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一章~パズズ決着~

 練の頭に知識が流れ込む。

 それは練に宿る神がどのような神であるか、どのような言霊を言えば、力を発動させるかを徐々にではあるが、練の中に流れ込んで体に馴染んでいく。


 「糞がぁ!もう一度倒れやがれぇ!!『シャ魔風』!」


 魔風を解除されたことに苛立ちながら、蝗魔は先程より短い詠唱で二対の羽をはためかせ魔風を送る。

 

 「牛頭天王の権威をもって、我に向かいし疫病を打ち払わん!」


 蝗魔同様に練もまた短い詠唱で、自身に迫る魔風を弾き飛ばす。


 「なっ!?」


 魔風を無効化された蝗魔は大きく口を開けて驚く。

 先程よりまで自身を優位にさせていたものが簡単に打ち消される……それは蝗魔にとって最も有効な武器が封じられ、練に対抗する手段がが無くなってしまうという事だった。

 ゆえに蝗魔は焦っていた。

 いくら手負いといえど自分の攻撃手段は潰され、相手はより強くなっていくのだ。

 そう思うと蝗魔は体の震えが止まらなかった。


 「…………ふっ!」


 動揺しできた隙に練はすかさず踏み込み、一閃。

 練の十束の剣は防御しようとした蝗魔の腕を根元から切り飛ばし、すぐに後方に下がる。


 「いぎゃぁぁぁあ!お、俺の腕がぁぁ!」


 蝗魔はあまりの痛みに喉が張り裂けそうな程の声を上げ、地面にのたうちまわる。

 練は追撃をしようとするが、あと数センチというところで蠍の尾に防がれてしまう。


 「よくもぉ!よくもぉ!殺してやる!殺してやるぅ!!」


 切断された腕の激痛、死への恐怖、格下と思っていたものから予想外の抵抗からの怒りに蝗魔の視野を狭めていく。


 「殺してやる!殺してやる!惨たらしく、そのすました顔が歪む位苦しめて殺してやる!!」


 蝗魔は立ち上がり、尾を鞭のようにしならせながら練の胴を目掛けて薙ぎ払い、先端の毒針を突き刺そうとする。

 だが殺意だけで冷静さを失った単調な攻撃など練にとって用意に避けられるものだった。


 「がぁぁぁあぁぁぁあ!!!」


 獣のような咆哮をあげ、感情のままに攻撃をする蝗魔に対し練は逆に落ち着いていた。

 それはまるで練の中でなにかのスイッチが入ったようだった。

 蝗魔の攻撃を尾だけでなく全体を見据え、最小限で回避して反撃する。

 そして尾を回避して、伸びきった尾に十束の剣を振り下ろす。

 先端の毒針の付いた部分を切り裂き、そこから大量の血が溢れ出る。


 「っあああ!?なんで、なんでだぁぁぁ!?俺の方が有利なはずだったのにぃ!!?」


 尾にも神経が繋がっていたのか蝗魔が腕を斬られた時と同様の悲鳴をあげる。


 「牛頭天王の雷よ。轟け」


 その言霊とともに練が纏っていた雷が十束の剣にもまとわりつく。

 それを見て、蝗魔は息を飲む。

 権能は封じられ、片腕は切り落とされ、そして自分の武器として使っていた蠍の尾すら切り落とされた自分にあの雷を受けることができるのだろうか。

 蝗魔は無意識に理解した。

 戦う手段が残り片腕一つしかない自分に、目の前の男は倒すことができない事を。

 そう思った蝗魔ができるのは一つだった。


 「す、すまない!俺が悪かった!頼む、命だけは見逃してくれ!もうあんた達には手を出さねぇから!だから見逃してくれ!」


 能力を解除した蝗魔は残った片腕で傷口を押さえ、地面に頭を擦り付けるように土下座をする。

 

 「……その言葉に嘘はないか?」


 構えを解いた練は質問する。


 「あ、あぁ!約束は守るだから、だから!」


 顔を涙や鼻水で汚しながら蝗魔は練に懇願する。

 その様子を見た練は少し考える。


 「……わかった。次に俺たちに向かってくるなら今度こそ殺す」


 そういい放つ練の言葉に蝗魔は顔をほころばせる。


 「あぁ、わかった。ありがとう!ありがとう!」


 蝗魔はもう一度頭に地面をつける。

 その姿を確認した練は蝗魔に背を向ける。


 「天鳥……行こう」


 一歩、また一歩と智花の元に向かい練は歩き始める。

 そして練がある程度離れると蝗魔は立ち上がる。

 その目に殺意を込めて、残っていた腕をもう一度変化させていた。


 「鋼神さん!!後ろ!」


 蝗魔の動きに気付いた智花が叫び伝える。

 しかし、蝗魔は既に練のすぐそばまで迫っていた。


 「もう遅ぇ!!死ねぇ!!」


 蝗魔の爪が練の首に迫る。

 しかし、あと数㎝まで迫るがそれが練に届くことはなかった。

 何故なら首が落ちたのは蝗魔だったのだ。


 「な、んで……」


 「……これが人の首を切り落とす感触か……。気持ちいいもんじゃないな。あの・・・はいつもこれを……」


 切断した首から夥しい程の血液が吹き出し、辺りを血に染めていく。

 勢いのままに首を無くした蝗魔の体は崩れるように倒れていった。

 練は十束の剣を振って刀に付いていた血を払い、納刀する。


 「……天鳥、大丈夫か?」


 多少なりとも返り血を浴びた練が立ち上がれるように智花に手を差し伸べる。

 

 「ひっ……」


 血を浴び、変化した練に恐怖したのか智花は反射的に手を払いのける。

 しかし、すぐに自分のしてしまったことに気付き頭を下げた。


 「ご、ごめんなさい」


 「いや、気にしてないよ」


 変化を解いた練は智花に背を向け、言葉を繋げた。

 

 「助けるためとはいえ、俺は君の前で人を殺したんだ……。警戒するのも当たり前だ。君は間違っていない」


 「で、でも……」


 その瞬間、練の脳内に無機質な声が流れ込んだ。


 『鋼神練、獅子尾蝗魔を倒した為、死体の所有権を獲得。死体の破棄、獲得を決定してください』


 無機質な声に一瞬驚くが、冷静になると死体の破棄を念じる。

 すると、足元にあった蝗魔の死体が光の粒子になり数秒後には跡形も無くなっていった。


 「なるほど、破棄を選ぶとこうなるのか……」


 練は自分にしか聞こえないほどの小さな声で呟く。


 「……俺は人を殺したんだよな。くそっ」


 練は目の前の光の粒子を見て、自分が人を殺したことを再認識する。

 練とて別に蝗魔を好き好んで殺したわけではない。

 しかし、状況が状況であり練に戦う他に選択肢がなかったのだ。

 けども頭のなかでは他に手がなかったのか考えてしまうのだ。


 「天と…………ッ!?」


 智花に話し掛けようと振り向いた瞬間、練の視界が歪み、体から力が抜けていく。

 力が入らなくなった体は振り向いた勢いそのままにバランスを崩し倒れていく。


 「鋼神さん!?」


 智花の声も虚しく、練はそのまま意識を手放した。

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