11話目
「な、」ユナは見開いたまま固まっていた。
ルルアも驚くことしか出来ない。
どうして、奴隷だと解ったのだ、奴隷印はもう無いはず。他に判別方法が在るのか。
ルルアが考えていると
ザジが兵士に食ってかかる
「おい、兵士さんよ、この嬢ちゃんが奴隷?奴隷印だって無い。人違いだろ」
「お前は黙っていろ!!」他の兵士の槍がザジの首元につけられる。
「確認しろ」領主が下衆な笑いをうかべ、兵士に指示した。
が、ユナに奴隷印は無いはずだ。ルルアはそう判断して、ユナに抵抗しないように言う。
抵抗すれば逆に怪しまれるからだ。
ユナは嫌がりながらも奴隷印が無い事を見せる。
領主は驚いていた。
ザジが槍に臆することなく「ほら、見ろ。」そう馬鹿にする。
だらしなくたれた頬の肉が気持ち悪く動く。少し逡巡した後、また、下衆な笑いを浮かべた。
「まあ、いい。どうやって消したのかは知らんが貰っていく事には変わらん」
「おい、こいつらは街の人間じゃないんだぞ!!そんなこと許されるか!」ザジがあせったように喋る。
「誰が、許さないんだ?」領主がザジを挑発する。
「おい、ルルア!嬢ちゃんがやばいんだぞ!!」
ルルアはなにも言う事ができなかった。
領主はあざけるようにルルアを見る。
連れて行けと兵士に指示。兵士はユナをすばやく捕まえる。
「ユナ・・」ルルアが近づこうとするとユナの首元に剣が添えられる。
「ひっ!」とユナが短く悲鳴を上げた。
ユナを人質にされた。容易に攻撃できない。
優越感に浸った領主の顔。
「じゃあ、行くぞ」「ハッ」兵士たちが頭を下げ、ユナを連れて出て行った。
「ルルアさん!!」ユナが叫ぶ。
ルルアはそれを見ていることしか出来なかった。
ユナのドアの外に消えた。
部屋には静寂が戻った。
だが、そこにはユナは居ない。
確かに、ユナを人質にされ、動けなかった。しかし違う。ルルアは元魔王だ。無詠唱も使える。相手はそれを知らない。つまりあの状態からユナを救うことができた。
だが、出来なかった。
ルルアは自分が怖かったのだ。自分の力が。
少し気づきかけていた。
今のルルアの力は膨大だ。確かに魔王のときほどではないが人としての限界まであるだろう。
そして、魔王であったときはルルアは欲望が無かった。欲望が無い存在だったのだ。
だから、魔王の力を使えた。
が、今のルルアは人間だ。欲望がある。欲望はいつも、人を惑わせるものだ。ルルアは自分の欲に初めて触れた。つまり、今のルルアにとってこの力は不釣合いなのだ。
それはそうだろう。普通ならば膨大な力を持つ間にそれにふさわしい、強靭な精神が作られるはずだからだ。
先程の公開処刑でルルアが感じた自分の欲だ。
それをルルアはコントロールできていない。ルルアは力に振り回されている。
だから、ルルアは自分の力を無意識に怖がっていた。
だから、ユナを助ける事が出来なかった。
「おい!!見損なったぞ・・」ザジがこちらを見た。
「聞いてるのか!!」ザジがルルアが殴った。
ルルアが吹っ飛び、壁に打ちうけられた。
ザジは泣いていた。
ザジは自分の激情を収めようとしているのか、深呼吸をして、
殴って悪いな。とルルアを起き上がらせた。
「オレは娘も妻も殺された。あの嬢ちゃん位の歳だ。オレの娘があいつに捕られたのは・・。」
だから、ついかっとなっちまった。自嘲気味に笑う。
「あの領主がたまたま、うちの娘を見て気に入ったそうでな。妻は抵抗して、その場で殺されたらしい。そして、その場にオレは居なかった」
ザジはルルアの目を見つめた。そして、と言葉を続けた。
「オレが帰ってきたとき、全てが終わってた。」
だから、あの嬢ちゃんがオレの娘にダブっちまった。それだけだ。だが、
ザジはルルアを睨んだ。
「オレはお前を許せない。あの嬢ちゃんとどんな仲なのはしらん。でも、嬢ちゃんはお前を信用してた。なのにお前は・・・。」
出て行ってくれ。マジックボックスを返せとは言わない。
ザジはルルアを店から出し、ドアを閉めた。