第四者♯15『遺跡』
中休み期間終了。遺跡編始まります
「では、行くか」
村の入り口にて、軽量の荷物を背負ったユリウスが言った。
場にいるのは全員で四人。本来ならば、エルフであるユリウスとモニカは遺跡に入ることを感じられているが、危険を冒して手伝ってくれることになった。
名目上は、ウィルベルとフリッツの送り迎えのために同行することになっている。
また、探索の期限は一日と定めた。一日経っても何も見つけられなければ、一度引き返す。何事も深追いは禁物だ。
ユリウスに続いて、村から降り久々の地上に足をつける。遺跡はここから二時間ほど歩いたところにあるらしい。まずはそこまで案内をしてもらう。
道中、エルフの二人は悪路にも関わらずスイスイと進んで行く。うねった大樹の根や、ぬかるんだ泥。人間二人はいちいち足を取られながら、ゆっくりと進むことしかできない。
休憩を挟みながら、森を進む。途中、また巨大ムカデに出くわしたりもしたが、ユリウスが手際よく追い払ってくれた。
そうして進むこと三時間、目的の遺跡は唐突に現れた。半ば土や木に飲み込まれてはいるが、たしかに石造りの入り口の様なものがある。森歩きに不慣れな二人を連れてのことだから、当初の予定よりも時間が掛かってしまったが、なんとか辿り着くことができた。
「うひゃ〜、ボロボロだな!」
「入り口は……大丈夫だな。入れそうだ」
蔦が這い回ってはいるが、内部は崩落などはしていないようだ。だが、問題は暗闇だ。当然日光は入らず、照明もないので少し先を見通すこともできない。松明は持ってきているが、どこまで持つか分からない。
「ウィルベル、頼む」
まあここまでは想定の範囲内だ。予定通り、ウィルベルの魔術で光を確保しながら進むことにする。だが、彼女の魔力も無限ではない。どちらにせよ時間制限があることは念頭に置いておかなければならない。
「……ウィルベル?」
反応が無かったので、彼女の方を振り向く。ウィルベルは遺跡内部の壁を指でなぞって、何か調べていた。
「あっ、ごめん。でもこれ……」
指の先を見ると、その壁面には溝が走っていた。フリッツには唯のレリーフにしか見えないが、ウィルベルには思うところがあるらしい。
「これ……魔法陣になってる。しかも見たことない回路」
「ということは、魔力を流せば何かが起こるということか」
魔術にも知識のあるらしいユリウスが言った。それを受けて、ウィルベルが提案する。
「罠かもしれないけど、やってみる?」
「そうしよう。こんな入ってすぐのところに罠なんて作らない……はずだし」
その言葉に、場にいる全員が頷いた。それを確かめてから、ウィルベルが溝に手のひらを当てる。
その手から青い魔力が溢れ、溝に入った瞬間。ぼやけた魔力は一筋の光となって、溝を走る。あまりに一瞬の出来事に呆然とする合間もなく、光は通路全体に広がって、奥の方まで照らしだした。
ウィルベルが手を離しても光は失われず、流れの中で強弱をつけながら輝いている。
「これは……無限回路!?」
この現象を起こしたウィルベルが一番驚いていた。壁に走る光を食い入るように見つめて、何事か呟いている。そのほとんどはフリッツには理解できない言葉だったが、辛うじて言いたいことだけは理解できた。それによると、壁の溝は魔力を無限に増幅し、その状態を維持し続けるのだという。
ともかく、これで明かりの心配をする必要は無くなった。気を取り直して、通路を進んでいく。フリッツを先頭に、ウィルベル、モニカ、ユリウスが四角形になって続く。
横幅は五メートルぐらいで天井も高く、閉塞感や窮屈さは感じない。外観とは違い植物の侵食などもなく、おそらくは造られた当時の姿を保っている。
何千年の時を経ても朽ちない遺跡に、先ほどの壁の細工。これを造ったのが伝説の龍だということにも、いよいよ信憑性が出てきた。
