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feelings  作者: TeruRado
3/4

日常

凍花と一緒に教室に入る。

この学校は中高生を軍人として育てるための場所だが、一般教養がおろそかになってはいけないということで午前中は普通の高校生が受けるものと同じ授業を。午後にはそれぞれの科に別れて軍事的な訓練を行う。

午前中のクラスは科目混合で、パワーバランスのとれた編成となっており、有事の場合はこのクラス単位で出撃する場合が多い。

俺と凍花はFクラスで、午後は俺が一般兵士の普通科。凍花は機巧兵士だから機巧科となっている。

ちなみに能力者は特科と呼ばれる科目だ。

俺も凍花も特科因子が体内に存在するため、本来ならば特科なはずだが、凍花は四年前の事件のトラウマで能力が使えなくなり、俺はもともと能力が発現していない。

俺は諦めているが、凍花にはなんとか回復して欲しいものだ。

「毎朝彼女と登校とは、お前も本当に隅に置ねえ奴だな」

自分の席に腰掛けると、前の席の篝火祐也かがりびゆうやが話しかけてきた。

「別に彼女じゃ無いって前から言ってるだろ?ただの幼馴染ってだけで、付き合ったりは……して無いから…。」

少し離れた席で同級生と話をする凍花に視線を向ける。

他愛なく話している彼女を見ると、なんだか微笑ましく思えてきてしまう。

「…ただの幼馴染を見てニヤける奴がいるかよ」

「べ、別にニヤけてなんかないぞ!これはあれだ、微笑んでるだけだ」

「それを世間では変態の言い訳って言うんだよ」

「あ〜もう、うるさいな!」

祐也を軽く小突いてから机に突っ伏す。もう何も話したくなかった。――が、すぐに祐也が話しかけてくる。

「とまあ、冗談はこのくらいにして――――今日のニュース見たか?」

顔をあげると、珍しく裕也がまじめそうな顔をしていた。

「ジークによる施設襲撃の話だろ?やっぱり軍も注目してるのか?」

祐也はこう見えてもコンピュータに強く、情報収集が異常に早い。ただ情報を集めるだけでなく、ブログラムの作成や書き換え、はたまた暗号解読まで出来てしまい、その実力は軍が認めるほどのものだ。よく軍の研究施設でバイトをしているらしい。もちろん、軍事機密になるようなもの以外でだが。

「まあな。軍の研究者が徹夜で調査してるが原因は何一つわからねえ。まあ、被害は増えるだろうって考えはみんな同じみたいだな」

「やっぱり回数が多すぎるよな」

今までに周辺の研究施設が襲撃された事はあるが、月に一度あれば多いほうで、そんなに頻度の高いものではなかった。

「まあそれもあるし、悩みの種はもう一つ――――」

「ジークが集団を形成していること」

「なんだ、気付いてたのか」

祐也がつまらなさそうに椅子にもたれる。

「まあな。凍花がライブラリで検索してくれた。Level4以上のジークはほとんど集団を形成しないんだろ?」

朝凍花と話していた内容を思い出す。

「ああ。そこが1番不可解な点で、1番厄介な点でもある」

「厄介?」

祐也が頷き、机の上に座り直した。

「単独で乗り込んできたジークなら、駐在している軍だけで対処出来るんだが、大勢となれば話は変わってくる」

確かに、過去に何度か襲撃された時は単独で行動するジークによるものだったため、研究施設の被害はほぼ皆無だった。しかし、今回の襲撃は集団による波状攻撃。それが広範囲に及んでいるため、軍が対処し切れずに甚大な被害が出ている。

