6ねん1くみ、夏
夏休み。
…も、終わる。
あたしが住んでる町は、地域の行事が盛ん。
夏祭りとかもすごいにぎやか。
あたしは、この、松ヶ丘の夏祭りが好きだった。
「あずー!シロップの箱はぁ?」
「あっちあっち!あっちの机!」
「おっ、さんきゅ!」
お昼は、大学生のおにーさんとか、おねーさんと一緒に、
子ども会で出すかき氷の屋台のお手伝いをして。
「ごめん!ちょっと遅れちゃった」
「ううん、だいじょぶだいじょぶ。あー、みっちゃんかわいい!!」
「え?えへへ、ほんとに?あずもすごいかわいいよ。いいなぁ、その色」
夜は、みっちゃんと、浴衣で待ち合わせて。
おかーさんから少し多めにもらったおこづかいを使いながら、いっぱいいろんなものを見てまわった。
同じクラスの子にも、隣のクラスの子にも会って。
みんな浴衣だったりじんべえだったり。すごく似合ってた。
「あっ、ヤサカとカジタだ!」
聞き覚えのある、いじわるな声。
シマだ。
シマはいっつも、みっちゃんをいじめてる。
あたしには、シマがみっちゃんをいじめる理由はなんとなくわかってたけど、
みっちゃんには言わないでいた。
きっとシマは、いつかみっちゃんに自分で言うだろうし、
勝手に言ったりなんかしたら、シマにころされる。
「おめーらも来てたのかよ」
「なによぉ、来ちゃ悪いの?」
今日のみっちゃんは強気だ。まぁいつも強いんだけど。
わたがしを持って、ヨーヨーをぶら下げて、浴衣姿で、シマを思いっきりにらみつけた。
シマは、一瞬目を丸くしてみっちゃんをぽかんと見つめて。
「……別に、そんなコト言ってねーし」
シマにしては歯切れが悪く、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
「あ、いたいた!のりくん、いた!」
また聞きなれた声。ちょっと高めの、女の子みたいな声。
クラヤだ。
「あっ、ほんとだ!しましーん!!勝手にどっか行くなよ!」
またまた聞きなれた声。クラヤよりは低くて、シマよりは高い声。
…スナダ。
「あっ、カジタとヤサカもいるぞ」
「ほんとだ」
スナダとクラヤとシマも一緒に来てたんだ。
三人とも仲良くじんべえ着ちゃって。
「ふたりで来てたんか」
「うん。でもスナダもクラヤも、松ヶ丘じゃないのに。遠かったでしょ」
「自転車で来た」
スナダは、ときわ台。
クラヤは、希望が丘っていうところに住んでる。
どっちも、松ヶ丘からは遠い。
みっちゃんも、ほんとは白山台っていう、隣の町の子。
シマは、あたしんちの近所に住んでるけど。
そんな話をしてたら、クラヤの背後で花火が上がった。
ひゅーっ ドーン
「うわぁっ……」
クラヤ以外の4人はみんな一発目の花火を見ることができて。
「えっ、え、何!?あー!くっそ、なんだよ、もう!」
クラヤはすごくくやしがってたけど、2発目の花火を見ると、空を見上げて静かになった。
つぎつぎと。
真っ暗な空に、光の花。
でっかい音と一緒に。
咲いて、消えて。
咲いて、消えて。
それは、
泣きたいぐらいに、短くて。
泣きたいぐらいに、美しくて。
なんだか、さびしかった。
「……小学校最後の、夏祭り」
「…ね」
隣にいたスナダが、小さく漏らした言葉に、小さく相槌を打って。
ふとみっちゃんのほうを見てみると、みっちゃんもこっちを見てて。
だけど、なぜかみっちゃんはあたしから目をそらした。
そのみっちゃんの隣には、さりげなくシマがいて。
その帰り。
みっちゃんの様子がおかしくて。
「ねーみっちゃん、どしたの?シマに会ってへこんだ?」
「ううん、そんなことないよ」
何を聞いても何でもない、とかそんなことない、って答えられちゃって。
でも、みっちゃんの元気がないから。どうしたんだろ、って思ってて。
そしたら。
「あずって、好きな人いる?」
不意にみっちゃんが言った。
あたしはびっくりして、反射的に「いないよ」って、言っちゃった。
そしたら、みっちゃんはあたしを見て、それからまた前を向いて。
「あたしさ……スナダが好きなんだ。去年から、ずっと」
って言った。