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龍姫の叙事詩  作者: 桜庭楽
第三章 享楽の都
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第三章♯11『夜明けから』

 ウィルベルは光の翼に関する独白の後、疲れからかすぐに眠ってしまった。


 その日の夜は、念のためフリッツとモニカで交代で睡眠をとりながら、ジン商会の刺客に警戒を続けた。おかげで、少し寝不足だ。


 特に変わったこともなく、一夜明けて、ウィルベルが目を覚ました。窓から差し込む朝日を浴びて、黒い髪がキラキラと輝いている。ウィルベルは手早く髪をまとめて、外出の準備をし始めた。

 その様子をボーッと見ながら、一体今度は何をするつもりなんだと考える。


「フリッツ、ほら起きて」


「……起きてるよ」


 ウィルベルに体を揺すられて、半分寝ていた頭が覚醒する。

 ウィルベルは続いて、ベッドに大の字に寝ているモニカも起こそうとしている。ムニャムニャと何事か呟くモニカから、ウィルベルが布団を剥ぎ取った。


「うわぁ、なんだ敵か!?」


 肌寒さで飛び起きたモニカが寝ぼけ眼でそんなことを言っているが、そんな彼女を意に介さず、ウィルベルが椅子に腰掛け、フリッツたちに向けて話し始めた。


「寝ながら考えてたんだけどね。良い方法を思いついたから、みんなに協力して欲しいの」


「……考えてたって、何を? っていうか寝ながら考えてたってなんなんだ」


 寝起きにも関わらずハキハキとした様子のウィルベルに、ちょっと付いていけない。

 寝ながら考えたって、それは寝てないのと同じではないのか。


「もちろん、ジン商会の奴隷売買を止める方法だよ」


「……それって、昨日のショウショって奴を使うのか?」


 証書が何かよく分かっていない様子のモニカが問う。


「うん。証書も使うけど、それだけじゃない。まずはジャンさんに協力してもらわないと」


「ジャンに? でもあいつ、多分戦えないよ?」


 モニカの言う通りだ。エドガーのような男ならまだしも、単なる新聞屋であろうジャンに腕っ節は期待できないだろう。


「戦うだけがやり方じゃないよ。ジャンさんにはもっと別のことで協力してもらう」


 モニカの発言を緩やかに否定して、ウィルベルが言った。もっと別のことというのは想像が付かないが、ウィルベルには考えがあるらしい。


「よく分からないけど、とりあえずジャンを呼んでみるか」

 

 ジャンがいない場で話が進んでいるが、ジャンに協力を断られる可能性もあるのだ。まずはこの場に来てもらおう。


 ジャンから貰ったリンカイトを取り出し、コールする。まだかなりの朝方だが、ジャンは起きているのだろうか。寝ていてもおかしくはないが……。そういった不安が頭をよぎった時、リンカイトが発光して、音を出し始めた。


 その音は徐々にノイズを除いていき、人の声として認識できるものになっていく。


『はーい! ジャンでーす』


 音声がクリアになった後、昨日聞いたジャンの声で反応があった。声からは眠そうな感じはしない。


「フリッツだ。朝早くから悪いな」


『おー、フリッツか。どうした? 何かあったか?』


「それが、ちょっと頼みたいことがあって。今から会えるか?」


『大丈夫だぜー。今は昨日紹介した宿にいるのか?』


「ああ、そうだ」


『オーケーオーケー。すぐ行くからちょっと待っててくれ』


 その言葉を最後に、リンカイトの発光が止み、音声も途絶える。とりあえず来てはくれるようなので、ジャンの到着まで待つことにしよう。




 ——三十分後


 セーナも起こして宿の食堂で4人で朝食を食べている最中に、息を切らせたジャンが飛び込んで来た。


「オイオイ、お前ら何したんだ!? ジン商会の奴らがお前らのこと探し回ってたぞ!」


 大慌てでジャンがまくし立てる。

 通信のときは騒いでいなかったから、ここに来るまでの間にジン商会の連中を目撃したというところだろう。


「ジャンさん……実はそのことでお願いがあって」




 ◆◆◆




「お前ら……っていうかウィルベルちゃん、とんでもねえことするな」


 ウィルベルによる、昨日の出来事の説明を受けて、最初にジャンが言ったことはそれだった。


 ジャンからすれば、昼過ぎにフリッツ達を宿に送って、次の日の朝にはジン商会を敵に回しているのだから、一体何が起きたんだと言いたいだろう。


 今はウィルベルが商館から持ち帰った証書を手にとって、その内容を確認している。


「これはたしかに奴隷売買の証書だな……これを公開すれば、さすがのお役人でも動かないわけにはいかねえ」


 そう言ったジャンの表情は、言葉と裏腹に苦々しい。


「……だが、ジン商会は役人の一部と癒着してる。幹部が何人かお縄になるだろうが、ダリウス・ジンはなんとかして罪を免れるだろうな」


 トカゲの尻尾切りのようなものか。いかにも権力者がやりそうなことだ。


「ええ、私もそう思う。だからもう一手、詰めておきたいの」


「もう一手って、なんだウィルベルちゃん?」


「一手というか、二手かもしれないけど。まずひとつはジャンさんの新聞ね」


「……新聞か。たしかに、証拠付きの記事なら民衆への効果はあるだろうが。それでもダリウスの首を飛ばすには不十分じゃねえか?」


 商人は評判が命とは言うが、ダリウスは今までも金で評判を捻じ曲げてきたはずだ。今回も同じようにされるというのは大いにありうる話だ。


 ウィルベルもそれは想定していたようで、ジャンの言葉に頷いている。


「そうでしょうね。……もうひとつは、ジャンさんに聞きたいんだけど——この街には大きなリンカイトってある?」

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