新しい季節(その4)
‘どこまで続くんだろう・・・・’
延々と続く急勾配になんだか頭が朦朧としてくる。先を走るさつきちゃんは時折振り返って僕のペースを確認する。
「かおるくん、後もう少しで勾配が緩くなるから頑張って」
そう声をかけるさつきちゃんも額に汗を滲ませ、息が上がっている。けれども、さつきちゃんは本当に楽しそうに走る。振り返るその顔は常に笑顔だった。
確かに、素晴らしい、まさしく自然と一体となって走る美しいコースだ。何というか、‘人間用の、けもの道’といった感じで、自分が狸かなにか小動物になって野山を駆け巡るようなユーモラスな楽しさも感じる。ただ、トレーニングのためのコースとしては度を過ぎるかどうかといった境目のぎりぎりのレベルだと思う。
鳥のさえずりがかえって静けさを深め、木漏れ日がさつきちゃんの背中にまだら模様の光と影を作っている。今日は現代の5月1日、という認識も曖昧になり、過去と未来とが混在するのが当然のような気すらしてくる、そんな場所だ。僕のおじいちゃん・おばあちゃんやさつきちゃんのおばあちゃん、古い木造の家のおばあちゃん、そして掛け軸のあの人。今この瞬間、過去に別れたはずの人たちも山道のどこかを歩いているんじゃないだろうかと想像する。
「かおるくん、あそこが最後の難関。頑張ろ!」
さつきちゃんが視線を向けた先に、石段が見えて来た。