そうして特に異常もなく十分ほど歩くと、初めての異物に遭遇した。通路を塞ぐ大きな二枚扉。ここまで分かれ道は無かったから、先に進むにはこれを開くしかない。
だが、単純に力で開けるようなものではないことは一目見たときに分かった。扉には光の筋が集まっていて、本来なら錠前が存在する部分に、奇妙なパズルのようなものがあったからだ。
「せ……せい……? 何語なんだこれ」
パズルの少し上には、見慣れない文字で何かしらが書いてある。普段使う文字と似ているが、読むことはできない。
「『正道を示せ』……古アスター語で書かれてる。今この大陸で使われてる文字のベースになったものね。使われていたのは四千年くらい前」
ウィルベルがひょいと覗き込んで、その文字を読みあげる。ついでに解説まで加えてくれた。
「四千……でも、この遺跡が造られたときって考えるとそれくらいでもおかしくないか」
「この仕掛けを解かなければならないようだな」
「あたし絶対わかんないな〜」
『正道を示せ』という文言は、いわゆるヒントというやつだろう。肝心のパズルの部分を見ると、案外シンプルな見た目をしていた。
まず中央には鍵が四つ、横を向いて縦に並べられている。鍵の上下左右には鍵穴が空いていた。四つの鍵を四つの鍵穴へ。正しい組み合わせで入れろということだろう。
少し考えてみたが、ヒントが無さすぎてお手上げだ。時間があれば全通り確かめるということもできるかもしれないが、それはちょっと違うだろう。それに、一度間違えれば失格扱いになってしまうかもしれない。
ここは大人しくウィルベルに任せることにする。
「どう? 分かりそうか?」
「……うん。分かったと思う」
考慮時間はほぼゼロ。一目見ただけで解いてしまったようだ。ウィルベルの頭の回転が速すぎるのか、フリッツがアホなだけなのか。
ウィルベルは一番上の鍵を下の鍵穴へ。二番目を右へ。三番目を左へ。一番下の鍵を上の鍵穴へ差し込んだ。
四本目の鍵を差し込んだ瞬間、ガチャっと錠が外れた音がして扉が開き始めた。パズルには正解したようだ。
「おお〜、すげー!」
「どういう仕組みだったんだ?」
ホッとしているウィルベルに問いかける。彼女はそれに微笑みながら答えた。
「四つの鍵は魔術の四元素で、鍵の並び順は元素の軽さ順。鍵穴はそれぞれ東西南北を表していて、『正道を示せ』っていうのは元素ごとの正しい方位に差し込めってこと……だね」
ウィルベルはつらつらと謎解きの解説をする。聞く限り難しいパズルではなかったようだが、魔術に関する知識がない者には解きようがないものではないだろうか。壁の細工といい、この遺跡は魔術師向けに造られたものなのかもしれない。
扉の先はまた同じ通路になっていた。他に進む道もないので、前進あるのみだ。
視界に変わり映えはしないが、徐々に空気が冷えてきていることを感じた。地上からどんどん離れていっているのだろう。
何事もないまま、通路を進む。次の異質は、すぐに現れた。通路の先に、光が見えてきたのだ。
長い長い通路の終わり、そこはドームになっていた。端から端までは、およそ五十メートルほどか。地下にこれほど広大な空間があるとは信じられない。床と天井が発光し、ドーム中が照らされている。その光量は通路とは比較にならず、まるで真昼間のようだ。
しかし、最も目を引くのはそれらではない。ドームの中央に鎮座する石像だ。跪く巨軀の戦士を模した像、全ての光の筋がそれに集まっていた。
フリッツ達全員がドームに足を踏み入れると、その石像が軋みを上げながら首を持ち上げる。相貌に光はなく、石像ゆえに表情もない。だが、その像が敵意を持っていることは肌で感じることができた。
石像は立ち上がり、側に刺さっていた斧槍を引き抜く。それを床に立て、片足を一歩引いて上体を傾けた。
古くから戦士に伝わる——開戦礼だ。




