第二章♯9『猟犬の盟友』
「そんなことになってたとはな……。ともかく、礼を言わせてもらうぞ」
そう言って、酒場の主人が頭を下げた。
偽村長にトドメを刺した後、村長宅を捜索すると、二階で死体となっていた本物の村長夫妻を発見した。
今は事の顛末を酒場の主人に話したところだ。誰が村長の後を継いで、この村の指導者になるのかは分からないが、ひとまず村人からの信頼が厚そうなこの主人に話したという次第である。
フリッツは酒場のカウンターに座って、今回の一件を振り返る。
発端は村長に……今思えばあれも偽物だったわけだが、村長に人狼退治を頼まれた事だった。自ら首を絞めるような行いにも見えるが、おそらくフリッツ達とエドガーを敵対させて、両方の勢力を潰しておくのが狙いだったのだろう。その後フリッツ達が協力関係を築いたのを知った時点で、仲間を集めて皆殺しにする方向へ動いたようだが、それも失敗し最後は追い詰められて終わり。
途中何度も命の危機があったし、こうして今生きていられるのも運が良かったからに過ぎない。今後はこういったことがないように、央都につくまで余計なことには一切関わらないようにしよう。そうしよう。こんなことを繰り返していたら命がいくつあっても足りない。
「フリッツ。準備できたよ」
酒場の入口からウィルベルが声をかける。外はすでに明るくなっていて、入口に立つウィルベルの背後から光が差し込んできている。柔らかな日差しでも、夜通し動き回って疲れた目にはしみた。
「ああ、今行く」
目をしぱしぱさせながら席を立つ。
「あんたら、本当にありがとう。達者でな」
「ああ。村の近くにまだ人狼が潜んでるかもしれないから、あんまり村から離れないようにって、みんなに伝えておいてくれよ」
酒場の外には、ウィルベルと馬が二頭、そしてエドガーが待っていた。
「俺はもうしばらくここに残る。残党狩りも仕事のうちだしな」
「そうか……僕たちはもう行くよ。またどこかで会うかもね」
「そうだな。……あ、そうだ、お前らにこいつを渡しとく」
そう言ってエドガーから手渡されたのは、首輪のシンボルがついたネックレス。『猟犬』の証だ。だがエドガーが身につけているものとは違って木で出来ている。
「そいつは『猟犬』が認めた盟友に贈られるモンだ。お前たち央都に行くんだろ? そいつを持ってたらなにかで役に立つかもな」
どう役に立つのかは分からないが、ウィルベルと二人で、大事に持っておくことにする。
「ありがとう、エドガー。大丈夫だと思うけど、怪我しないようにね」
「おっ! 心配してくれんのか。初対面の時とはえらい変わりようだな。可愛いとこもあるじゃねーか!」
「う、うるさい。心配するくらい普通でしょ」
エドガーがウィルベルをからかっている。
からかわれたウィルベルは息巻いて言い返すが、二言目にはいつもの口調に戻る。感情の起伏に乏しく、人見知りで、何を考えてるのか分からない時もあるが、時折見せる年相応の態度が、彼女の人間らしさを保証しているような気がして安心する。
「さあ、行くか」
「うん」
ウィルベルに話しかけると、いつもの返事。
時間は太陽もまだ見えない早朝。見送りはエドガーと、酒場の主人だけだ。
二人に別れの挨拶をして、馬の腹を蹴る。ゆっくりと駆け出した馬の背から手を振る。
こうしてウィルベルと並んで進み、カルテドルフを後にした。
今日一日くらいカルテドルフで休んでも良かったのだが、村の英雄としての話が広まり、村人たちにもみくしゃにされてしまうことを嫌がったウィルベルがとっとと出発しようと言い出したのだった。正直眠いし辛いが、仕方ない。
「ねえ、フリッツ」
「んー?」
ウィルベルの方から話しかけてくるのは珍しい。あまり回っていない頭で生返事をしながら、なんだなんだと考える。
「村長が私に化けた時、本当に分からなかったの?」
何かと思えばそんなことか。
「……姿も声も同じなんだから分かるわけないだろう」
「私はあんな喋り方しないし、あんなふうにクネクネしたりしないでしょ」
「え、ええ……」
どうやら化けた村長だけでなく、それを見抜けなかったフリッツにも怒っているようだ。なんとかご機嫌をとらねばなるまい。
「あっ、でも、呆れてため息ついたときにどっちが本物か分かったぞ!」
「……どういう意味なのそれ」
「あの心底呆れた〜って感じは本物のウィルベルじゃないと出せない気がする」
「どういう意味なのそれ!」
怒られながら街道を進む。ルクセンまではまだまだ遠いが、こういった時間が続くのなら、長引いても悪くないなと思うのだった。




