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異世界で釣りをしていたら魔王と釣り友達になった  作者: sillin
第二投目 魔王と勇者の釣り勝負
11/26

11 魔王と勇者の釣り勝負②

 やがて潮位は満潮を迎え、潮の流れがストップした。

 こうなると魚の方も休憩で、ぱったり釣れなくなる。潮が反転して下がりだすまでブレイクタイムだ。

 おれはいまのうちに、気になっていることを聞いてみることにした。


「なあ、なんで勝負にこだわってるんだ? 儀式なんだろ」


「それを聞く? いま」


 くすっと笑ったライカの横顔が寂しそうに見えて、おれはあわてた。


「いや言いたくないなら――」


「あたし落ちこぼれなんだ」遮るように答えた。「なにをやっても駄目だった。体力があるだけの、運動バカでさ」


「……剣の腕はたしかだろ」


「でも、見ててどうだったかな。あたしたちの勝負。エルって、剣術の修行なんかしたことないはずなんだよ」


「マジか……」


 おれの目には互角に戦って、わずかの差でライカが勝ったように見えた。あれでエルが素人だって?


「エルに逆立ちしたって勝てっこないの、わかってるよ。だけどね、悔しいのは……負けようとしてくれているのに、それでも勝てないことなんだ」


「? おれには全力で殺しにかかってるように見えたけど……」あの爆炎はこっちの世界なら消防車がすっとんでくるレベルだ。


「最後はいつも剣の勝負に持ち込んでくる。あたしの得意分野……って言うか、それしかできない勝負にね。本当に相手をしたくないなら、全部魔法で片づけたらいいのに」


「……そういやそうか」


「迷ってるんだと思う。お父さんとお母さんのこと、吹っ切るかどうか。あたしがその迷いを断ち切ってあげないといけないのに、力が足りなくてできないんだ……!」


 ひゅっと竿先が風切り音を上げる。

 内心の悔しさが空を切ったように。


 エルが葛藤しているのはたしかだ。

 どんな事情かはわからないけど、前に進みたいのに進めない。そんな泥沼の状態であがいているように、あの時のエルの表情は見えた。

 ライカは自分のためだけじゃない、そんなエルの力になりたくて、戦い続けていたのだ。


「この勝負、エルからのメッセージだと思う。対等な立場に立って、正々堂々打ち負かしてくれって。だから負けられない。かならず勝つんだ」


 負けられない勝負……か。

 でもな。

 2人とも不器用だから、きっと気が付かないんだろうな。

 そんなことしなくたって、いつか前に進める方法があること。

 釣りの勝負とは関係ないから、おれはアドバイスすることにした。


「なってやれよ、友達に」


「え?」


「勇者と魔王じゃ、ぶつかり合うしかないだろうけどさ。そんな肩書は外して……ライカとエルなら、友達として助け合えるんじゃないか?」


「…………」


「なれるはずだ。おれはなったよ。エルと友達に。異世界の、それも初めて会った相手だけど、なれたんだ。だってさ――」ちょっとわざとらしく、手を広げる。


「おれたちは、釣りが好きだ。海や川や湖に魚がいて、釣りって言う共通言語があったら、あとはほんのちょっと進むだけだった。世界すら関係なかったんだ。何度も戦ってきた2人なら簡単だろ?」


「……トモダチ、か」


ライカの顔つきはすこし緩んだように見える。


「そうだね。そんな発想をしないといけなかったのかも」


 声色は穏やかだ。だけど――。


「だけど、この勝負には勝つ! ぜったい負けるもんか。あたしは不器用なんだ。勝って、それで堂々と、友達になろうって言ってやる!」


 気合を込めて、戻ってきたルアーを再度投入した。


「ははっ。その方が、らしいかもな。じゃあ目指すはメーターオーバーだ!」


「めーたーおーばー?」


「超でかいやつを釣るってこと。がんばれ!」


「おーう! キミって不思議な人だね」


 不思議? そんなことは初めて言われた。

 憑き物が落ちたようなライカに向けて、


「どうだろ、みんなおれのことは普通としか言わないぜ」


「ふふっ、へんなの。……あっ!?」


「どうした?」


「いま、当たりがあったかも。カツって」


「いいぞ、よし、続けろ!」


 タモを構える。いつの間にか引き潮に変わっていて、潮が動き始めていた。

 満潮から潮が反転する、わずかの時間――河と海の水が混じり合うここは、特級のポイントに変貌する。


 あとは魚が食ってくるか。

 もし食ってきたとして、うまく針にかかるか。

 竿がシーバス専用ロッドなら、カス当たりでも先端のしなりなんかで口の中にルアーを送り込んでくれたりする。

 しかしライカが使っているのは異世界の、なんだか硬そうな竿。

 腕と――運が必要だ。


「釣ったぞー!」


 しかし先に響いたのは、エルの声だった。

 振り向いたら、マイケルが漁師みたいに魚を掲げて、となりでエルがはしゃいでいた。

 河にシーバスが入っているのだ。


「大きい?」


 ライカは後方を確認もせず、集中して投げ続けていた。

 おれは目測で大きさを読み取る。マイケルの身長がでかいから魚が小さく見えるけど、それを差し引いてもさっきと同じくらいのシーバスだった。

 河に入っているが、それは小型の群れが入っているだけのようだ。


「いや、そこまででもない」


「っ!!」


 こうやってしゃべっている間にも当たりはあるのか、ライカは竿を立てて合わせを入れるが、針がかりはしないようだった。

 やはり道具が悪いのか?

 おれはじりじりした。


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