一歩進んで五歩下がる。後編―僕と彼女の地味な攻防・和紗と僕―
BL・R15描写ありです。
苦手な方はブラウザバックをお願いしますm--m
チャーーーンス!! 千載一遇のチャンス!!!
下剋上か? きたかやっとの下剋上!
のたうちまわりたいほどの喜びをかみしめつつ、顔を少し傾けた瞬間――
「へ?」
視界が、反転した。
背中に感じる、鈍い鈍痛。
視界に入り込む天井と、そして――
「か、ずさ……さん?」
上から覗き込むように僕を見ている、和紗さんの姿。
その口には、銜えられたままの小さなスプーンの柄。
僕の言葉に、にやりと口端を引き上げた。
あ。
あれ?
なんで、僕の、チキン肌レーダーが、反応するの――!?
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説明しよう!
和紗が僕を妄想対象にすると、彼の両腕がチキン肌になるのだ!
by書き手
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「……あのね……?」
――和紗さんの妄想スタート――
「なぁ、早く、買えよ」
「……お前が、買えばいいだろ」
勢いでコンビニまで来てしまったものの、俺は凄く後悔していた。
教室の女どもが食べていたチョコレートケーキに、最初に反応したのは隣にいるこいつ。
美味そうだなー、と軽い口調で机の横に立った。
「初恋ショコラっていうんだよ。人気でさー、中々手に入らないの。でも今さっき正門近くのコンビニに行ったら、ちょうど入荷したてで買えたんだ!」
本当に嬉しそうに笑う彼女を見て、こいつは羨ましそうに机に置かれたチョコケーキををじっと見ている。
透明プラスチックケースに入ったチョコケーキの横には、包んであったと思われる金のリボンのパッケージ。
確かに、最近よくCMでも見るようになった人気スイーツだった。
「なぁ、一口でいいからくんない?」
どくりと、鼓動が早まった。
一口でいいから。
一つしかないスプーン。
それで思いつくのは。
えーっと不満そうな声を出しつつも、スプーンでケーキをすくった彼女はちょっと照れながらそれを差し出してきた。
嬉しそうに笑ってスプーンを受け入れようと口を開いたそれを遮るように、俺はこいつの腕を掴む。
「俺、ちょうどコンビニに行く用事がある。付き合え」
「は、えぇ?」
食べれると思ったそれを邪魔されて不満そうな声を出したこいつは、コンビニの言葉に嬉しそうに頷いた。
「付き合ってやるんだから、奢ってくれるんだろ!」
「……仕方ないな」
そう言いながら自分の意図した通りに事が運んで、ほっと息をついた。
が。
コンビニには来てみたものの女性が多くデザートケースの前にいて、さすがにそこに入っていく事が出来なくて二人でうろうろ店内を歩き回る。
ようやっと空いたと思って目の前に来たのだが。
初恋ショコラ
……買いづらい……っ
美味そうだけど、食べたいけど、なんでこのネーミング……
男子高生には敷居が……
「早く買ってこいよ」
「お前が食うんだから、お前がかってこい。金はやる」
よく分からない、そんな応酬。
どうしようとため息をついた俺の視界に入った、パッケージに書いてあるキャッチフレーズ。
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
……
ぷつり。
何かが、頭の中で、切れた気がした。
初恋ショコラを奪うように手に取ると、隣のあいつを置いてけぼりにして言い訳に持った雑誌と一緒にレジで会計を済ました。
勢いのままコンビニを出ると、さっさと正門を通って校舎へと戻る。
「ちょ、おまっ! 待てよ、俺のケーキ!」
何か言いながら追いかけてくるあいつの声をワザと無視して、さっさとと所属している部室に入った。
今日は活動日ではないため、誰もいない。
「なんなんだよ、突然動き出しやがって! よこせー、早く寄越せ俺のケーキ!」
やっと追いついたのか、長机の上にコンビニの袋を置いたのと同時にあいつが開いていたドアから部室に入ってきた。
癖なんだろう、ドアを無意識に閉めながら。
思わず、口端が上がる。
「俺のケーキちゃーん」
そんな俺に気付くこともなく、こいつはコンビニの袋をあさってお目当ての金のリボンのパッケージを取り出した。
「やっと食べれるー。お前、結構勇気あんな。食いたかったけど、ちょっと俺には買い辛れぇわ」
パッケージから取り出してふたを開け、スプーンで一口分すくう。
それを口に入れるのを見計らって、立ったままでそれを見ていた俺は口を開く。
「『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』が、キャッチコピーだってさ。どうなんだ?」
「んー?」
スプーンを銜えたまま俺を見上げた奴は、んー? と眉を顰めて唸った。
「俺、こんな濃いキスしたことねーかんなー。お前あんの? すげぇなおい」
感嘆の声を上げる奴の座っている椅子の背もたれに、片手を置く。
濃いキスはしたことない。
なら、……普通のキスはしたことあるって……?
