欲望の枷
ああ 僕と同じく 愛しい者を 想うもの達よ
天に風に乗りて 空を舞う
臆千万の想いの もの達よ
愛しい彼女と 結ばれたい
その願いは 僕と同じだ
清浄なるもの 何故に君は
僕達の邪魔をするのだ
白き汚れなき君は
僕の願いに 立ちはだかる
彼女を抱き締め
耳元で 熱く囁きたい
それすらも 許してくれない 君
彼女の艶やかな唇に
触れたい 重ね合わせたい
そんな邪な事は
到底許してくれない
清らかな関係を保つべく
清浄なる君は 二人の間に
立ちはだかっている
ああ 僕と同じく 愛しい者を 想うもの達よ
何故に お前達はそうも自由なのだ
遠く 遠く 離れていようとも
自然の本能に従い
自身の欲求に従い
素直に 彼女の元へと行ける
素直に 彼女と結ばれる
素直に 彼女に 子を授ける
何故に 僕と違うのだろう
見つめる 事しか出来ない
手を繋ぐ 事しか出来ない
愛したいのに 触れたいのに
本能のままに 行動すれば
必ず後悔が 待っている僕
どうして こうも違うのだろう
ああ 僕と同じく 愛しい者を 想うもの達よ
空に昇りし お前達よ
妖しく光の輪を創る
自由に風にのれる
何も考えなくとも
結ばれる
想いは同じなのに
地球上に存在する
一生命体として
子孫を残す使命は 同じなのに
何故に 僕とはこうも違うのだろう
清浄なる君が 立ちはだかっている
二人の間に
白き汚れない君が
不純な事をさせまいと
四角い 白い不織布が
立ちはだかっている
*****
「マスク買うのでしょう?」
彼女が 立ち止まったよ
ドラッグストアー
うん と答えたけど
何処かぶっきらぼうになる気がする
マスクしてるから
マスクしてるから
無愛想に 思われたらどおしよう
春めいた 夜の公園
まだ少し寒い空気
柔らかい体を 抱き締めて
彼女に口づけしたいけど
花粉症がひどくって
マスク 外せば
鼻水くしゃみが
あああ 無惨
四角い箱に入りし
清浄なる 四角い君よ
僕の唇は 今だけ 今だけだぞ
清浄なる君の内にあるのは!
ああ 僕と同じく 愛しい者を 想うもの達よ
さっさとシーズン終わってくれ
杉の次は 桧だと!
愛しき彼女の唇に
触れさせまいと
二人の間に立ちはだかる
清浄なる四角い君よ
不織布のマスクよ
今しばらく 欲望の枷となる。




