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6ねん1くみ、秋

「あたしさ……スナダが好きなんだ。去年から、ずっと」







みっちゃんとスナダは去年同じクラスだった。


そのときから、好きだったんだ。


みっちゃんは。




ぜんぜん、知らなかったよ。




だから、お祭りのときに、スナダとあたしがちょっとしゃべってたから。


気になってたんだ。




…あたし、


みっちゃんのこと、すき。


みっちゃんのこと、だいすきだから。




安心してね、みっちゃん。


あたしには、好きな人はいない。


スナダなんか別に好きじゃないよ。




















スポーツの秋。食欲の秋。読書の秋。いろいろ。


でも、学校が進めてくるのは、スポーツの秋、な気がする。



運動会。



あたしは保健委員だから、クラスの友達と一緒に見るんじゃなくて、本部のテントの下にいる。


保健の先生と仲もいいし、他の友達もいるからそれはそれでいいんだけどね。よく見えるし。





走るのとか、障害物とか、玉入れとか。


いっぱいあって、ケガ人もそれなりに来て。


クラヤもシマも、ちょこちょこっとケガして、消毒しにとか絆創膏もらいにとか、来てた。






そして。最後の。


選手対抗リレー。





クラスから、男4人女4人で、8人出る。


うちのクラスの代表は、愛ちゃん、佳奈美ちゃん、理沙、みっちゃん。


それから、シマ、増山、渡辺、スナダ。



みんな、速い。絶対勝てる。








愛ちゃんから渡辺にバトンが渡って。


渡辺がぐんぐん、前の人との差を縮めていく。


次の理沙は、バトンを渡す直前で追い抜かした。


それを、シマがどんどん引き離していく。


だけど、まだ、1位の人には遠くて。今、2位。


シマと、みっちゃんのバトンの受け渡しは、今まででいちばんうまくいって。


みっちゃんが、つかず離れずで1位の人を追って走る。


増山は、今までで見たこともないようなスピードを出してた。


その勢いにのって、佳奈美ちゃんがどんどん1位の人に近づいていく。


そして、アンカーへ。





赤いゼッケンをつけて、唇をぎゅっと結んだスナダ。


2組の1位走者がその横を走り出す。


すぐあとに、佳奈美ちゃんがスナダの元に到着する。


スナダは佳奈美ちゃんからバトンを受け取ると、信じられないスピードで走り出した。



速い、速い!



どんどん1位の人に追いついていく。


もう3位とはトラック半周ぐらいの差がついてる。


抜かすか、抜かさないか。


そんなのが、ずっと続いてて。




あたしは、あらん限りの声を出してスナダを応援した。


みんな、みんな。


クラス全員が、スナダを。応援してた。








ふたりが、本部の前を通り過ぎようとした、その時。









え?ちょっ…









……と思った瞬間には、もうスナダは倒れていた。


横に大きく吹っ飛んで、バトンが手から離れる。




カラン、カラン……






会場全体が静まり返った。


何も考えられなかった。







スナダはすぐ起き上がって。バトンをつかんで、走り出した。


だけど、そのころには、もう。


1位は決まってた。












「…………すりむいちった」


リレーが、終わって。


スナダが、ゆっくりと、歩いてきた。


その時、先生は熱で倒れちゃった2年生や過呼吸をおこしちゃった4年生の介抱をしてて。


手順を教えてもらって、あたしがスナダのケガの手当てをすることになった。




ふたりで、黙って、水道まで歩く。


おっきい真っ赤なすり傷を、水が流していく。


ヒザと、ひじと。他にもまだまだ、いろんなトコ。


かなり痛むみたいで。




顔をしかめて、でもスナダは何も言わなかった。






「押してた」


「ん?」


「2組の、あいつ。スナダのこと、ひじで思いっきり押したじゃん」


「……当たっただけかもしんないじゃん」


「なんで?押されたでしょ?だからあんなに横に吹っ飛んだんだよ」


「……証拠はないよ」




消毒液をつけて、傷薬をガーゼにのばして、そのガーゼを傷の上に静かに乗せる。


あちこちにそんな処置をしながら、あたしは。




「…ん…?」


「…」


「…なんで、オマエが泣いてんの?」


「………泣いてない」


「…ヤサカ」




ぽたん。ぽたん。


ガーゼを持った手の上に、しずくが、落ちる。




…こんなわかりやすいウソ、初めてついた。


なんて、冷静に考えちゃったりする。




どんどん、どんどん、涙が出てきた。


泣き顔なんか見られたくなくて、うつむく。




こんなのって、ない。



くやしすぎるよ。



スナダが、あたしの手に自分の手を重ねた。




スナダの手は、日焼けしてて、おっきくて、すごく。


冷たくて。


わけもなく、あたしの指はじんじんした。




保健委員の仕事も終わったからみんなのとこにスナダと戻ると。


みんなは何も言わなかったけど、明らかに何か言いたそうな目をしていた。


「あ…あのねっ、みんな…!」


あたしは、あたしが見たことをみんなに伝えようとしたけれど。



「いい」



スナダに止められてしまった。


スナダの声は穏やかだったけれど、

何も言わなくていい、言うなよって目をしてた。




「ばかやろっ!」


…シマの声が、飛んできた。










「…ねぇ、なんで?スナダぁ」


「ん?さっきも言ったけど証拠がない」



どうしても納得できなくて、スナダにそっと聞くと、スナダは当たり前のように言った。



「証拠もなにも、あたしが見たじゃん!」



わけわかんなくて。くやしくないの?って。なんでそんなに普通なの?って思って。


あたしの声は少し荒くなるけど、スナダはそれでも静かに、


「うん」


しか言わない。




「あたしがわかってるんだから、言った方がいいじゃん!なのになんで!?」




スナダの分もあたしはたぶんくやしいんだ。


このまんまみんなにわかってもらえなくて、スナダが悪者みたいになってるのはやだ。



また、ちょっと涙がでそうになる。



でも、それでもスナダは普通で。

あたしの顔を見て、言った。




「うん。ヤサカがわかってるから、いいかなって」






…へ?






突然の意味不明発言に、あたしはくやしがってたことも涙が出そうだったことも一瞬忘れる。




スナダが言ったことのイミがわかんない。



そしたら、スナダがあたしの心を読んだみたいに、


「…今の、わかんなくていーよ」




って言って、笑った。






…なんか、涙がまたでてきて。




ぐじぐじで、あんまりちゃんと見えなかったけど。


ぜんっぜん、納得できなかったけど。




でもなんか、スナダの顔を見てたら、



なんだか心臓の中の芯みたいなところが、あったかいミルクティーを飲んだみたいな、そんな感じになって。




でもそれって、なんか気づかれちゃいけない気がして。




「なんつー顔してんだよ」



笑ってるスナダの顔を、くちびるをかんで涙目で、にらみつけるので精一杯だった。









もしかしたら、









あたし…










…みっちゃん、ごめん。







あたし、みっちゃんにウソついてるかも知れない。




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