ちりっと胸を焦がす嫉妬の感情のまま、俺は上体を傾けた。
「じゃ、試して、みる、か?」
「は?」
視線を合わせて覗き込んできた俺に驚いたのか、ぽかんと開けた奴の口からスプーンが長机に落ちる。
背もたれに置いた手を奴の後頭部にそえて、もう片方の手で顎を掴む。
そして開いたままの口に、自分のそれを重ねた。
「……んぅっ?」
お互いの唇が触れて、やっとどっかに飛んでいた意識が戻ったらしい。
跳ねるように逃げようとした奴の体を、顎を掴んでいた片手で抱き寄せる。
俺を遠ざけようと押しのける両手ごと抱き込むと、何度も角度を変えて口腔を貪った。
粘膜をこすり合わせるこの行為を好きだと思ったことはなかったが、相手がこいつだと感じるものが何もかも違う。
自分が求める奴の一挙手一投足全てに、感情を持っていかれる。
唸り声をあげながら逃げようとする奴の舌を探り出して、絡め取った。
口端から零れた唾液に、見開いたままの目に薄く張り始めた透明な涙の膜に、微かに赤く染まる頬に。
俺の劣情が煽られる――
「……ん……はっ」
名残惜しかったけれど、これ以上は自分が堪えられないと俺は甘い唇から離れた。
零れた唾液に目がいき、舌先を伸ばしてそれをなめとる。
ぽやんとしていた奴はその感触で我に返ったらしい。
口を両手で隠すと、座ったまま後ろに仰け反った。
床と擦れる椅子の足が、鈍い音を立てる。
「ケーキと俺のキス、どっちが……よかった……?」
……どちらの答えが返されても、お前を逃がすつもりはないけどな……
カーン!
妄想終了
和紗さんは満足そうに語り終えると、満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう! 君のおかげで、一本ネタげっとー♪」
げl、げっと……ぉ?orz
それはもう嬉しそうに笑って、僕の上からどく。
そしていそいそといつものノートに、今の話をメモり始めた。
僕は半ば呆然としたままその姿を見ていたけれど、チキン肌レーダーを思い出してがばっと起き上がった。
「ちょ、ちょっと待って! 今、今の二人って……!!」
もしかして、もしかして……!!
和紗さんは何やら必死な僕を不思議そうに見て、小さく頷いた。
「うん、高野(仮)に迫られる変態の話」
「ちょ、それやめてぇぇぇぇぇ!!! 前の話だけじゃなかったのぉぉぉ!?」
涙目な僕に、和紗さんはとってもいい笑顔で答えてくれました。
「すっごい人気だったから、シリーズものにしようと思って。いろんなシチュ思いつくから、。ホント好きよ」
「え、好き?」
「うん。あんたたちカップル」
ばたり。
僕のHPはマイナスまで削られました。
「大丈夫? 彼氏呼ぼうか?」
「目の前に彼女いる」
「呼んであげるよ、彼氏の高野」
「やめてぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!」
……彼女から彼氏がいると言われる彼氏って……orz
力の抜けた僕は、せっかくの和紗さんのお部屋でしくしく泣き続けました。
くそ! 次こそは……次こそはぁぁぁぁ!!!!
ネタを下さいましたトムトムさん、ありがとうございました≧▽≦
またお読みくださいました皆さま、ありがとうございました!