新しい季節(その1)
高校2年生のスタートは本当に順調だった。高1の終業式に皆で告白し合った今後の目標も意識しながら、学業にも部活にもそれ以外の17歳・16歳の人生の語らいにも、とても朗らかに取り組めた。
陸上部走り幅跳びチームは3年生でチームリーダーとなった武田さんをはじめ、2年生は相変わらず僕1人だけだけれども、新1年生が3人加わり、毎日賑やかにジャンプしている。
なんだかゴールデンウイークに入るのが惜しいくらいの充実した日々だった。それでもやはり待ち遠しかった5月1日の朝を迎えると、僕は目覚まし時計が鳴る直前にぱっと起きた。
お母さんはさつきちゃんのおばあちゃんのお通夜以来、さつきちゃんのことがいたく気に入ったようだ。今時珍しい子だ、としきりに言っている。ただ、そのさつきちゃんとは言え、僕が女の子と2人だけで遠出するという、今まであり得なかったことに戸惑いはあるようだ。僕はあくまでも‘自主トレ系マラソン部’の活動であり、純粋にジョギングをしに行くのだ、と少しでも安心させようと努力した。
鷹井駅で待ち合わせて僕とさつきちゃんは始発電車に乗り込んだ。白井駅までは去年のロードレースの時と同じ行程だ。白井駅からはトロッコ電車に乗り換えた。朝早い時間だったけれども、観光客もぱらぱらと見える。僕とさつきちゃんはトロッコ電車の座席に並んで座り、窓も何もないむき出しの車両から下に見える美しい峡谷を眺めた。
‘連れてって’と一応お願いされたのだから、と、僕はちょっと恰好をつけようとネットで下調べをしていた。ジョギングコースの話をあれこれとさつきちゃんに教えるつもりで話していたのだが、
「かおるくん、あんまり喋ると疲れるよ」
突然、さつきちゃんからそう言われ、え、僕、何かさつきちゃんの気に障ることでもしたかな、と一瞬焦った。僕の狼狽した顔を見てさつきちゃんはにっこり笑った。
「ごめんね、ちょっとぞんざいな言い方で。でも、本当に電車の中では極力体力を温存しておいた方がいいと思うから・・・」
なんだか、プロっぽい発言だ。確かにさつきちゃんほどのランナーならばジョギングとはいえ、万全の状態で今日のコースに臨みたいということなのかもしれないけれども。