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君がいるから――31日目に君の手を。アオ&ななし――

トムトム様のIn other words…のちいちゃんととも君&うちの31日目に君の手を。のアオとななしのコラボになります。

トムトム様の「「今日のお茶菓子」会いたい時にあの人はいない」」の続きになります。お手数ではございますが、そちらを先にお読み頂ければ幸いです^^

また、この2作品の時間枠は通常は違います。

パラレルをお楽しみ頂ければと思います♪


ちょっとアオがいつもと違うよ! 甘いよ!≧▽≦自社比較でね(笑

「アオ?」


掛けられた声に、思わず体から力が抜けた。

聞きたかった、声。


顔を上げれば、駅の階段を驚いたように駆け下りてくるななしくんの姿。

会いたかった、人。


「ななし、くん」


出た声は、自分でも赤面したくなるくらい弱弱しい声だった。

心配そうな表情のまま、ななしくんが目の前に立った。


「どうした? 何かあったのか?」

「……ななしくんに、会いたくて」


感情のまま口にすれば、目を見開くななしくん。

上着の裾を、ぎゅっと右手で掴んだ。




ななしくんは、予備校の短期集中講座に先週から通い始めていた。

部活もあって予備校に通えなかったけれど、不安な教科があるらしくてそれだけでも……と。

それはいいと思う。受験勉強を邪魔したくない。

それに、私だって人の事言えない。

コンペ用の絵を描くのに、部室に籠ってることが多い。


……自分の所為でもあるけど……、それでも寂しい。




さっきコンビニで見かけた、仲のよさそうなカップルが思い浮かぶ。




二人で同じものを分け合えるそんな距離。

……私とななしくんの間には、難しい距離。



衝動的に、ななしくんの住む町の最寄駅に来てしまった。

ななしくんの予備校の終わる時間は知っていたから、もしかしたら会えるかもと……思って。



「アオ、とりあえずどっかいくか? うちに来る?」

「……ななしくん、の、うち?」


何も考えずに同じ言葉を繰り返すと、ななしくんは焦ったように声を荒げた。

「いや別に変なこと考えてないから、全く考えてないから!」

「……まったく……?」

少しくらい、考えてくれても……いいのに。

「ただ、ここ寒いし……駅前何にもないしさ……」

言い訳のように繰り返すななしくんが可愛くて、うん、て頷いた。



ななしくんと手をつなぎながら、ゆっくりと歩き出す。

駅からはそんなに遠くないと言っていた通り、五分も歩かずに彼の家についた。

手は、暫く前に離されていたけれど。

恥ずかしいんだろうなって、それは分かるから。


「二階上がって、すぐ右が俺の部屋だから。先行ってて」

「うん」


洗面所で手を洗わせてもらってから、言われた通り二階へと上がっていく。

初めて入ったななしくんの部屋は、……ななしくんらしかった。



白と黒、モノトーン基調の部屋に青いカーテン。

隅に無造作に置かれた、雑誌や鞄。

そこには、部活を引退したななしくんがあまり持つことがなくなったスポーツバッグも置いてあった。


私はコートを脱いでその目の前にぺたりと座ると、床に持っていたコンビニ袋を置いた。

そして、スポーツバッグをぽんぽんと叩く。




夏休みの、一か月間。

ほとんど毎日、ななしくんと会ってた。

自分をなくして……色を無くした私に、一欠けら、あおをくれたななしくん。

その日々は、暖かくて優しくて。

ずっと一緒にいたから、離れると、こんなにも寂しい。


スポーツバッグを膝に置いて、ぎゅっと両手で抱きしめる。


「何してんだよ、アオ! それ、汚いって……っ」

部屋に入ってきたななしくんが、持っていたマグカップをテーブルに置いて私の後ろからバッグに手を伸ばした。

私は取り上げられまいと、両腕に力を込める。

「離せって。部活で使ってるから、汚いんだってば」

「別にいいもん。ななしくんの匂いだもん」

一瞬動きを止めたななしくんが、困ったような声をあげた。

「なんだよ、なんかあったのか?」

突然来るし……そう続けたななしくんの言葉を遮るように、ぽつりと呟いた。



「会いたくなったから、来たの」


「アオ?」



私はスポーツバッグから手を離すと、傍らに置いといたコンビニの袋から初恋ショコラを取り出した。

「……それ、は」

ななしくんが、息を飲むのが分かる。

前にこれを食べた時、私がななしくんをからかって……ちょっとおいたをしたことがあったから。


「これね、買う時にね。高校生のカップルがいたの。凄く仲が良くてね、二人で肉まん買って帰ってった」

「うん」

「きっと一緒に分け合って食べるんだなって思ったら、……凄く羨ましくなっちゃって……。私もななしくんと同じ高校に一緒に通えてたら、傍にいられるんだなって……そう思って……」


ふわり。

後ろから、ななしくんの腕がのびて私の肩を包んだ。

背中に感じる温もりに、一瞬目を見開いて、そして……ふっと力を抜く。


駅の改札で待っていたから、冷えてしまっていた体がじんわりと温かくなっていく。



「アオ。俺は受験生でしかも今は直前の冬で、アオはコンペの作品を制作中。なかなか会えないのは、理解、出来てるよな」

「……うん」

リアリストななし。

そんな事を思いながら、目を伏せた。

「分かってる。会えないのは仕方ない事だって、自分が納得して選んだ日常だって……私のわがままだって」

でも、それでも会いたくて、寂しくて。

口を噤むと、ななしくんの両腕に力が入った。

「俺も、アオと会いたかった」

「……」

嬉しいけど、ななしくんがそんな事をいう事自体珍しくて思わず後ろを振り向こうと身じろぎをする。

けれどそれはななしくんに阻まれて、叶わなかった。


「今、後ろむくな。も、頼むから」

少し情けない声になっているのは、前の轍を踏みたくないから……かな。

「だから、今日来てくれて、ありがとな」

「うん……」

前に回されたななしくんの腕に、両手で触れる。

「だけど、思い立って突然来て、俺が帰ってこなかったらと思うと、怖い」

何があるかわからないから。

だから――


「お互い会いたくなったら、ちゃんと連絡して、会おう。我慢してたのは、俺だって、同じなんだから……。だから……」


ぎゅっと、両手ごと抱きしめられた。


「一人で抱え込むなよ、……な。俺、年下だし、そういうの鈍いから言ってくれなきゃ分かんないけど……」

「……うん」

「アオが……、好きだから。辛い思いは、させたくない」


その言葉に、勢いをつけて体をよじって後ろを向いた。


「なっ……!」


そこには、真っ赤な顔をしたななしくんの姿。


片手で顔を隠したけれど、表情は隠せない。



「……ななしくん」

正面からななしくんの首に腕を回して、肩に顎をのせる。

寂しかったけど、この後も中々会えないと思うと寂しいけど……。



「だいすき」



一緒にいようとする努力をしてくれるななしくんが、私は大好きだよ。




『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』




ふと思い浮かんだ、初恋ショコラのキャッチコピー。


私は目を伏せると、ななしくんの頬に口づけをした。





――ななしくんがそこにいてくれることが、一番の幸せだよ



ケーキも、キスも。私の描く色でさえ、ななしくんと一緒だから……私にとって意味があるんだもの。


トムトムさん、コラボして下さりありがとうございました≧▽≦

お読み下さり、ありがとうございました!

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