一歩進んで五歩下がる。前編―僕と彼女の地味な攻防から、和紗と僕―
お久しぶりです、皆様。
皆で初恋ショコラ企画、参加作品二つ目です。
本編「僕と彼女の地味な攻防」にも同じ内容を投稿していますが、
あちらのみご覧になってる方もいらっしゃると思いますので、 投稿させて頂いております。
今回の「一歩進んで五歩下がる・前編後編」は、BL描写が出てきます。
メインは男女カップルですが、腐った女子が暴走しています。
また、R15相当の描写がありますので、苦手な方はブラウザバックでお願いしますm--m
やぁ、久しぶりだね!
僕だよ! 忘れてないよね、……忘れてないよね?
一応ね、僕ってば今ね、顔がにやけるのをすっごい我慢してるんだ。
どれだけ我慢してるかというと、ひきつりそうなくらいかな!
顔面どころか、力の入ってる首とかもね!
だって、あなた、ちょっときーてくださいよ!
今、僕ってばどこにいると思う?
それはね。
「あぁ、暑かったら適当にクーラーつけて」
「う、うんっ」
決してパステルカラーがあふれているわけじゃないけど!
現実→モノトーンベースの色味はあって青か緑
ぬいぐるみとかおいてないけど!
現実→ケント紙とかペン軸とかスクリーントーン入れとか満載
甘い匂いもしないけど!!
現実→インク、もしくはホワイト(修正液)の匂い漂う
ここは、和紗さんのお家の和紗さんのお部屋!! です!(๑ÒωÓ๑)キリッ←初登場
言われた通りクーラーをつけて、示された場所に腰を下ろす。
あれだけ攻防を繰り返している僕が、なぜここにいるかというと。
――ほんの少し前を回顧――
「こんにちは、和紗さん」
「……お疲れ様」
……彼氏に対して、お疲れさまって挨拶はなんだろうおかしいよねおかしすぎるよね。
まぁ、いつものことだからといつものベンチに腰を下ろす。
さすがに暑くなってきたからいつもの指定席のベンチには、ペットボトルのお茶が一つ置いてあった。
……僕の分がない所が、和紗さんらしいよね! ……orz
でもいいんだ、今日の僕は一味違う!
手に持っていた、コンビニ袋を膝の上に置く。
そこには、当然ないだろう僕の為の飲み物と……。
ちらりとのぞく、透明なプラスチックの容器と黒色のフタに金のリボンのパッケージ。
和紗さんと食べたくて、散々探し回って手に入れたチョコケーキ!
その名も……
そこまで考えた時、視界が翳った。
何だろうと思いながら顔を上げれば、目の前に誰かのお腹。
つか、視界いっぱいに広がっていた。
いや服着てるけど。
「和泉」
目の前の腹から発せられた声は、何故か怒気と困惑を含んでいた。
まぁ分かってるよ、お腹が話してないこと位。
仕方なく視線をそのまま上にあげていけば、和紗さんに話しかけている割に僕を見下ろしている体格のいい男が一人。
「……なんか用?」
和紗さんは、持っていたスケッチブックをぎゅっと胸の辺りで抱きしめながら、それでも何でもない声で問い返す。
その態度がいつになく女の子らしくて、……目の前の男に僕の殺気が思わず漲った。
なんでこいつ相手には、そんな態度なの!
「……」
目の前の男が息をのむ。
僕の怒りオーラに気付いたらしい。
あのね、僕ね、和紗さん相手には脳内乙女変態ドMでも全然いいんだけど、それ他の人にしないから。
むしろ和紗さん限定だから。
「和紗さん、これ、誰?」
和紗さんを見れば、少し驚いたように僕を見ていた視線をふぃっと下に俯けた。
「クラスメイト」
「和泉」
「それ以上でもそれ以下でもない」
男が何か言おうと名前を呼んだその声を、和紗さんは被せ気味に遮った。
「何か用あるの?」
和紗さんから視線を男に戻して下から無表情で見上げれば、微かに後ろに体が動く。
「いや、用って……いうか」
「ないの? なら邪魔しないでくれる?」
「……邪魔って、その、あんたは……」
そう言った途端、和紗さんが立ち上がった。
「行こ」
それだけ言うと、気持ち早足で歩き出した。
「和泉……!」
それを追おうとした男より先に、和紗さんに駆け寄る。
そのままちらりと後ろを見て視線で男を威圧すると、僕は和紗さんについてその場を歩き去った。
で。
「なんで、あんたここにいるの?」
和紗さんにそう言われたのは、彼女の家の前。
え、だって行こって僕に言ったじゃん……
和紗さんは自分で言った言葉を思い出したのか少し罰悪そうに眉を顰めると、僕を自宅に招いてくれたのだ!!
招いてくれたのだ!!
もう一度言う!
招いてくれたのだぁぁぁぁ≧▽≦←初登場ぱーと2
で、冒頭に戻る。
和紗さんの部屋は、まごうことなく和紗さんのお部屋でした。
多分書き途中だったのか、原稿が置かれていて。
そして……無造作に机に置かれた薄い本や、本棚に鎮座まします薄い本や、散らばっている薄い本。
……薄い本だらけかよ!!!
