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一章~練の過去2~

 椿に連れられ練がやって来たのは田舎にある武家屋敷だった。

 年代物なのか多少の古さもあるが、緑豊かな周りの風景と噛み合ってそれはなかなか風情がある外観である。


 「驚いたかい?ちとボロいがなかなか風情ってもんがもんだろう?ここが今日からあんたの家になるところさ。部屋に案内するからついてきな」


 家の大きさに驚いて声も出てなかった練に椿は話しかけるとさっさと中に入り、練の手を引きながら案内を始める。


 「あそこがトイレで、あっちにあるのは鍛練用の武道館と倉庫、そこが台所でその隣がリビングさ。お、ここだね」


 道ながらに何がどこにあるか教えているうちに椿は目的の場所についたようだった。

 ガラッとふすまを勢いよく開けて中を見ると八畳程の畳の部屋があり、小さいながらも机と空の本棚が置いてあった。


 「この部屋を好きに使っていいよ。さて、あたしは飯の仕度でもするから荷物を片付けたらリビングまで来な」


 それだけをいうと椿は練を部屋に残したまま去っていった。

 一人の残った練は軽く深呼吸し、畳の材料であるいぐさの匂いは鼻を突き抜けて練の気持ちを落ち着かせる。


 「頑張らないと……」


 そう小さく呟き、荷物を置いた練は急いでリビングに戻る。

 その道すがらあるもの目にとまる。

 ある一室に置いてあった写真立てが一つあり、その写真には若かりし頃であろう椿と同年代のような男が写っていた。

 気になったが誰かわからなかった練は写真立てを元の場所に戻し、リビングに戻る。

 リビングにつくとその隣にある台所で椿が包丁を握りリズムよく食材を刻んで料理を作っていた。


 「戻ったのかい?先に言っとくがあたしは凝ったもの作れないから変な期待はするんじゃないよ。ほれ、そこで座って待ってな」


 練の足音に気づいたのか椿は振り返らずに練に指示を出す。

 振り返らずに気付かれたことに一瞬驚いた顔をした練は実際にやれることも無いためか大人しくちゃぶ台のすぐ側に腰を下ろした。

 しばらくそのまま待っていると椿がお盆にいくつかの料理を乗せて、ちゃぶ台の上にところ狭しと並べていく。


 「よし、米が冷めないうちに食べな。強くなるにはまず食べることが大事だからね」


 そういうと椿は手を合わせてあとに料理に手をつける。

 ちなみに献立は白米と味噌汁、サラダ、赤身魚の刺身と沢庵と簡素なものであり、椿が食べるのをみたあと練と手を合わせて食べ始めた。


 「……ねぇ、お婆さん。お婆さんの家族は?」


 二人だけの食卓に練は緊張した様子で尋ねる。


 「いないよ。同業の旦那がいたんだが仕事でぽかしてそのまま逝っちまった。ここはその旦那の生家でね。子もいなかったあたし達にはちと広いが捨てるに捨てられなくてね。たまに帰るようにしてたのさ」


 そういわれて練は先程の写真を思い出す。

 その事を気にしたのか練が申し訳なさそうな顔をすると椿は軽く練の頭を小突く。


 「子供がそんなもん気にするんじゃないよ。さぁ、これ食べたら、早速訓練を始めるからさっさと食いな!」


 そう言われた練は急いで食べ始め、あっという間に平らげる。


 「ご馳走さまでした!」


 「お粗末様。さ、腹ごしらえもすんだし次は訓練だね。着いてきな」


 食べ終わって汚れた食器を椿はぱぱっと片付け、武道館まで練を引き連れる。


 「さて、さっそく訓練だが残念ながらあたしは弟子の育成ってもんをやったことがなくてね。だからまずは体力を付けるためにもトレーニング、そのあとは反応速度を鍛える為にあたしの攻撃に受けて目を慣らしてもらうよ」


 そうして練の訓練の日々が始まった。

 朝早くには起きて倒れるギリギリまで体を酷使させ、それが終われば次は椿による目を慣らす訓練が始まる。

 そんな訓練を数年を続け、練の体は同年齢とは比べ物にならないほど鍛え上げられていた。

 そして成長に伴い椿は自分のつてを使い練を中学、高校に通わせ自らの剣技を教え始める。

 流派に名は無く、ただ敵を斬り切り伏せることのみに特化されたその技は力強くも流麗であり、まるで流れる水のような剣技である。

 厳しく苦しい訓練も練はその技を得る才能があったのか習うものをどんどんと吸収していく。


 