「数が多過ぎて対処仕切れないのか」

「そういうことだ。事態が収まるまで俺たちを派遣したほうがいいって何人かの研究者が話てたな」

「そうなのか…。行ったら数週間は帰って来れないんじゃないか?」

「すぐに事態が収まればいいが、ヘタすりゃ数ヶ月帰ってこれねえかもな」

「そんな――――」

突然ドアを開けて担任が教室に入ってきた。

どうやらもうショートホームルームの時間になっていたらしい。

全員が起立し、日直が点呼をとった。

こうして今日も変わりない日常が幕を開ける。


「はあ〜やっと終わった〜。」

祐也が学食のフードコートで伸びをする。彼にとって午前中の座学は苦行でしかないようだ。

「まあ、確かに世界史は異常に眠かったな」

「だろ?それでこないだ、今更過去を振り返って何になるんだよ、的なことを先生に言ってみたんだが――――」

「待て。本人に言ったのか?」

「当たり前だろ〜。妹に愚痴っても叱られるだけだろうからな〜」

祐也が先程持ってきたカレーをスプーンですくう。

俺の方は、凍花が来るまで待っていよう。

「その言いようだと、まるで瑞花…少尉に他の屁理屈を言ったことがあるみたいだな」

少尉は祐也の一つ下の妹で、この学校の生徒だ。ちなみに科目は特科。成績もかなり優秀らしい。

「みたい、ではなく実際によく言ってきますよ。この愚兄は」

後ろを振り返ると、トレーにカツカレーを乗せた瑞花少尉の姿があった。

そのままスタスタと歩いていき、祐也の横でとまる。

「兄さん、隣いいですか?」

「ああ、別に構わないけど――――って、愚兄は無いだろ愚兄は!」

「愚かな兄と書いて愚兄。これほど兄さんにピッタリな言葉は他に無いと思いますけど…。」

少尉がため息をつきながら祐也の横に腰かける。

「別に愚かじゃねえよ。ただ深く考え過ぎてみんなと違う結論に至るだけだよ」

祐也がガツガツとカレーを食べる。

「別にどうでもいいですけど、いただきますくらいはきちんと言ってください。中身がダメなんですから、せめて人柄くらいはいいものにしないと…。」

瑞花少尉がいただきますを言ってからカツカレーを食べ始める。横で祐也がブツブツ文句を言っているが、全く気にしていないようだ。

「あっ、そういえば海斗さん」

瑞花少尉がこちらを向く。

「ん?」

「私に『少尉』はいりませんよ。瑞花で結構です」

「いや、でも……。」

「同じ小隊に配属され、海斗さんは小隊長。それに私のほうがもともと年下なわけですから」

彼女が優しく微笑む。確かに、同じ小隊でいつまでも硬過ぎるのは良くないかもしれない。

「わかった。次からは呼び捨てで呼ばせてもらう」

瑞花は満足したのかカツカレーに再び手をつける。

一方祐也はつまらなさそうな顔をしていた。

なんだかんだいって妹のことを気にかける、いい奴なんだよな。

そんな祐也が無言で瑞花のカツをスプーンですくい、そのまま口に放り込む。…前言撤回。

「に、兄さん、せめて一声かけて下さい」

「別にいいじゃねえか。ほら、代わりに俺の肉やるから」

そう言って祐也がスプーンで肉をすくい、瑞花の目の前に持っていく。

瑞花は少し戸惑ってから最終的にはそのままパクリと口にした。

「つ、次からは気を付けて下さい」

瑞花が頬を朱に染める。

兄は気付いていないのか、そのままカレーを食べ続けた。

……居心地が悪いな。

「海斗、待たせてごめん」

凍花がすまなさそうな顔をしてテーブルに近づいてきた。

「気にしなくていいよ。用事はもう済んだのか?」

「う、うん。おかげさまで」

凍花が隣の椅子に座るのを待ってから、彼女が作ってくれた手作り弁当に手をつける。


「あ〜。授業中にアニメ観れねえかな」

食事を終え、みんなで雑談に更けていた。

「どうして授業くらい真面目に受けられないんですか。先生方に文句を言われるこちらの身にもなってください」

「だってさ、午後からの科目別授業ならともかく、午前中の一般科目って必要無く無いか?」

祐也が怠そうに伸びをする。

「ジークが出現する前の高校生はみんな普通に学んでいたみたい」

凍花がアーカイブに接続し、ホログラムで空中に投影。一般科目の一覧を全員に見えるように展開してくれた。

「マジかよ。こんな無意味なもん学んでたなんて、一種の洗脳だな」

祐也がホログラムを手で操作して、呆れたようにため息をつく。

「兄さんが阿呆なだけですから、失礼なことを言わないようにしてください」

「そんなこと言ってもな〜。……ん?……なあ凍花、このホログラム、アニメ観れるんじゃねえか?」

祐也が表情を明るくした。

凍花が顎に手を当てて考える。

「私のホログラムデバイスと、アニメの諸情報、サウンドスピーカーまたは専用のインカムさえあれば、授業中でも教師に悟られることなくアニメの視聴は可能なはず」

「そうか、なら――――」

「でも、悪用はしない」

さすが凍花。善と悪の違いをしっかりと認識している。少し天然で心配なところはあるが、こういった悪事に関してははっきりと発言できる、NOと言える日本人だ。

――――が、今回ばかりは相手の方が一枚上手だった。

「まあ待てって。もし凍花がホログラムデバイスを貸してくれるなら、こっちにもそれ相応の対価を用意しようじゃねぇか」

「対価?」

凍花が首を傾げる。

「海斗のなま着替え動画、高画質2GB」

思わずお茶を吹き出してしまった。

「お前、何てもん用意するきだ!」

こないだ更衣室で裕也がカメラを回していたのはこういう時の為か!

「海斗の…なま着替え…高画質…2GB…!?」

凍花がゆっくりと詠唱する。まるで信じられないとでも言うように。

「凍花やめろ!違法にアップロードされたと知りながらダウンロードするのも犯罪なんだぞ!」

「…うぅ!」

凍花がうめく。さすがに犯罪は駄目だと理解したのだろうか。

「まあそう慌てるな凍花。ばれなきゃ犯罪じゃないとよく聞くだろ?それにな、俺の技術と凍花の技術。二つの技術が合わされば、俺が撮影した映像を3Dにする事も夢ではない」

「…3D!!」

またしても凍花が向こうに傾く。

「瑞花、どうにかしてくれ」

もう頭が痛い。

瑞花が紅茶を一口飲み、ため息を一つ。そして、殺し文句。

「凍花さん、海斗さんに嫌われますよ」

「…‼」

それを聞くと、凍花は大人しくなって椅子に座った。

「ちぇっ!もうちょっとだったのに」

「私はただ兄さんに真人間になってもらいたいだけです」

瑞花があきれ顔でため息をつく。

「俺は別に――――」

刹那、学校中にアラートが鳴り響いた。

昼休みの喧騒が、時間を止めたようにピタリと止んだ。

全員が私語をやめ、壁に設置されたモニター、もしくは支給されている端末に目を向ける。

『旧松山市にジーク出現。回収作業中の作業員が襲われている模様。緊急プロトコルNo.14発令。現在、第3ゲートに駐在していた一個中隊が出撃。応戦している模様。クラスA、D、E、Fは各待機所へ急行し指示に従え。繰り返す――――』

放送が一回通り聞こえた後、その場が動いた。

椅子から立ち上がる者、端末で仲間に連絡を取る者、食器を急いで片付ける者、皆がそれぞれの仕事をこなしていく。

俺たちもそれぞれの顔を見回し、頷き合い、行動を開始する。


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