完結です!
色々と描写不足や、展開の微妙なところが多かったとは思いますが、
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
「なんてことを……」
俺は頭を抱える。嫌な予感はしていたのだ。自分が魔法を使って送ればいいと言い出した時点でその傾向はあったのだから。
「心配するなよ。寿命は削ってない。万事うまくいきました!」
大きな声で笑う響也に毒気を抜かれてしまい、説教をする気もなくなってしまった。
「本当に寿命は削ってないんだな?」
「もちろん大成功だったよ。こんなにうまくいくとは思わなかった」
とりあえず一安心だった。人の言いつけを守らなかったことは大変腹立たしいが、それ以上に、自分の為に命を懸けてくれた友人に感謝の気持ちでいっぱいだった。
「とりあえず、帰る魔法はできたから実際に帰るのは明日にしないか? 今日は疲れたからゆっくり休みたいんだ」
響也は徹夜で魔法を創っていたらしく、仮眠を取りたいとの事だった。
「正直、俺はワガママを言える立場じゃないよ。ここまで衣食住の提供と帰還の手助けをしてもらったら……」
そう言って今日一日はゆっくり過ごすこととなった。
その日の夜、仮眠をとっていた響也が目を覚ましたので、固有魔法を創った事について話を聞いてみた。すると例の石を複数回収していて、触媒として使用したそうだ。いつの間に回収していたんだとツッコミを入れると、最初に石を持ってきた直後にすぐに見つかったとの事。また、どうやって魔法を創ったのか聞いたところ、実は見つけてきた資料の中に魔法の創造に関する物があり、それを俺にバレない様に隠していたとか……。しかも、どんな魔法を創ったか聞くと楽しみは明日に取っておけと抜かす。コイツ、俺の大恩人ではあるのだが、ぶっ飛ばしてやろうかと思ったりもした。
そんな風にして響也と語りあった後、俺は一足先に部屋に戻り眠りについた。――
――翌日、別れの日にはうれしい快晴だった。
今日でこの世界ともお別れかと思うと少し寂しい。正直、昨日家を出ようとした時は、ここで分かれても、会おうと思えば会えるという考えがあった為、そこまで寂しい気持ちにはならなかった。しかし、今は違う。響也が頑張ってくれたおかげで俺は元の世界へ帰る。つまりはもう会うことは出来ないかもしれないのだ。そうやって感慨に浸りながら最初に俺が召喚された場所まで向かうのだった。
そう言えば、俺が召喚されてしまったこの建物は学校と言うらしい……。なんでも子弟の関係を大規模に行っているのだとか……。俺の世界では、学びは身近な人に教えを乞うくらいで、誰かに弟子入りするのは相当の運や環境に恵まれていないと簡単には出来ない。その為、ギルドに加入していない魔導士は知識が失伝することもよくあった。その為、この学校というシステムは非常に効率がよく後世に広く知識が残せるものだと感心した。いつか、俺もこのような施設を運営しようと密かに目標の一つにした。
俺がこの世界に呼び出された部屋に入ると最初にあった魔法陣はきれいに消えていただけでなく、机や椅子が撤去されていて広い空間になっていた。それについて尋ねると
「机と椅子は邪魔だから片付けておいたんだ。魔法陣の方はお前が来たその日に証拠隠滅で消しておいた」
と返答が返ってきた。相変わらず手配が完璧すぎる。
「で、いったいどんな魔法を使うんだ?」
一番重要な事を確認する。
「物や人をそのまま任意の場所に飛ばす魔法だ」
「すごい魔法だな。ただ、条件が非常に大変そうだが……」
「それについてはお前が満たしているから大丈夫」
そう言って詳しく説明してくれた。
響也の魔法は物や人を自由に飛ばせる魔法らしい。本来はマーキングが必要で、魔法で事前に行う必要があるのだが、俺の場合は飛んできた魔法陣をそのまま応用するのだとか。とはいえ、向こうで師匠が消している可能性もあると告げると、本人の魔力の残滓がマーキングの代わりなので、消せないとの事だった。これは一度物を転送して実験済みらしく核心していた。あとは、触媒を消費するとの事だったが、これは例の石がまだ一つだけあるそうなので、それを使用して発動するようだ。
