13話目
重い静けさが横たわっていた。
地下牢であるため、新鮮な空気は入ってこない。
「これもダメか、」ルルアはつぶやいた。そこには疲労の色がある。
今は、魔方陣の解除に躍起になっていた。
しかし、魔方陣の解読にいたることさえ出来ていない。まず、ほころびが存在しないのだ。
つまり、最初の段階すら、クリアできていない。
あせりだけが増幅していく。
「ルルアさん、もう・・」その後を言うのが憚られたのだろう、ユナが言いよどむ。
だが、いいたいことは伝わった。
もう、諦めましょう。
そういうことなのだ。
「クソ、」ルルアは思わず、はき捨てた。
いらだったのは、ユナの言葉ではない。自分の慢心だ。
自分にこの強大な力が無かったら、自分はこんな無用心でいただろうか。
自分の力におごっていた。
そのせいで、ユナも助けることが出来ない。
力を使うのは怖い、けれど、力にはおごる。
「すまんな、ユナ、」
「私のことはいいんです、」ユナが怒ったように言う。
と、そのときだった。
音が聞こえた。
階段を下りる音。巡回の時間だろうか。
ユナとルルアが黙る。
静寂。
扉がゆっくりと開かれる。
光が扉から漏れ出す。
そこには明確に静寂を保とうとする意図が感じられた。
(巡回の者じゃない?)
普通の巡回ならそんなことする必要も無いからだ。
そして、ルルアたちを起こさないように、という配慮なはずも無い。
扉が完全に開かれる。
そこにたっていたのは、武器屋のザジ、だった。
「ザジ・・」ルルアは思わず、つぶやいた。思考が空転する。
(ザジはなんで、どうやって、ここに来た。兵士だったのか?)
いや、頭をふってその考えを打ち消した。なぜなら、その格好をしていないからだ。
服は闇に紛れるかのごとく、黒で統一されている。
「ルルア、」ザジも驚いたように目を見張っていた。
が、すぐに我を取り戻し、ユナも居ることを確認。
ポケットから鍵を出し、「俺たちは今日、領主を倒す。城は混乱状態になるから、隙を見て逃げろ」
最小限に説明し、まず、ユナの牢屋の鍵を開ける。
そして、次はルルアの牢屋を開けにかかる。
さび付いたような音と共に鍵が回った。
牢屋の扉が開く。そのとき、
「お前は良いヤツだ。自信を持て。嬢ちゃんを頼むぞ」ぼそりと言う。
「解った」ルルアがそういうと、ザジは口元に笑みをしのばせた。
そして、「じゃあな」それだけ言うと、階段を上がっていく。
光源が遠ざかり、部屋には暗闇が戻ってくる。
ルルアは牢屋から出た。
魔素の感覚が懐かしく思える。
身体強化。
視界が鮮明になる。
魔法が使える。
身体に馴染む。
ルルアは無性に嬉しくて、「よし!」と思わず、小さくガッポーズをした。
魔法のない自分を始めて痛感した。
ルルアの力は絶えず、ルルアを飲み込もうとしてくる。それは変わらない。
しかし、これも、ルルアの力なのだ。
当たり前のもとになぜか納得を覚える。
ユナが暗闇に足をおそるおそる動かしながら「どうしたんですか」と問う。
その声も心なしか嬉しそうに聞こえる。
城内が突然、騒がしくなりはじめた。
反乱が、はじまったのだ。
「行くか」ルルアが言うと、ユナは真面目な顔でうなづいた。