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龍姫の叙事詩  作者: 桜庭楽
第三章 享楽の都
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第三章♯9『青紫の奇跡』

 ウィルベルはセーナが監禁されている部屋の前まで来ていた。

 魔力による感知では、部屋の中にはセーナを除いて二人。おそらく見張りの男たちが配置されている。


 ウィルベルはコンコン、と扉をノックした。それに反応して、見張りのうちの一人が扉の向こう側まで来る。


 男がドアノブに手を掛けようとしたその瞬間、全力で扉を押し開いて、近寄って来ていた見張りを倒す。

 何事かと振り返ったもう一人の見張りに、あらかじめ準備しておいた魔術を浴びせる。

 最後に、足元で立ち上がろうともがいていた男の側頭部を蹴って昏倒させる。


 時間にすれば数秒。ウィルベルが学院で、近接戦闘の訓練を受けていなければ無理な芸当だったろう。手ほどきをしてくれたカーラに感謝である。


「あ……おねえちゃん?」


 突如部屋に乱入して、男たちをなぎ倒した商人を見て固まっていたセーナだったが、商人がウィルベルだと気づいて安心したようだ。


「ごめんね、セーナ。怖い思いさせて」


 セーナは拘束されている様子もなく、怪我もなさそうだ。


「ううん。おねえちゃんが近づいて来るの分かったから、怖くなかったよ」


 セーナが微笑みながら言った。

 しかし、その言葉がウィルベルには引っかかる。近づいて来るのが分かったというのは、信じて待っていたとは意味合いが違ってくるのではないか。


「……セーナはもう人の魔力を読めるの?」


「んー? よくわかんないけど、そうなのかな?」


 竜人は生まれつき魔術への高い素質を備えている。セーナが無意識のうちに親しい人間の魔力を捕捉していたとしてもおかしくはない。もしかしたら、この能力を元にセーナの両親を見つけることも可能かもしれない。


 そこまで考えて、かぶりを振る。そんなことより今はここから逃げるのが先決だ。


「おい、こっちだ! ガキの部屋が空いてる!」


 廊下の方から怒号が聞こえてきた。この部屋に突入するときに音を立てたのもあって、とうとう見つかってしまったようだ。

 これで、廊下方向から脱出するのは難しくなった。

 そもそもセーナを連れて廊下を歩くわけにもいかないから、最初から別のルートで逃げるつもりではあったが。


「セーナ、しっかり掴まっててね」


 セーナを胸に抱きかかえて、部屋の窓を開く。ここは四階、まともに落ちたら無事では済まないが、他に道はない。廊下の方からは何人もの足音が迫ってくる。


 意を決して、窓枠から身を乗り出す。夕暮れの冷えた風に頰を撫でられ、思わず身震いする。


「いたぞ!!」


 部屋に男達が入ってくる。


 それを尻目に、窓の外の虚空に身を踊らせた。


 わずかな浮遊感の後、重力に体が引っ張られる。腕の中のセーナが、ギュッとウィルベルの服を握っている。


 みるみる内に地面が迫る。




 ◆◆◆




 フリッツ達は、ジン商会の商館前にいた。


 モニカの言葉によって落ち着きを取り戻し、これからどう動くべきか考え直したフリッツだったが、大した案が思いつくはずもなく、とりあえず商館まで行こうという話になったのだった。


 街の商人に商館の場所を聞いて、こうして前まで来たはいいが、ここからどうしたものか。モニカと二人で思い悩みながら、忠犬のように待ち続けているのだ。


 そうしてしばらく待っていると、にわかに商館の中が慌ただしくなっていることに気がついた。先程から、男達の怒号が飛び交っており、幾人かは商館の前まで出てきている。間違いなく、ウィルベルが中で暴れているのだろう。


 突入するのであれば、タイミングは今しかない。


「フリッツ! あそこ、ウィルベルだ!」


 モニカが指差した先は、商館四階の窓。そこに、セーナを抱えたウィルベルの姿があった。なぜか商人風の服を着ている。だが、それよりも。


「あいつ、まさか飛び降りる気か!?」


 フリッツがウィルベルの名を呼ぼうとしたとき、ウィルベルが窓から身を投げた。


 時間がゆっくりと流れるような、そんな錯覚に包まれる。


 当然の摂理に従ってウィルベルの体が、地面に叩きつけられ——。




 フリッツは、今自らが見ているものを素直に受け止めることが出来ないでいた。


 魔術ではない。地霊術でも、祈祷術でもない。そんなことは、魔法に疎いフリッツにも理解できた。この光景はそんな、人智の及ぶものではない。


 フリッツが見たのは、翼だった。青紫の光で構成された翼。その形は、まぎれもなく。


「——龍の翼だ」


 ウィルベルの背に生えた龍の翼は、ウィルベルの体が地面に叩きつけられる直前、一度だけ羽ばたき、その後無数の光の糸となり解けて消えた。


 一瞬の出来事だったが、この光景を目撃した全員が硬直していた。その硬直の中で、誰よりも早くフリッツが駆け出す。


「ウィルベル!」


 ウィルベルに駆け寄り、その肩を抱く。


「……フリッツ?」


 ウィルベルは息が上がって、かなり疲労しているように見える。先程の翼が体に負担かけたのかもしれない。だが、とりあえず腕を取って立ち上がらせる。


「話は後だ! 今は逃げるぞ!」


 フリッツの声を聞いて、商館の男達も我に帰り、動き出す。商館前庭から通りまでの道を阻むように立ち塞がった。


 その背後から、モニカが男達に飛びかかり、素早い身のこなしで翻弄する。思わぬ伏兵に動揺した男達の隊列が乱れる。その合間を縫って、人通りのある通りに出た。


 セーナを抱えたウィルベルの手を引きながら、まだ後ろで戦っているモニカに声をかける。


「モニカ! もう良い、逃げるぞ!」


「おう!」


 モニカは塀の上やら屋根を上やらを飛び移りながら、フリッツ達を追いかけてきている。その途中で、深追いしない程度に追っ手の足止めをしてくれてるようだ。


 モニカの助けもあり、なんとか大通りに出ることが出来た。あとは人並みに紛れて、追っ手を巻くだけだ。ウィルベルからセーナを受け取って、宿への道を戻る。

次話♯26「少女の真実」

3月8日16時頃


 最近プレビュー数も安定してきました。読んでくださってありがとうございます。これからも細々と続けていきます。

 ブラオエ編も終わりが見えてきました。予定では次はルクセン編が始まります。盛り上がる話になると思います。ぜひぜひお楽しみに。


 では( ˙-˙ )ノ

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