うん、いいんだ。諦めてたから。
本棚の大半を占める薄い本と、薄くないけどどう考えてもそちらの本の合間にたまに入ってる少女漫画に思いを馳せるから。
でもあれだけ人間観察とかしてるだけあって、原稿に描かれている絵は上手いと思う。
ありえない位美形だけど。
男かよって突っ込み……いやそう言う意味じゃなくてね……入れたくなるような、線の細い青年の絵。
多分これが日常なんだろうって想像できる、素の和紗さんを感じられる部屋。
最高です(๑ÒωÓ๑)
「あー、君には目に毒かもしれないものがたくさん散らばってるけど、気にして嫌ってくれて構わないんだけど」
「むしろ、和紗さんが好きすぎて大変です!」
「……あー……、そう」
開いていたドアからペットボトルを二つ持って現れた和紗さんの言った言葉に、脊髄反射で答える。
顔をひきつらせながら僕とローテーブルを挟んで向かい側に座った和紗さんは、変な人……と呟きながらペットボトルのふたを開けた。
「あぁ、ごめんねペットボトルそのままで。私よく飲み物零すから、この部屋ではペットボトルのまま飲む癖付けてるの」
「そうなんだ」
特に気にしなかった僕は、つられるようにボトルのふたを開けた。
夏らしく、麦茶の香ばしい匂い。
「テレビでもつける? 普段あんまり見ないから、気付かなかった」
「あ、僕も別に……」
そう断ろうとした僕の言葉を待たず、和紗さんはさっさとテレビの電源ボタンを押した。
ぱっと映ったのは、コンビニのデザート売場。
「ん?」
見覚えのあるこれは……
テレビ画面の向こうでは、男が二人、なぜかコンビニのデザート売場に並んで立っていた。
なんかこう、気まずそうな雰囲気で。
その姿は、今人気絶頂のアイドルグループの二人だ。
このバージョン、僕初めて見るなぁ……。
さて。
初恋ショコラというものを、皆さんご存知だろうか。
コンビニスイーツでお手軽なんだけどスプーンでもフォークでも食べられる程よい濃厚さと、従来品よりもカロリーオフ、何よりもおいしいという噂。
その上、人気アイドルグループを起用したCMが大当たりして、今じゃ売り切れ続出見つけるのが大変になってしまった人気商品。
そ・れ・を! 僕は探してきたのですよ!
じゃーん←内心の声
テレビに顔を向けている和紗さんは、向かいの僕の動きに気付かない。
ふふふ、ふははははは――
僕は、コンビニの袋から初恋ショコラを取り出して、そのままパッケージを破る。
CMのアイドル二人は、何やらお互いに言い合いながら初恋ショコラを手に取ろうとするけれど、どうしても躊躇してしまう……そんなシチュエーションらしい。
ぴくりと指を動かしては困ったように視線をうろつかせる二人は、世のおねーさまたちにはたまらないシチュエーションかもしれない。
うちの和紗さんは、腐っているおねーさまだから大丈夫だと思うけどね。
そーっと音を立てない様に、黒い色のふたを開けてスプーンを手に取りテーブルにケーキの入ったプラスチックケースを置く。
そしてスプーンで一すくい。
そこでテレビ画面に視線を移せば、男二人が初恋ショコラを買うのを諦めるところだった。
悔しそうに、でもホッとした色を滲ませて。
そこで、二人の目に映ったキャッチコピー
『ケーキとぼくのキス、どっちがすき?』
「……ねぇな」
ぐっと押し黙った男たちは、二人してぽつりと呟くとそのまま視線を横にそらした。
ここぞとばかりに、僕は、頑張る!
「和紗さん」
「何?」
じっとCMを見ている和紗さんに声を掛けたけれど、全くこっちを向いてくれない。
おかしいな、和紗さんは腐ってる人だから、乙女心がキュンとしちゃうよーなCMシチュ、興味ないんじゃないの?
こっちを向いてくれない和紗さんに焦れて、僕は座っていた腰を浮かせた。
彼女の横に何とかにじり寄り、横から小さなスプーンを彼女の口元に寄せる。
「ケーキとぼくのキス、どっちがすき?」
「……」
答えられるわけがない、キスしたことないんだから。
だから。
「試して、みない?」
脳内乙女攻撃!!
頼むから、僕の口説きに少しは反応してください……!
強く願っただからだろうか。
びっくりする返答がきた。
「うん」
「そっか、駄目だよね……ってあれ? うん?」
ぱくり。
和紗さんが、スプーンを加えた。
そのまま僕を見つめる和紗さんは、いつもと違って女の子オーラを出していて。
僕の鼓動が、思わず、跳ねた。
うんって、言ったよね。間違いなく言ったよね、僕、耳腐ってないよね。
じっと和紗さんを見れば、同じように見つめ返してきて。
じわじわと湧き上がる嬉しさに、僕は和紗さんの肩にゆっくりと手を置いた。