表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で釣りをしていたら魔王と釣り友達になった  作者: sillin
第一投目 釣りと異世界
1/26

1 普通のナガシン 異世界へいく

 おれの名前は長崎真也。友達にはナガシンって呼ばれてる。この春から高校二年生だ。


 市内の県立高校に通っていて、学業普通、スポーツ普通、容姿も普通。まるで両親が普通免許を添えて産んだみたいに、どこにでもいる感じの学生をしている。

 

 で、突然だけどみんな、なにか不満ってないだろうか?


 嫌なこととか、むかつくこととか、そんなんじゃなくて。

 字面のとおり満たされず、満足できないって意味。


 3秒以内に思い浮かばなかった人はしあわせだ。

 あとでいろいろ思いつくんだろうけどたぶんそれ、不満でもなんでもないから。ちゃんと満たされてる。おめでとう、ハッピーライフ。


 おれには不満がある。

 0.3秒で答えられる不満だ。


 それはなにかって?

 それはね……。


「釣れねぇーーーーーーーっ!!」


 おれは絶叫した。

 海へ向かって。

 夕日へ向かって。

 だれもいない堤防の突端から。


 絶叫はこだますることもなく、海へ空へ吸い込まれていく。

 十分に吸い込んだ息を声の形で出力して、最後の一滴まで出し切った。

 海鳥しか聞いていないけどそれでもいい。

 いや、だれかに聞かれてたら恥ずかしくて死ねる。

 だけどこれはもう、叫ばずにはいられないのだ。


「十連敗ボウズだと……」


 ぜえぜえと息を切らしながら、おれはがっくりとうなだれる。

 手にした釣り竿から、だらりと糸が垂れた。


 なんなんだよいったい。

 貴重な春休みを消費して、よっしゃ釣り三昧だとタックルも新調して。ちなみに小遣いがぜんぶ吹っ飛んだよ。そのくらいの気合は入っていたんだ。


 それなのにまったく一匹も釣れないとは……。


 そう、おれの不満は魚が釣れないってこと。

 そして普通免許の権化たるこのナガシン、ひとつだけ人と違うことがあるとすれば、無類の釣り好きってことだ。

 釣れないけど……。


「あーあ。まじかよ」


 トホホな気分で片づけをはじめる。こんなみじめな思いはないんじゃないか。

 この広い海の中、たくさんの魚が泳いでいるんだろう。

 その中の一匹くらい、おれのルアーにぱくっと食らいついてもいいだろうに。


 それともなにか。

 おれの投げているルアーって、魚からしたら、なんかゴミが流れてきてるとしか思われていないんじゃ……。


 いやいや、頭を振ってその考えを捨てる。

 それはマジで危険な思考だから。心が折れる本気で。


「やめよやめよ。明日から学校だ」


 始業式だけだからまた夕方から釣りができる。

 久しぶりに会う友達が遊びに誘ってきたら……考えよう。

 カラオケとか、ゲームするくらいなら、いっしょに釣りをしたいところだけど。

 だれもやらないだよなぁ。


 おれには釣り友達がひとりもいない。

 不満とまで言うつもりはないけど、こんなにボウズを食らったあと、慰めあう仲間もいないのは、孤独だ。


「はあ……。こんな釣れない世界から、おれをどっか連れ出してほしい」


 たくさん魚が釣れて、それを喜び合う理想の世界が、どこかにないだろうか。


 上を向いて溜息を吐く。

 夕暮れが終わり、夜の幕が下りてこようとする空。

 キラリと、なにかが光った。


(……流れ星か)


 スゥーっと、白い線を引いて流れ星が落ちていく。

 白い線がチョークみたいに空へ残った。


(あれっ?)


 落書きみたいに流れ星の軌跡が、そのまま描かれていた。

 消えない。

 どころか……。

 それがメリメリと音を立てながら、まるでポテチの袋を横に開くみたいに裂けていく。


「えっ、えっ、ええっ!?」


 おれは勘違いしていた。

 流れ星みたいに空の高いところで線が引かれたと思っていた。

 裂けていく空間は、おれの頭上一メートルほどの位置だったのだ。 


 ふわっと身体が浮いた。

 突然の無重力に目まいがして、とにかくじたばたするしかできない。


「ちょ、ちょっと待って、なにが起きてるの!」


 それはだれも答えてくれない。

 次の瞬間、おれと釣り道具たちは、空間の裂け目の中へ吸い込まれていった……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