6ねん1くみ、冬
あたし、もし、ウソついてるんだとしたら。
…どうしよう。
惜しくも2位だった運動会も終わって。
夏の暑さが残る秋は、冬のにおいのする秋になって。
そしてそれも、過ぎていった。
前期の児童会も終わって、後期の児童会選挙があって。
あたしは今度は学級委員に仕立て上げられた。
はぁ……。
あたしって、損な役回りだなぁ。
しかも男子の学級委員がクラヤとか、ありえないから!
みっちゃんにぶつぶつグチりながら、家に帰る。
初めて雪が降った日だった。
ごはんを食べ終わって、お皿を片づける。
キッチンから戻ると、おかあさんがまじめな顔をして待ってた。
なんだろうと思ってたら、おかあさんは、言った。
「あずみが卒業したら、お父さんと一緒の所に住むことになったから」
あたしの家は、もともと転勤族で。
小3ぐらいから、お父さんはあたしのことを考えてくれて、単身赴任を始めていた。
だから、お父さんと一緒の所に住むってことは。
…みんなと、一緒の中学に行けないってことだ。
イヤ。みんなと一緒がいい。
……なんて言うのは、わがまま。
おとうさんもおかあさんも、卒業っていう、
いちばんおっきい区切りまで待っててくれたはずなんだから。
家族3人でみんないっしょ、が。
いちばんいいはずなんだから。
だけど、死刑を言い渡されたときみたいに、あたしのココロは重くなった。
「あず、どうしたの?元気ないよ?」
何度そう言われたかわからない。だけど、なかなか言えなかった。
自分じゃあんまり気づかなかったけど。
どんどん、暗い顔になっていった。……らしい。
風が強い、晴れた日だった。
「あず」
みっちゃんがいつになく真剣な顔をして、あたしを呼んだ。
…でも、その後に続く言葉はなくて。
代わりに、ぽろぽろって、涙が。
「…どっ、どうしたの!?」
あわててかけよって、みっちゃんの肩に手をかけると、
みっちゃんはしゃくりあげながら言った。
「…あずが…あずが、元気ないの、…辛いんだよ?」
あたしの目からも涙がこぼれた。
みっちゃんだけには、言って。
でも、誰にも言わないでって、言った。
その日は、みっちゃんとふたりで泣き続けた。
ずっと、家の前で、泣いて、泣いて。
ふたりでかぜを引いちゃって、次の日熱を出して学校を休んだ。
ほんとは、一日でも多く学校に行っておきたかったけど。
おかあさんに、ダメって言われて休んだ。
その日、シマが持ってきてくれた、明日の時間割と、班のみんなのメッセージ。
班の子じゃない子も、みんなたくさん、書いてくれた。
メッセージの欄は3行ぐらいしかないのに。入りきらないぐらい書いてくれた。
「あずへ!!
今日一日あずがいなくてさみしかったよー。明日はぜったいきてね! かなみ
明日の給食はカレーだぞ、おまえのぶんはおれが食う 蔵谷
↑ひどいやつだよねー、明日は絶対くるんだよ! 桃子
ねつ大丈夫?ムリしちゃダメだよ。今日はゆっくり休んでね。 さやまみずき
今日は先生がおもしろかった。
明日もたぶんおもしろいから明日はきてね! 愛より
今日はカジタもいなかったからおれらの班は3人で楽だった。 志摩真一郎
明日はあずといっしょに遊びたいな。大丈夫?明日は学校きてね。 ゆうか
早く元気になれよ! 砂田」
あたしはしばらく、最後の一文をずっと見てた。
…みっちゃんにはなんて書いたんだろう。
ふと気づくと、名前の下に、何か消しゴムで消したあとがあった。
…なんだろ?何か書きかけて消したみたいだけど。
なんて書こうとしたのか気になって、光にすかしてみた。
なんか色々書いたみたいで、ぐちゃっとしてる。
目を凝らして、「砂田」の下に書かれた文字を解読しようとする。
…『待』………?
待、って書いたあとに消して、砂田って書いたらしい。
…待ってる、とか、書こうとしてくれたの…かな。
…スナダぁ……
みっちゃん、ごめん。
…あたし、うそつきだ。
好きな人がいないなんて、全然、ウソ……
あたしは、昨日とは別の意味で。
ちょっとだけ、泣いた。