 椿が練を引き取ってから五年後のそんなある日、椿が倒れ、それを見つけた練が急いで病院に連れていき検査すると診断結果はかなり進行した病気だったことがわかった。

 椿の願いということもあり、自宅で療養することになった椿はそれから寝たきりの生活が増えていく。

 それから一年後、ついにその時はきてしまった。

 布団の中で息絶え絶えになりながら苦しむ椿に練は慌てて駆け寄り声をかける。


 「お婆さん!!」


 「れ……ん」


 苦しそうしながら椿は練の顔をみると優しく微笑む。


 「苦労……かけたね。こんな年寄り……の世話なんて……楽しくないだろ?ゴホッゴホッ」


 「そんなことない!俺が好きでやってるんだ。待ってて、今医者を呼ぶから……っ!?」


 練が電話を掛けようと携帯電話を取り出した瞬間、椿が練の袖を掴み止めさせる。


 「いい……自分の最後くらい……自分でわかるさ。ゴホッ」


 「そんな……」


 「練……あんたはあたしを……恨んでるかい?」


 「え?」


 突然の言葉に練は頭が真っ白になる。


 「あんたを……拾ったあの日……あたしがもう少し早ければ……ゴホッゴホッ……あんたは家族を失うことも……辛い修行なんてせずにすんだ。あんたにはあたしを恨む権利が……ゴホッ……ある」


 徐々に弱っていく椿の姿に練は見ていられなくなり瞼を閉じ、顔を背ける。


 「恨むなんて……そんなことできるわけない。俺はお婆さんがいたからここまで成長出来たんだ。感謝しても恨むことなんてない」


 練の頬に涙が流れ、そのまま地面に落ちる。

 練にとって椿は命の恩人であり、もう一人の家族のような存在であった。

 だからこそ、自分を育ててくれたことに感謝をすれど恨むことなど練には出来なかったのだ。


 「あんたは……ゴホッ……優しいね。練、この六年で教えれることは……全部教えた。ゴホッ、その力をどう使うかは……練、あんた次第だ。ゴホッ、あたしと同じ道を辿るか……平穏な生活を送るか……あんたが決めるといい。ゴホッ、あたしとしては……あんな仕事より平穏に生きてほしいがね」


 力無く微笑み、布団の中から手を出すと練の頭を優しく撫でる。

 それは以前練を連れてきた時と同じ優しい手つきだった。


 「練……ゴホッゴホッ……最後の……願いだ。あたしをそんな……堅苦しい……言い方じゃなく……ゴホッゴホッ、ばあちゃん……って呼んで……おくれ……」


 練の頭に乗せられた手が力を失い、下に落ちそうになる。

 練は慌ててその手を受け止めて握り締めた。

 目の前の消えそうな命を取り逃さないように。


 「あぁ、お安いご用さ……ばあちゃん」


 手を握りしめ涙を流しながらも、椿を安心させるように微笑みながら言う。

 その笑顔はぎこちなかったが、椿にはその笑顔と言葉が嬉しかったのかつられて椿も微笑む。


 「ふふ……いいねぇ……あたしはね……あんたの……ことを……孫のように……思って……た……よ。あぁ、あたし……は……しあ……わせ……だ」


 そういい、その目は徐々に閉じられ、ついにはそのまま開かれることなかった。


 「…………お、ばあさん。俺もお婆さんのこと本当の家族のように思ってた。俺だって幸せだったよ」


 流れる涙は止まらず流れ続ける。

 家族を無くし、椿と生活してもう一人の家族として認識し始めてきたさなかの椿の死。

 練にとってそれは心を砕くには十分な物だった。

 もしこれが嘘なら。

 もっと椿が生きてくれたならと思ってしまう。

 そんな悲しみにくれるその中、不意に声が聞こえる。

 声がする方向をみれば光輝ひかりかがやく、球体が空中に浮かんでいた。


 『やぁ、僕のゲームに参加する資格を持つものよ。君から強い願いを感じた。こちらの世界に来てその願いを叶えてる為に戦っておくれ』


 そういうと球体の光は増していき、その光に飲み込まれ練の意識は途絶えた。


    ーーーー・ーーーー



 目を覚ますと練は横になって寝ていた。

 後頭部に柔らかな感触と目の前に見える古びて汚れたままの建物の天井、そして練の顔を眺める智花の姿があった。


 「あ、目が覚めたんですね。よかった、倒れて目が覚めないからびっくりしました」


 「ここは?」


 練は首を動かし、周囲を見渡す。

 気を失う前には外の路地にいたはずが今は建物の中にいたのだ。

 なぜかと気になるのは仕方ないだろう。


 「ここはさっきのところの横にあったビルの中です。あのままだと他の人に見つかって襲われますから……私、あまり力がないので引きずって移動したんですが、どこか痛いところありますか?」


