桜の花、舞い上がる(その3)
「かおるちゃん、嫌かもしれないけど、同窓会行ってみない?
久木田も去年バイクで事故ってから色々とあったみたいだし・・・
それに、クラスの中に陸上部の子達も何人かいたよね?久しぶりじゃない・・・」
太一がそう言ってから僕がしばらく考え込んでいると、思わぬ所から声が掛かった。さつきちゃんだ。
「かおるくん、わたしも出たらいいと思う。その久木田くんや岡崎くんは確かに怖いかもしれないけど、それでも同窓会をやろうっ、て話が出てくるのはお互いに‘会いたいな’って思ってる人がいっぱいいるからだと思うよ。陸上部だった人と高校での活動報告をしあうのもきっと楽しいよ・・・・」
不思議だが、さつきちゃんがそういうとなんだか本当に楽しそうな気がしてくる。僕は迷いが吹っ切れたような気分になった。
「そうだね、出てみるよ。あれこれ悩んでてごめん。ゴールデンウイークの後半だったよね?」
太一が手帳で確認する。
「うん・・・5月3日だね。まあ、一緒に行ってみようよ」
そこまで話が来たところでさつきちゃんが、あ、と軽く声を出した。
「じゃあ、かおるくんはゴールデンウイークは結構忙しいんだね?」
僕が、ん?、という反応をしている間に、さっきと同様、脇坂さんがフォローを入れる。
「小田くん、ひなちゃんの誕生日がいつか、知ってるんでしょ?」
ああ、そうだった。
「うん、知ってる・・・5月1日だよね。さつきちゃん、今日のお礼じゃないけど、何か欲しいものある?女の子にプレゼントしたことなんてないから、直接聞いてしまうんだけど」
さつきちゃんは鞄から何やらパンフレットのようなものを取り出した。
「プレゼントじゃなくて、もしスケジュールが空いてたら連れて行って欲しい所があるんだけど、どう?」
僕はパンフレットを受け取って眺めてみた。
‘白井峡谷、ジョギングコース
峡谷沿いの山道を、初夏の緑の中、ゆったりとジョギングしませんか?
初級~上級まで、コース設定ができます。
トロッコ電車の欅が原駅下車。クラブハウスに、更衣室・シャワーもあります。‘
え、これって、もしかして俗に言う‘デート’の誘いなのだろうか?惚れた腫れたを排除する間柄だと分かっていながらも僕は淡い期待を抱いた。けれども、次の瞬間、完全な勘違いであることを告げられた。
「‘自主トレ系マラソン部’の活動の一環、と思ったんだけど。もし、体を動かすのが嫌じゃなかったら、みんなもどうかな?」
さつきちゃんの問いかけに対する反応はそれぞれバラバラだった。僕は、そりゃそうだよね、‘部活’だよね、と落胆した。耕太郎はパンフレットの輝くような新緑とトロッコ電車の写真を見て、‘僕行きたい’と口に出しかかっている。太一、遠藤さん、脇坂さんは、顔を見合わせて頷きあい、耕太郎の肩をぽんぽんと叩きながら太一が代表して発言した。
「いや、ちょっとゴールデンウイークにまで走る気分じゃないから。自主トレ系マラソン部の2人に任せるよ。2人で行っておいでよ」
耕太郎はなんだか太一を恨めしそうに見ている。反対に僕はものすごく太一に感謝している。