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龍姫の叙事詩  作者: 桜庭楽
第四章 ヴァイスランドの英雄達
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第四章♯13『懊悩の夜』

投稿遅れて申し訳ないですm(__)m

 モニカも連れ立って、集落を進む。話を聞くに、モニカとユリウスは幼馴染らしい。モニカは村を出て放浪を、ユリウスは村に残って戦士になる道を選んだのだという。


「セーナはもうすっかり村に馴染んだよ」


 途中セーナの話題になって、モニカがそう言った。

 セーナは引っ込み思案なところがあるから、見知らぬ人に囲まれてうまくやっていけるか心配をしていたが、その心配は杞憂だったろうだ。


「そうか〜。後で会わせてくれよ」


「おう! セーナも喜ぶよ」


 他には央都で起きた邪龍襲撃の話をした。そこからフリッツ達がどういう経緯でここを訪れることになったかもだ。一通り話し終えると、ユリウスが口を開いた。


「南の空が赤く燃えたときに、まさかそんなことになっていたとは」


「ここからも見えたの?」


 ユリウスの呟きに、ウィルベルが問いかける。ユリウスは深く頷いて、当時の状況を語った。


「ああ、空が血のように赤く染まって、子供達は不安がっていたし長老達も凶兆だと騒いでいた」


「あたしは寝てたから見てねーんだよなー」


「あの騒ぎの中で寝ていられる方がおかしいがな……」


 後はとりとめのない会話をたくさんした。モニカとユリウスの幼年期や、カンドレの逸話などを教えてもらったのだ。

 そうして話していくうちに、ユリウスが思った以上に話しやすい人物であるということが分かった。落ち着いていて口数の少ない戦士といった雰囲気があるから、誤解をしてしまっていたようだ。

 彼は、若いエルフのほとんどは人間に対して恨みを抱いていたりはしないし、自分もそのひとりだと言ってくれた。ユリウスの言葉で、フリッツの懸念はひとまず消えたのだった。


「さあ、ここだ。自由に使ってくれて構わない。必要なものがあれば、俺かモニカに言ってくれ」


 案内された先は、村の外れにある空き家だった。村の中心よりは、お互いに気を遣わなくて良い。


「ありがとう、ユリウス」


「気にするな。遺跡に行く時も、俺が案内しよう」


 ユリウスはそう言い残して、彼の仕事に戻っていった。フリッツ達は、とりあえず荷物を空き家に置く。重荷から解放された肩を回すと、バキバキと音がした。伸びをすると、今度は背骨が鳴る。荷物を背負って、一日中森の中を歩いて来たのだ。正直疲労の限界だ。緊張が解けたこともあって、一気に眠たくなってきた。


「セーナもこの時間はもう寝てるだろうし、お前達も今日は休めよ」


「ああ、そうさせてもらうよ」


「ありがとうね、モニカ」


「良いってことよ! それじゃあ、また明日な」


 ユリウスに続いて、モニカも出ていった。

 それを見届けてから、装備を外してベッドに寝そべる。シルクのベッドシーツが冷んやりとしていて気持ちが良い。中に入っているのは羽毛だろうか、体を包み込むように柔らかい。これは光の階のベッドともいい勝負だ。


「エルフの人たち、良い人ばかりだったね」


「ん〜? ああ、そうだな」


「なに、もう眠いの?」


 欠伸を噛み殺したフリッツの適当な相槌に、ウィルベルが振り向いく。彼女の言うとおり、もう眠いのだ。回らない呂律で返事をする。


「あ〜、もう気絶しそう」


「ふふっ……おやすみ」


 そんなフリッツの様子を見て、ウィルベルは笑った。彼女は荷物の整理をしている。ウィルベルも疲れているだろうに、まだ眠らないのだろうか。それ以上は考える余裕もなく、思考が解けていく。


「おやすみ〜」


 なんとかそう言った後は、微睡みを感じる間も無く、すぐに眠りの底へ沈んでいった。どこからか聞こえてくる虫の声が、子守唄のようだった。




 ウィルベルは荷物の整理を終えても、眠る気になれないでいた。相棒のフリッツは即座に眠ってしまった。すぐに眠れる彼の体質が羨ましい。


 このままベッドに入る気にもなれなくて、部屋を出た。肌寒いが、それが今は気持ち良い。


 実のところ、ウィルベルは最近まともに眠れていない。今日だけでなく、ほぼ毎日だ。光の階に泊まった日は、ベッドに入った記憶が無いくらいに熟睡してしまったのだが、それ以降はまともな睡眠はとれていない。