 練の言葉に智花が答え、練は自分の体に痛みがないか確かめようとするが自分がどのような状況になっているか気が付き起きあがろうとする。

 一言でいうなら膝枕。

 智花のような美少女にしてもらっていると考えると恥ずかしくなり、顔も熱く感じてしまうほどだった。

 

 「あ、ダメですよ!安静にしてください!」


 慌てて起きあがろうとする練を智花は無理やりもう一度寝かせる。

 とはいうものの練と智花の地力の差はかなりのものであり押し返そうとすれば出来たが自分を心配してくれていることがわかり練はしぶしぶ元の膝枕をされる体勢に戻る。


 「……逃げなかったんだな」


 「えっ?」


 練の不意な問い掛けに智花は驚きの声を漏らす。


 「あのまま俺を放って逃げれば誰かが見つけて始末した筈だ。なのに天鳥はそうはしなかった。自分の命が掛かってるこの状況でも……」


 事実この状況において、智花が練を生かすのは危険な行為である。

 自分を襲うものを苦戦しながらも打ち倒せる力を持った練は敵として現れれば恐ろしいものになるだろう。

 もちろん智花もその危険性を考えなかった筈はない。


 「確かに……そうかもしれませんね。けど鋼神さんは私をあの人から守る為に戦ってくれましたよね。そんな人を見捨てるなんて私には出来ませんよ」


 「それは君の良いように考えた想像だ。もし俺が味方に引き入れる振りをして裏切って後ろから切るつもりだったならどうするんだ?」


 「その時はその時です。どのみちあなたがいなければ私はさっきの人に酷いことをされて、そのまま殺されていましたから。それに私の勘ですけどあなたは悪そうな人に見えませんからです」


 練の言葉を一つ一つ返した智花は付け加えるかように言うと、どや顔をする。

 顔が整った彼女がすればどや顔もまた可愛らしく見えるのであった。


 「か、勘?たったそれだけで判断するのか?」


 そんなことよりも練は智花の言葉に驚きを隠せずにいた。

 勘などで自らの生死をかけるなど馬鹿げているからだ。


 「えぇ、これでも勘は鋭いなので。それに人をみる目もあるつもりですよ」


 にっこりと微笑み、練としばし見つめ合う。

 すると練の方が先にアクションを起こした。


 「は……ははは、なんだよそれ。いいな。気に入った」


 そういうと練は今まで張りつめていたものがほぐれたのか、少し笑うともう一度上体を起こす。

 また智花がそれを制止しようとするが、もう大丈夫といわんがばかりに練は智花の制止を振り切った。

 智花のほうを向けてあぐらで練は座ると一変して真剣な表情で見つめる。


 「天鳥、これは俺からの提案だ。これからの戦い間違いなく戦闘は避けられないと思う。だからお互いに生き残るために同盟を組まないか?」


 練は右手を差し出し握手を待つ。

 同盟への誘い。

 それは元々このゲームが始まったときから練が考えていたことだった。

 リスクである寝首を掻かれるがあるが、同盟により協力することで敵対者との戦いで選択肢が広がる。

 そのメリットを考え、今あった中で信じれそうな智花に声をかけたのだ。


 「……鋼神さん。私なんかでいいんですか?恐らくですが私はたいして戦えないと思います。それでもいいんですか?」


 「あぁ、それなら二人で互いに補い合おう。俺は天鳥だから誘ってるんだが、もしかして迷惑だったか?」


 返答がはっきりしない智花に練は不安になり、聞く。


 「い、いえ。そんなことないです!こんな私ですがよろしくお願いします!」


 それを察したのか智花は慌てて、差し出されていた手を握る。


 「あぁ、よろしく」


 こうしてこのデスゲームに新たなチームが誕生した。

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