決勝戦始まる
平成22年度横山市職員バスケ大会の決勝戦。この日綾たち3人は平川記念体育館にいた。
対戦は大学病院チームとレスキュー隊。大学病院チームは毎週水曜日のみなと中で一緒にバスケをしている「モドリガツオ」のメンバー。
壁に貼ってあるメンバー表を見ながら綾がふーんと驚きと笑いの入り混じった表情で言った。
「柳生さんが兵衛で沖田さんが義経は知っていたけど、藤原さんはの、のぶなが。宮本さんは大和。本当にみんなお侍さんなんだね。」
そばで妙もメンバー表を見ながら
「かずや君だけ平凡だね。山本 和也。」
大学病院チームはこの5人。
隣にはレスキュー隊のメンバー表が貼ってあった。
「レスキュー隊は普通というか並みな名前。鈴木 修、佐藤 優一、井上 実、丸山 浩、小林 正、山下 健一、田中 勝。」
明香がそのメンバー表を見ながら言った。
「わかんないよ。平凡な名前に見えて読み方がすっ飛んでるかも。」
「修さんのすっ飛んだ読み方って?」
「修と書いてはるかと読む。しかも女。」
3人の後ろに三宅がいつの間にかいた。
「レスキュー隊は全員男だ。こいつらすごい。2連覇してる。」
三宅の言葉に、
「でも、京浜区は5連覇だったんでしょ?そっちのがすごい。」
と綾が尋ねると
「レスキュー隊は一昨年からの参加だ。それまでは職員大会に出て無かった。」
「すると、当時の無敵京浜区チームとやったら?」
「きっと勝てないと思う。一番強い時の京浜でも。」
三宅の言葉だけに説得力があった。
モドリガツオのユニフォームはスカイブルーに白抜きのロゴ。筆記体で表示されていた。
レスキュー隊は赤いユニフォームに黒いロゴ。ブロック体で「RED WARRIORS」と表示されていた。
「レッド、ワリオスってチーム名なんだね。レスキュー隊は。」
綾の言葉に妙が答えた。
「レッドウォリアーズ。レスキュー隊はそう呼ばれてるのよ。」
4人は大学病院チームのベンチに行った。
殺気。それ以外の言葉は使えないようなメンバーの表情と雰囲気だ。いつものみなと中での練習会では見せ無い怖い表情。確かに柳生は無口でぶっきらぼうだが、明らかに殺気だった表情。それは沖田も藤原も宮本も山本もそうだった。
さらに、彼らはメンバー同士でもほぼ無言だった。
おもむろに柳生がボールをドリブルしながらコートのセンターライン、ゴールから左側に立った。
それが合図なのか、5人のアップが始まった。
「兵衛のあのモード。本気だな。」
三宅がつぶやいた。
バスケに妥協の無い柳生 兵衛。その人の本気モード。市役所バスケ部で様々な大会の様々な試合で一緒にプレーをしている三宅の言葉だけに綾の表情も真剣になった。
試合が始まった。レスキュー隊のスタメンは鈴木、佐藤、井上、小林、丸山。ジャンプボールは沖田と 丸山。ここは丸山が勝った。丸山は鈴木の方にボールをはじいた。それを横っ飛びジャンプで宮本が片手で奪った。そして柳生にパス。鈴木が柳生に猛然と迫り、速攻させないって感じの鋭い目。柳生は突っ込むのか?それとも自分がシュートするのか?
後ろから走る宮本には、佐藤がマーク。
「あっ」
妙が声をあげた。ものすごい速さで藤原がコートの右端を駆けて来たのだ。柳生からエンドラインそばのスリーポイントライン外の藤原にパス。フリーの藤原がスリーポイントシュート。
「わーっ!!」
綾が叫んだ。ボールは綺麗な孤を描いてゴールネットを抜けた。
「綺麗なフォーム。」
明香がつぶやいた。
「藤原さん、みなと中ではインサイドの強いプレーをしてるのに。」
妙の言葉に三宅がつぶやいた
「いつかも藤原のスリーが続けて入って。京浜区は大学病院に大苦戦したことがあったな。」
ここまでの職員大会の試合では、モドリガツオ大学病院チームは柳生のカットインと山本の外からのシュートが得点源だった。レスキュー隊もこの二人が決めて来ると思っていたかもしれない。
レスキュー隊の攻撃。鈴木から佐藤へ強いパス。角度の無いところから佐藤がジャンプシュート。ボールはリングを跳ねた。丸山が沖田と競りながらリバウンド。そのまま丸山が押し込みレスキュー隊が2点を返した。