 それもすべて、邪龍についての思案が頭の中を掻き乱すからだった。昼間、動いているときは考えずに済むが、ベッドに入って瞑目すると、嫌でもあの夜のことが浮かんでくる。


 あの日、あの夜。あの邪龍はたしかに呼んだのだ——ウィルベル、と。


 少し離れていたところに倒れていたフリッツには聞こえないような音量ではあったが、確かに言った……と思う。ただの聞き間違いなのかもしへない。それでも、あの声が頭から離れないでいた。


 あの時、邪龍がその気ならウィルベルは死んでいたはずだった。だがあの龍はウィルベルの体を喰い千切ることはなく、瞳を覗き込んできたのだ。その後アルヴィンとギルバートが助けに来て、邪龍は撃退されたが、もし彼らの到着が遅れていたとしてもウィルベルは殺されていなかったと思う。向かい合った邪龍からは、殺意を感じなかったからだ。


 なぜ邪龍は私を殺さなかった? なぜ邪龍は私の名前を呼んだ? なぜ私は……あの龍を救わなければならないと思っている?


 救わなければならない。それが、邪龍と対峙したときの感情だった。殺さなければならないでも、逃げなければならないでもなく、救わなければならない。


 直感的に得たその感情の出所も、自分には分からない。元から分からないことづくしのこの体だが、邪龍との邂逅でもっと分からないことが増えてしまった。考えないようにしようとしても、つい考えてしまうのだ。


 空を見上げると、月が青白く輝いていた。雲はひとつもなく、満天の星空が円形に切り抜かれている。あの星は、散っていった魂なのだという。ウィルベルの両親も、あの中にいるのだろうか。いるのであれば、見守ってくれているのだろうか。両親の顔すら知らないウィルベルにとって、星霜の煌めきだけが両親と自分を繋ぐ絆のように感じられるのだった。


 きっと両親なら、ウィルベルの体に隠されたものを知っている。だが両親はいない。ハーブル先生は「大事な子を私に預けてどこかに行ってしまったのだよ」と言っていた。死んだとは限らないが、ウィルベルはまた直感的に悟っていた。両親はきっともうこの世にいないだろう。


 とすれば、ウィルベルの体の秘密を知っている者はいないことになる。だが、この秘密は一生分からないままなんじゃないかと思いながらも、探求を諦めることはできなかった。だから、万智を誇るとされる古龍を探す旅に出ようと決めた。


 最初にフリッツに話した時には、たしか笑われてしまった。だがそれに怒りを感じなかったのは、ウィルベルも古龍の存在を信じきれていなかったからだ。何かに縋っていないと潰れてしまいそうで、手頃な杖を掴んだに過ぎなかったからだ。


 だが今は違う。古龍の存在は紛れもないものだと言われたし、もうすぐそこまで迫ってきている。それに、幻想に縋って生きるのはもうやめた。ウィルベルにはフリッツという相棒がいる。血まみれになりながらもウィルベルの名を叫んだ彼となら、手を取り合って生きていけるかもしれない。


 これはきっと恋ではないのだろうな、と思う。ルクセンの図書館で読んだ恋愛小説の純愛も、ウィルベルにはきっと馴染まない。親の愛を知らない者が、器用に誰かを愛することなんて出来ないのだ。ウィルベルがフリッツに対して抱いている感情をうまく言葉することはできないが、それはフリッツもきっと同じだろう。


 答えを得る日は近い。その答えが、たとえウィルベルの心を砕くようなものでもちゃんと受け止められるだろうか。待ち望みながらも、拒絶していたものへの恐怖で足がすくんでしまいはしないだろうか。


 思考はいつも堂々巡りで、同じ結論に至る。本当はとうに答えは出ているのだ。ただ、それを見つめる勇気が無いだけ。


「往生際が悪いなんて、フリッツにはもう言えないね……」


 独り言は、風に運ばれていく。

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