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三題話

作者: nino

 小説の執筆は夏休みの宿題に似ている。


 分量や作風にもよるだろうが、普通小説はどれほど頑張ろうとも一日二日で「ハイ、完成」とはいかないものだ。定められた締め切りに間に合わせるためには、しっかりとした青写真を描いて毎日コツコツと文章を積み上げていくしかない。

 しかし、大半の人間にはその“毎日コツコツ”というのが非常に難しいのもまた事実。

 まだ大丈夫、まだ大丈夫と思っているうちに締め切りというのはすぐ近くにまで迫っているもので、焦った作家が八月三十一日の小学生のように泣きながら執筆を行う、なんてことも……まあ、珍しいことではない。それで書き終わればまだマシだが、間に合わなかったときは悲劇だ。作家自身だけでなく、原稿を待っていた全ての人に迷惑を掛けてしまうだろう。これはプロとして作家をやっている人間にとっては深刻な問題だ。


 けしてメジャーとはいえない三流小説家の私である。締め切り破りなんて事をやってしまった日には一気に信用はガタ落ち。どこの出版社からも見限られてしまうだろう。小説が書けなければ私は三十二歳にして無職だ。そんな未来は想像するだけでもおぞましい。

 そうならないために、最近私は一つの秘策を編み出した。

 それは“執筆中、一切時計を見ない”というものだ。

 無論、誰にでもすぐ理解してもらえる方法でないことはわかっている。しかし「おいおい、それは逆効果じゃないか?」と思った皆さん、今一度よーく思い返してもらいたい。こんな経験は無いだろうか。

 朝、目覚まし時計を見ると普段よりも随分と早い時間であることがわかった。なんだ、こんな時間なら余裕じゃないか。よーし、折角だからもう一眠りするか――で、寝坊。

 この時の問題点はなんだろう。そう、時計を確認したことによる油断だ。

 まだまだ十分時間がある、と思ってしまったのが運の尽き。人間は基本的に楽をしようとする生き物だ。時間に余裕があれば、急いで行動しようとは考えない。肝心なことはいつだって先延ばしにして目先の易きに流れる。結果、あったはずの余裕をみすみす失って、締め切り直前の修羅場を味わう羽目になる。

 そんなことになるくらいなら安心感など味わわない方がマシだ。時間がわからないことによる不安が私の執筆環境に適度な緊張感を与える。結果、執筆の速度は上がり、余裕を持って原稿を仕上げることが出来るようになるのだ。自慢じゃないが、私はこのやり方を考案してから今まで、締め切り三日前に原稿が出来上がっていなかったことはない。


 今日もいつも通り、その方法で原稿を書いている。カタカタとワープロのキーボードを叩く指の動きも好調だ。この分ならもう最後まで一気に書き上げられるかもしれない。

 しかし、何だ……まあ人間、空腹には勝てないわけで。

 冷蔵庫はほとんど空だったので、外食でもしよう。


 ガチャリ、とドアを開けて、そこで気付いた。

 私の執筆方法、唯一の欠点。


「今は夜中か。……困ったな」

割と実話(笑)

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