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泥のアパート

作者: 加上鈴子

お題の妖怪「泥田坊」を使って創作した、同人誌「へんぐえ~せるりあん~」へ寄稿した作品です。

 田んぼを潰して建てたのだというアパートに引っ越ししたのは、桜の咲く頃だ。主人の転勤で住まいを捜していたところ、手頃な物件に行きついた。営業マンが、いわくありげな顔を覗かせたのが演技だったのか本気だったのか分からないが、なるほど夏になったら少し変な臭いが漂うアパートだった。

 でも特に霊的ないわくは何もなく、臭いも窓を閉めればやりすごせる。住まいとしては。だが精神的には、どうも平穏とは言えない状況になっている。

 アパートに美人がいて、主人が心惹かれているらしく、彼女に見あった格好がしたいんだか何だか、金使いが荒くなったのだ。貢物もしているかも知れない。それにともない私への言動も乱暴になり、よく怒るようになった。謝ったって、謝り方が悪いだとかで許されない。どうすりゃいいのよと泣きたくなるが、泣くとウザと怒られる。

「奥さん大丈夫かい? 顔色が悪いみたいだが」

 心配してくれる大家さんに愚痴るのが唯一の楽しみといってもいい昨今である。臭いもあって家にいたくないから外をフラフラして、主人が帰る頃に家に帰って。当然、部屋も荒れてくる。引っ越ししたいけど、いい場所がなくて、仕方がなく住み続けている。

「気が晴れること、したらどうだい? 家庭菜園とか、どうだい?」

 お爺さんな大家さんの提案には生返事しかできないけれど、それもいいかなとは思う。パートに出るのもいい。でも専業主婦が長いと、どうにも働ける気がしない。かといって、こんな状況じゃ子供もできないので、ぐうたら主婦と主人には吐き捨てられている。

「ぐうたらなんてしてないってのよ、ひどいよね。毎日ご飯だって作ってるし洗濯もするのにさ!」

 と愚痴ると、大家さんが「大変だねぇ」と微笑んでくれるので救われる。

「息子夫婦もアパート建てたはいいもののケンカが絶えなくて、離婚しちゃってね。本当、夫婦は大変だよね」

「やだ大家さん、まだ大丈夫よ、離婚までは……」

 尻すぼみになってしまう自分の声が、日に日に弱くなっていく。

 しかも、あんまり愚痴りまくっていたせいか、この頃、妖怪じみた大家さんを夢に見るようになった。

「田を返せ」って。

 どういう意味があるのか疑問だけれど夢だし、アパート建築の事故で指をなくしたとかいう大家さんには、さすがに申し訳なくて訊けないでいる。臭いの元も気になるけど、建物の下に、指2本、埋まっちゃったままなんでしょうか? なんて訊けない。

http://www29.atwiki.jp/hengue/ 他の方々が素晴らしい一冊。ぜひ! 「へんぐえ~せるりあん~」妖怪短編集、第3弾。

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