一章~アンノウンとゴートの神様講座?~
練が蝗魔と交戦している一方、アンノウンは練達を集めたときの空間におり、そのそばにはゴートが控えていた。
二人の前には各参加者の戦闘が映る鏡のようなものがいくつもあり、そのなかには練と蝗魔の戦いも映されている。
「主様、参加者が続々と戦闘を初めましたね。まったく大半のものが戦いを嫌うので精神操作に時間がかかってしまいました」
「お疲れ様、ゴート。お陰で滞りなくゲームを進行することができたよ。人間……特にあの子達の人種は同族殺しに嫌悪をするから、ゲーム開始前に精神操作しないといつまでも膠着状態が続くとこだったよ」
天使なような笑顔を見せながらえげつないこと言うアンノウン。
ゴートはアンノウンの言葉がとても嬉しかったのか誇らしそうに胸を張る。
「えぇ、なので主様の指示で私がバトルフィールドへ転移させた時に精神操作の掛けておきました。高揚による常識の排除。傷つけ殺し合うことへの嫌悪の排除などの付与させてもらいました。……それでも効きにくい方は何人かいたみたいですね」
「仕方ないさ。そういう子はもともと確立した自分を持っているからね。それでも多少の影響を与えているから問題ないさ!」
「おぉ……主様!もったいなきお言葉ありがとうございます!」
ゴートは喜びのあまりメェェーと一鳴きする。
「ははは、喜んでもらえると嬉しいよ。さて、ゴートはここの彼らどう思う?」
アンノウンは練と蝗魔の戦いが映し出された物をみる。
練が智花を助けに入り、蝗魔との交戦を始め、練がパズズの力を解くところを見るとゴートは腕を組み、考える。
「主様、この方……練殿はなぜパズズの病の風の呪縛を解除出来たのでしょうか?彼の持つ須佐之男はそのような力があったのでしょうか?」
ゴートはうんうんと山羊頭を悩ませ、アンノウンに相談する。
「あぁ、君にはあまりそこまで詳しく情報をつめ込んでなかったね。彼の須佐之男は練君達の世界で色々な神との関わりがあるだ。その一つが疫病を司る神である『牛頭天王』。日本の神仏習合における神であり、またインド神話のインドラとも縁ある神なんだ」
神仏習合とは元々外来であった仏教と日本の固有信仰であった神道が混淆し、生まれたとされる宗教現象だである。
習合というのは日本の神仏習合だけではなく、世界各地で様々な政治、民族移動な理由で信仰されていた神がそれにより現地で名を変え、また現地の神と混同一視させることも発生させた。
また習合することで新たな神が生まれることもあり、錬金術の神話的伝承においては知恵の神と伝えられたエジプト神話のトート、ギリシア神話のヘルメス、ローマ神話のメルクリウスという別の神格が同一視されて『ヘルメス・トリスメギストス(三重に偉大なヘルメス)』という神が生まれる例などもあった。
同一視される例としてはギリシャ神話のアテナとローマ神話のミネルヴァ等があげられる。
また習合した神は似たような来歴、力を司っている。
須佐之男と牛頭天王の類似点もいくつかあり、その一つは須佐之男は『備後国風土記』において武塔神と別の呼び名があり、牛頭天王は『伊呂波字類抄』において武塔天神と呼ばれている。
他にも伝えられているのは御子、王子の数やいくつかの伝承がある。
『祇園牛頭天王御縁起』に記される蘇民将来伝説では、蘇民将来を災難から救った神は武塔天神(牛頭天王)とされ、『備後国風土記』に記される蘇民将来伝説では、蘇民将来を災難から救った武塔神は自ら「スサノオ」と名乗るなど似たような伝承があった。
また須佐之男はインドラとも似たような神格、来歴を持っている。
双方ともに嵐を司る神であり、勇敢で寛大だが粗暴な性格のせいで天界、高天ヶ原を追放され、大蛇ヴリドラ、八岐大蛇を打ち倒すなど特性を持っていた。
「なるほど、彼の体から出る雷はインドラ由来のもの……ですが牛頭天王も須佐之男も行疫神であるなら治すのは本来の能力としては逆なのでは?」
アンノウンの説明を聞いたゴートが首を傾げながら聞く。
行疫神とは病を流行らせる神であり牛頭天王と須佐之男はこの特性を持っていた。
「それはね。疫病を操れるなら流行らせるのも治すのも思いのままさ」
「ほう、人間達の言う神とは様々なのですね。まぁ、本物である主様の足元にも及びませんが!」
ゴートがフンフンと鼻をならして自慢するように言う。
それに対してアンノウンはそんな様子のゴートを見て苦笑しながら、視線を映像に戻す。
(力の覚醒が思ったより早い……さて、彼はどこまで進めるのかな?)
アンノウンは不敵な笑顔を見せ、映像の中の練を見ていた。