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《みんな欠けている》

~失楽園~ その後の世界

作者: 白い黒猫

挿絵(By みてみん)



――旧約聖書において、アダムとイブは神に禁じられていた『善悪の知識の実』を食べることで恥じらいを覚え楽園を追放された――


 この物語は中学時代、英語の教科書にあった。当時読んだものの、『善悪の知識』を得ることがなんで楽園を追放される事に繋がるのか、恥じらいを覚えることが何故悪いことなのかピンとこなかった。またその時は構文をどう訳すかの方に注意がいっていたこともあり、その物語が意味することなんて深くも考えなかった。


 だけど、自分に彼女という存在が出来てから、アダムとイブが何故楽園を追い出されたがよく分かる。

 僕は、人を愛するという事を自覚してから、酷く醜い人間になった気がする。

 人と争う事も苦手だし、人を出し抜いて喜ぶなんて事もなかった。ただ過ぎゆく時間をノンビリと無邪気に楽しんできていたと思う。

 でも僕は知らない間に、禁断の実を食べ、そして嫉妬という感情を知る。


 彼女と友人が仲良く笑い合っている様子が溜まらなく嫌だった。あの子へ気持ちが愛だと実感したのも、嫉妬からだった。僕はその生まれて初めてわき起こる何とも嫌な感情と、その子に対する執着心と独占欲から、彼女への気持ちに気が付いたのだ。


 僕だけの存在にしたかったから、思い切って告白した。彼女が顔を真っ赤にして照れながらも頷くことで晴れて恋人同士になった時に、僕の心にわき起こったのは今まで自分が感じたことのないほどの幸福感と、彼女が友人でもなく誰でもなく自分を選んでくれた事の優越感。そしてその幸せだけでは我慢出来ず、彼女にキスをして、さらに彼女と身体を繋げてと、僕はどんどん貪欲になっていく。


「綺麗ですね! 夜空が東京と全然違います。圧倒されてしまうというか」


 空を見上げていた彼女が、はしゃいだ声をあげる。僕のすぐ隣から洗ったばかりの彼女の長い髪からシャンプーの良い香りがする。

 夏休み、親達には『部の合宿』と嘘ついて山梨へ旅行にきている。今夜は流星群が最大の見頃という事で、ペンションを抜け出し、見晴らしの良い丘で二人っきりで夜空を見つめていた。田舎育ちの僕には、こんな星空は見慣れたものでも、彼女には壮観な光景だったようだ。彼女はその光景を目に焼き付けるかのように空をジッと見上げている。


「そうだね、これなら流星群も綺麗に見えるかも」


「ですよね!」


 彼女は頷く。ペンションで借りた一枚のブランケットを寄り添って二人で使い、互いの暖かさを感じながら静か空を見上げていると、まるでこの世界は僕達二人っきりになったような気がしてくる。その閉ざされた狭い二人だけの世界が、僕にはまた心地よかった。

 僕達は誰が聞いているわけではないのに、顔を寄せ合い、声を潜めて、他愛ない会話をしてクスクスを笑い合う。そんな僕達の上空を小さな光りがスッと流れ消えていく。


「あっ、流れ星! 見えました?」

 

「うん、僕にも見えた、ほら、また!」


 先程の流れ星が最初の合図だったかのように、それから次から次へと小さな光が空から溢れだす。

 最初こそ空を指さしながら、声を上げはしゃいでいたけど、まさに降るように星が流れていくというあまりにも美しい光景に、しだいに言葉をなくし二人でただ見入ってしまった。

 どのくらいそうしていただろうか? 僕は段々、流れ星よりも隣に座っている彼女の存在の方が気になりだし、その様子を伺う。暗くて表情はハッキリと分からないけれど静かに何かの想いを込めて空を見上げているように見えた。


「何か、流れ星にお願い事しているの?」


 彼女は何故か照れたように下を向く。

 

「先輩は?」


 チラリとコチラを向き、逆にそう聞いてくる。


「ずっと二人でこうしていたいという事かな」


 普段だったら、とても事言えないけれど、暗くて互いの表情がよく見えないこの状況だから、こんな恥ずかしい事もスッと言えたのかもしれない。

 彼女の表情があまりよくは見えなかったけど、一瞬息を飲む気配と、それがフッと緩むそんな雰囲気が伝わってくる。


「……一緒ですね」


 彼女が甘えるように身体を寄せてくる。僕はそんな彼女を抱きしめてキスをする。

 確かに僕は、無垢でも無知な子供ではなくなった。彼女との出会いによって、かつてアダムとイブがいたような楽園には相応しくない人間になったかもしれない。でも僕は新しい楽園をココに見つけたような気がする。ココは今まで感じた事のないネガティブな感情に翻弄され戸惑う事はあるけれど、今まで味わった事のない喜びと幸せを僕に与えてくれる。


 僕が星の望む事はただ一つ


――僕と彼女だけの楽園がいつまでも続きますように――



 蒲公英さんの主催の《愚者の楽園》というイベントの参加させて頂きました!

 引き出しがないので連載中の小説『アダプティッドチャイルドは荒野を目指す』の一部を短編として纏めさせて頂いております。

 内容的には今現在連載されている物語のほぼ一年後のエピソードです。

 実際この時期の物語を書くと、かなりテイストも変わって表現されると思います。

 今のこの状況が、こうなって、その後どう繋がっていくのかも合わせて楽しんでいただけたら幸いです。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 間の取り方や進行のペースなどが丁度よくて読みやすかったです。心理・情景の描写にも余裕があり、読む最中に窮屈さを感じませんでした。 [気になる点] 『悪い点』として指摘する程でもありませんが…
2011/08/27 13:38 退会済み
管理
[一言] 蒲公英さんのところからきました。 きれいな仕上がりですね。ネガティブな入り方からのポジティブな終わりがすごくきれいです。 この話の過去の世界、時間ができましたらおわせていただきます。
[一言] 読ませていただきました~^^ 同じ企画に参加されていたんですね! 実は僕が楽園という単語で最初に思いついたものはこのアダムとイヴの楽園追放だったのですが、うまく物語にできなくてあきらめたんで…
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