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青い花

来週は一週間連続更新の予定です

 時間は巻き戻って前日。時刻的には如月が電話によって御劔への追求を断念してから約三十分後のことである。

 電話で呼び出された如月はつい先程起こった血鬼の暴走事件の現場へと再び足を運んでいた。もちろん、事件というだけあって既に警察や吸血者専門の捜査官などが数十名掛かりで操作をしており、そこに中学の制服を着た如月はとても目立っていた。

 されど、呼ばれたという大義名分がある以上、たとえ浮いていようがなんだろうが如月には事件現場にいなければいけないわけで。少しだけ居心地悪そうな顔で如月は呼び出した張本人を待っていた。


「お待たせしました。如月捜査官(・・・)


 如月を呼び出したのは小太りの中年男性だった。そして、その男性の声が話しかけるには少々大きいもので、如月の近くで適当にサボっていたその他捜査官たちが一斉に仕事を再開した。

 その実、サボりをかましていた捜査官に仕事をさせるために声を上げたのだが、まんまと術中に嵌った部下たちを見て中年男性はポケットに入っていたハンカチでにじみ出た汗を拭きながら笑った。

 その様子の一部始終を見た如月は、本当に大人というのは、などと。そんな風に思いつつも、早速呼び出された理由――すなわち、血鬼の暴走事件の詳細な情報の開示を要求する。


「それで、先の事件ですが」

「ええ、わかっています。詳細資料は下宿先に直接送信します。データ資料ですら未だ出来上がっていないので、口頭でわかっている範囲のことをお伝えしますが、いいですか?」

「了解しました。それで?」

「はい。まず、残留魔力から血鬼は意図的に暴走したものであるのは間違いないです。タイプは牛。これから該当者は絞れますが、おそらくは……」

「おそらく? 絞れているのなら問題はないんじゃないんですか?」

「いえ……私の記憶違いでなければ、ですが。この島に牛の形状を持つ血鬼は存在しないはずなんですよ」

「……はい?」


 如月はこの島に来てまだ時間が浅い。それ故に、目の前の中年男性の、血鬼のタイプ別に吸血者を覚えているような発言に驚きが隠せなかった。

 通常、どんなに優秀な警察官であっても、誰がどんな血鬼を飼いならしているかなどは覚えてはいない。けれど、目の前の警察官はまるで誰も覚えていないであろう情報を覚えているかのような口で話したのだ。流石の如月でもそれを聞いて驚かないわけがない。

 まさか、と。如月は真偽を確かめるべく事件とは関係のないことを聞く。


「もしかして、この島の吸血者の所有する血鬼をすべて覚えているんですか?」

「……? ええ、まあ。それが?」

「い、いえ……では、続きをお願いします」


 それが普通ではないのか、というような顔で返されてしまって如月としては何も言えない雰囲気になり話の続きを要求する。

 報告の続きとしては、被害者は多少なりとも存在したが奇跡的に負傷者はいなかったこと。また、血鬼の使用者の特定が難航していることなど、負傷者ゼロ以外に朗報はなかった。それから本部に戻り鑑識などと協力して捜査をしていくとも聞いたが、これまでの状況証拠を見る限りあまり期待できるものではないだろうと如月は見て、警察官と一旦別れた。

 とりあえず、現場を見ておこうと思ってあまり広くもない範囲を歩いていると、ふと地面に落ちているものに目が行った。何気なくそれに近づいて見てみると、そこには青い花弁をもつ花が落ちていたのだ。


「青い……花?」


 でも、どうしてこんなところに青い花が、と。不思議にも思ったが、周りに瓦礫などが落ちていることから、きっと暴れた血鬼が花屋の花を吹き飛ばしてきたのだろうと考えて他にも引っかかるところがないかと足を進める。

 そうして、いろいろなところを見て回ったがすでに回収されていった後だったので、これといって目ぼしいものはなかった。これ以上は警察の結果を待つこととし、如月は現場を後にした。


 その途中。例の御劔が素手で血鬼を機能停止まで追い込んだ場所に着き、自然と視線がその場で固まってしまう。その様子を見た中年の警察官が声をかけてきた。


「どうかされましたか?」

「いえ……あの、ただの人間が――吸血者以外の生命体が素手で血鬼を無力化できると思いますか?」

「はい……? 私個人の意見でいいのでしたら。答えはノーでしょうな。未知の地球外生命体だったら、まあ有り得る話かもしれませんけど。基本的に血鬼を無力化できるのは殺神兵器を持つものか、同格以上の吸血者だけですからね。もしも、そんな生命体が地球にいるのなら、我々人類は滅亡してしまいますよ」


 なんて、冗談めいて笑う警察官を見つめて、如月は笑っていない目でそうですよね、と顎に手を当てて御劔の正体は何なのかと考えてしまう。考えるが、それに答えは付けられない。もちろん、それは御劔が吸血者でなければという場合の答えだ。その逆であれば、あるいは……。

 そこまで思考して如月は首を振る。何を考えたところでそれが正しいかなど、御劔の硬い口が開かなければならないことだったからだ。それならばいっそ、本人が口を割るような作戦を考えるほうが良いのではないか。

 どちらも難しそうだ、なんて考察が終わると、如月は一気に嫌気が差した。


「どうかされましたか、如月捜査官?」

「いえ、それではあとは任せます。詳しいことが分かり次第、私の方に報告をいただけますか」

「分かりました。それでは」


 難解を極めるこの事件。如月は面倒なことに巻き込まれたな、とそう思うのだった。

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