一章~能力確認と逃げる少女~
「……ここは?」
練は周囲を見渡すが近くに人影はなく、部屋の端まで歩き窓から外を見ると地上より少し高い所から見ている景色が見えた。
安全を確認した練は部屋の中心に戻り、少し考える。
「どうやら都市エリア内にある廃墟の2階に飛ばされたみたいだな……あぁ、そういえば能力の確認があったな」
練はポケットに入っているプレートを取り出し、再び情報を表示させる。
「これってもう少し調べれないのか?」
そういいながら練はプレートを擦ったり、タッチしたり色々といじってみる。
そしてスサノオの項を押してみると、別の情報が表示される。
『アクティブスキル・十束の剣(new)、剣技(new)、パッシブスキル・剛力(new)』
「十束の剣……確か日本神話に出てくる刀だよな?」
十束の剣の項目を押してみると空中に一本の刀が出現し、練は落とさないように慌てキャッチする。
「おっと、これが十束の剣か……ふっ!」
鞘から刀身を抜いて目の前のなにもない空間に一閃。
「これなら……」
刀の振るう感触に練は頬をほころばせた。
練はとある理由で剣術を習っており、その経験から刀を振るう姿は様になっている。
そして練は気づいてはいなかったが、練の経験とスキルの剣技が合わせることにより補正が掛かり、動きに最適化されていたのだ。
「パッシブってことは勝手に発動してるんだよな?」
刀を鞘に戻し、腰のベルトに刀を差し込み帯刀すると、練は床に落ちていたコンクリートの破片を拾い握り締める。
するとコンクリートはまるで豆腐のように脆く簡単には砕けてしまう。
「これは凄いな……」
苦笑いしながら手の内で粉々になったコンクリートの残骸を見る。
「そういえばさっきの女の子……天鳥だったか?あの様子は心配だな」
先程の少女の姿が脳裏によぎる。
あの怯えていた少女がこのデスゲームで生き残れるように思えなかった。
「これもなにかの縁だし、探して共同戦線を張ろうか。」
「きゃあぁー!!」
練がそういいなが部屋の外へ出ようとすると外から女性の悲鳴が聞こえる。
その声を聞き練は慌てて窓際にいき、外を見渡す。
すると少し離れたところで、今しがた考えていた智花がなにかに追われていた。
追うものの姿は、練や智花と同じくらいの男。
だがその姿は半ば異形と化していた。
頭部からは一対の角、獅子の腕、二対の翼に巨大な蠍の尾を持つ男がにやにやとしながら追い掛けていた。
「早速か。くそっ!」
練は慌てて部屋を飛び出した。
ーーーーーー・ーーーーーー
一方その頃、智花は後ろから来る男から必死に逃げていた。
「おーい、待てよー。とっとと止まってくれれば、俺が楽しんだ後に楽に殺してやるよー」
後ろから追い掛ける男はまるで狩りを楽しむような顔で智花をみていた。
「っ……」
男の言葉に智花は泣きそうになりながら逃げる速度をあげる。
しかし、男の身体能力も上がっているのか二人の距離は縮まる一方だった。
「おいおい、お前も能力を貰ってるんだろぉ?さっさと使えよぉ?それともよっぽどのカス能力なのかぁ?」
遂に路地にまで智花を追い詰めた男は下卑た笑いをしたまま近寄る。
「い、いや……」
地面にへたり込み、智花は目に大粒の涙を溜める。
「おっ、その顔なかなかそそる表情してるじゃねぇか。俺はそんな趣味はなかったが……これはいいな」
男は恐怖に支配され怯えている智花に興奮したように息を荒げ、ジリジリと詰め寄る。
すると男の足元に小石が転がる。
「あぁ?」
男は後ろを振り向くが誰もおらず、拍子抜けしたとばかりにもう一度智花の方を向こうとした瞬間、物陰からなにかが飛び出し男の首に目掛け攻撃を繰り出す。
「うおぉ!?」
男は慌てて蠍の尾と両腕でガードし、ガキンガキンとまるで鋼鉄同士がぶつかったような音が路地の中で反響する。
「誰だ!」
男は蠍の尾を高くかかげ襲ってきた人物に先端の毒針をぶつけようとするが、その人物はその攻撃をヒラリと回避し男の横を駆け抜け、智花を守るように立ちはだかった。
「なっ!?」
驚く男をよそにその人物は智花の手を差し伸べる。
「遅れてごめん。怪我はないか?」
智花を安心させようと少しぎこちない笑顔を見せる少年を智花は知っていた。
このデスゲームが始まる寸前、ほんの少し話しただけだが知り合った少年を……。
「鋼神さん!!」