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龍姫の叙事詩  作者: 桜庭楽
第三章 無音のアントラクト
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第三章♯4『盤戯の国の為政者達』

「ヴァイスランドの使者として参りました、ウィルベル・ミストルートです」


 王城の守衛にそう告げれば、予めエマから連絡があったのだろう、特に引き留められることもなく入城を許された。案内役の文官に導かれ、謁見までの間、城内の客室に通される。


「この国って騎士はいないの?」


 ソファに座っているシャルがそう疑問を発した。

 普通城の中には警備役の騎士が待機しているはずだが、この城ではそういった風体の人物は見かけなかった。


「ストラは知恵の国とも呼ばれているんだって。だから魔術師の育成に力をいれているらしいよ。武装した騎士もいるだろうけれど、少ないんだろうね」


 ウィルベルがそう答えるが、これは聞き齧りの知識だ。

 昨日、戦盤を指したおじさん達にこの国のことを色々教えてもらったのだ。


「一人で戦える魔術師は一握りのはずですけど、この国はどうやって戦うんでしょう」


「それは……うーん、この国の立地もあるのかな。魔術師達に閉じこもられたら、この街を攻め落とすのは難しいだろうし」


「外壁から魔術で攻撃するというわけですかぁ」


 ストラのお国柄について話していると、コンコンとドアがノックされた。


「失礼します。準備が整いましたので、こちらへ」


 ウィルベルは席を立ち、ふとシャルとロトへ振り向いた。


「貴女達も来る?」


「え、行ってもいいの?」


 シャルがポカンと間抜けな調子で答えた。

 行ってもいいも何も、


「今更でしょ」


 結局、二人も連れて案内役の後に続く。しばらく進み、玉座の間へと通された。広い空間の中央奥には岩から掘り出したであろう玉座があり、その左右に二つずつ席が用意されていた。中央に座しているのは四十頃の女性だった。彼女がストラの女王で、他のメンバーは大臣か何かの役職だろうか。

 その顔を見回して、ウィルベルは「あっ」と声を出した。


「おやおや……貴女は昨日の」


「優しいおじさん!?」


 横に並んでいた四人の中に、昨日出会ったおじさんがいた。


「どうしたヘルマン。お客人と知り合いか」


「ええ。昨日街中で偶然お会いしました。旅人とはお聞きしましたが、まさか使者様だったとは」


「どうして貴方がここに……?」


 ウィルベルの疑問に、優しいおじさん改めヘルマンが答える。


「私はこの国の市長の一人なのですよ。この国を指導するのは国王陛下と四つの市の長なのです。もっとも誰が市長になるかは戦盤で決めますから、私は元々政治家でもなんでもありませんよ」


 昨日と同じにこやかな調子のヘルマンはもちろん、他の面々も言われてみれば庶民的な出で立ちをしている。


「ふむ。ミストルート殿、そろそろ御用件をお聞かせ願えるか」


「あっ、失礼しました。では単刀直入に申し上げるのですが――」


 女王陛下に促され、慌てて説明を始める。思いがけない再会に驚かされてしまったが、そもそもの目的を忘れてはいけない。

 北部諸国で協力してユーヴィク帝国に対抗しようとしていること、すでにローレライとシラの協力を取り付けたことなどをかいつまんで話していく。 すべて話し終えれば、女王はううむと顎に手をやった。


「なるほど……審議が必要な提案なようだ。一日ほど時間を頂きたいな」


「ええ、お待ちしています」


 事は国家の存亡に関わる。一日で結論を出せてもらえるのなら願っても無い。彼女達の結論を待つとしよう。




 翌日、ウィルベル達は再び王城にやってきていた。対する顔ぶれも昨日と全く同じだ。


「結論をお聞かせ願えますか、女王陛下」


 ウィルベルが訊くと、女王陛下は「うむ」と切り出した。


「ヴァイスランドへの協力自体には依存はない。しかし他の国、特にオトラキアと肩を並べるかについては意見が割れてしまった。賛成二票と反対三票だ。しかし他国との協調が図れないのであれば、ヴァイスランドへの協力も成り立たないのも事実。そこで――」


 女王陛下は立ち上がり、グッと拳を握って叫ぶ。


「我々はいつもの通り、戦盤で結論を出すことにした!」


「戦盤で、ですか」


 おじさんは言っていた。ストラはなんでも戦盤で解決する国だと。だから国の行く末を盤戯に託すというこの事態も、この国ではままあることなのかもしれない。


「うむ。反対派の代表であるホルターと、使者であるミストルート殿に対局をしていただきたい!」


「なるほど……はい?」


 力説する女王陛下に圧倒されていたが、突然看過できないようなことを言われ、慌てて聞き返す。


「その対局に勝った方の案を採用することにした。ヘルマンから聞くにミストルート殿は中々の指し手らしいではないか。良い対局を期待している」


「対局の日時はミストルート殿が指定してくださいませ」


 一歩進み出たホルターがそう告げた。その表情は政治上の敵対者に向けられるようなものではなく、戦士がまだ見ぬ強敵に向けるような喜びを含んでいるものだった。

 女王陛下も恍惚とした表情でしきりに首を縦に振っている。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 そんなウィルベルの声は、ストラの為政者達の笑いに掻き消され届く事はなかった。置いてけぼりのシャルとロトは、事態が理解できない様子で首を傾げるのだった。

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