「ほかにも人を飛ばす場合は使用すると数年は使えないとかいろいろ条件があるんだけど……」
つまりは人間はまだ飛ばしていないらしい……
「いい実験台になれそうだ」
大きく笑った。
「そういうなよ。できたらこんな条件になってたんだから……」
「いや、むしろ俺で大いに実験すればいい。それを責める権利は俺には全くない」
「そうだ、帰る前にいいものやるよ」
そう言うと響也は大きなカバンを取り出し、俺に渡してきた。中にはたくさんの本が入っていた。
「それ、気が向いたら読んでみてくれ。たぶん、今までの魔法が大きく変わると思う。俺からの最後の選別だ」
本当に至れり尽くせりだった。師匠へのいい土産が出来た。代わりに俺はここに来た時に唯一持っていたものを譲ることにした。
「これ、お前たちの世界には全く価値の無い石ころかもしれないが、俺の世界では魔法銀って呼ばれてる代物だ。魔法を使えるようになったお前なら価値が見いだせるかもしれない。これくらいしか返せなくてごめんな」
そういって魔法銀を手渡した。境門召喚を使用する際の触媒として師匠がくれたものを一つだけ触媒に使わないで取っておいていたのだ。
「たぶん、この世界には存在しない鉱石だと思う。ありがたく頂戴しておく」
そう言って魔法銀をしまった。
「それじゃ、始めるぞ」
響也が例の石を握りしめて魔法を使用する。室内が一瞬閃光に包まれると地面に俺が来た時と同じ魔法陣が現れた。
「お前が来た時のやつをそのまま使ってるんだ。幸い座標軸とか時間軸とかそういう細かい条件が全部設定されている。」
この世界は魔力が何かしらの要素で吸われているので、そのまま魔法陣が残っていることに驚きだったが、響也はそれを理解しているのか驚きが少なかった。
「たぶんこの石、世界に吸い取られた魔力を引き出してるんだと思う。石が魔力を吸収してるんじゃないんだ。」
つまり世界に吸われた魔力をそのまま行使できるらしい……。魔力が無くても魔法が使えそうな代物だったのだ。
「最後の最後にそんな謎の解明がされるとは……」
「俺もびっくりだよ。お、ちょうど魔法陣が完成したようだ」
あとはこの魔法陣にのって俺が帰るべき場所を念じれば良いそうだ。
俺は一息吸うと大きな声で
「半年間、大変世話にになったありがとう。お前のことは絶対に忘れない」
そう言って俺は響也に向って手を差し伸べる。
「俺の方こそ。かなり楽しい半年間だった。ありがとう」
そう言って手を握り返してきて力強く握手を交わした。
「それじゃ、いくよ。じゃあな!」
そう言って魔法陣の上にのって念じ始めた。
「元気でな!」
響也がそう言った瞬間に室内がまた閃光に包まれた。――
目を開けるとそこは初めて召喚魔法を使った部屋だった。
「驚いたぞ。消えたと思ったら急に出てきおって」
師匠が向こうの世界に転移した時と変わらない格好で俺を迎えてきた。
「ただいま戻りました。いやぁ、ものすごい経験をしましたよ」
俺は師匠に向こうで起こった出来事を細かく話した。師匠は目を輝かせながら俺の話を楽しそうに聞いていた。
「しかし、話を聞いて更に驚いたぞ。お前が消えてからこちらでは1日も経っておらん。随分と時間の流れが違うようだな」
その一言に俺は驚いた。どうやら、あちらの世界での冒険? いや、生活か……。あれがこちらではほんの数時間の出来事だったのだから。
「しかし、とんでもない事ってのはいつ起こるか分かりませんね。召喚魔法で自分が召喚されちゃうとは…」
その日は師匠との会話が尽きることはなかった。
この経験を経て、後にカイトは幾つもの偉業を成し遂げる。そして後世に大賢者と呼ばれる存在になるのだが、それはまた別のお話。
おしまい
拙い文書でシナリオも盆雑でしたが、お楽しみいただけたでしょうか。
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ブラック・ワーキング・コンディション(19/09/28)




