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日本生まれの平和主義者の私が、貴族に生まれ変わって溺愛されるまで

作者: 都宮 アキ
掲載日:2026/08/08

 物心ついた頃にはダイアナ・ネザビー伯爵令嬢は自分が日本人の生まれ変わりだということに気が付いていた。

 前世は普通に学校に行って、普通に社会人になって、普通にアニメやドラマを楽しんだ人生で、ただ普通じゃなかったのは割と若くして亡くなったことだった。


 それもあってかダイアナはとにかく争いというのが苦手だった。

 家族が言い争ったり、メイド同士で争いがはじまるとすぐに止めに入り、話し合いで争いを諫めた。


 それが周りからは好印象で、ダイアナの周りには自然と人が集まった。

 友人も多く、婚約者も早々に決まったぐらいだ。


 ダイアナはこの平和で幸福な生活がいつまでも続くと思っていた。


 だが、そうはならなかったのだ。







「ダイアナ! 君とは婚約破棄だ! そして僕はシャーロットと新たに婚約を結ぶ!!」

「ああ、嬉しいですわ!」



 学園のパーティーがはじまってすぐの会話。

 ダイアナの目の前で従妹のシャーロットが婚約者――今となっては元婚約者になってしまうが、その彼にしな垂れ掛かっている。

 シャーロットは視線だけはダイアナに向けて、くすり、と笑っていた。


 これにダイアナは(またか……)と思う。



(また、私はシャーロットに譲らなければならないのね……)



 ダイアナはキュッと唇を噛み締め、俯いた。


 ダイアナの転機は十歳の冬だった。

 両親が雪道の馬車で事故を起こし、共に亡くなった。


 その後、ネザビー伯爵家は叔父一家が引き継ぐことになったのだが、この叔父一家というのが曲者だった。

 叔父一家は底意地が悪く、特にダイアナと同い年のシャーロットはことあるごとにダイアナを虐めた。


 殴る蹴るならまだ優しい方なのかもしれない。

 仲の良いメイドたちは全員辞めさせられ、ドレスはすべてシャーロットのものに、食事は一日パン一つ、身なりを整えさせるのも禁止し、屋根裏部屋に住まいを移された。


 それでも平和主義者だったダイアナは我慢した。

 ここで自分が反抗して争いが起こるのは心が苦しかったからだ。


 すべて叔父一家、そして、シャーロットの思い通りにさせてきた。



(遅かれ早かれいずれはこうなったのかもしれない……私にはもともと不釣り合いだったのよ……)



 六歳で決まった婚約者は自分にはもったいないほど素敵な人だった。

 満足に教育を受けておらず、流行を追えない自分がどうして婚約者のままでいられるというのだろう。


 それなら叔父一家からの愛情を一身に受け、一流の家庭教師から学び、流行の品々を湯水のごとく与えられているシャーロットの方を選ぶのなんて決まっている。



(はぁ……これから私、どうなるのかしら……)



 家に帰ったらきっと叔父夫婦に馬鹿にされる。

 シャーロットにも馬鹿にされる。

 メイドたちからも馬鹿にされるに決まってる。


 それで私は婚約者がいない令嬢として屋根裏部屋に一人戻るのだ。



(……いいえ……もしかしたら追い出されるかも……今まで婚約者がいたから追い出されなかっただけで、今はその理由もなくなってしまった……)



 ダイアナは前世で見てきた数々のアニメやドラマのストーリーを思い浮かべていた。

 主人公が虐げられる。それを救うヒーローが現れる。

 そこまで想像し、ダイアナは「ふふっ」と笑った。



(そんなの、現実で起こるはずないのにね……おかしい……私には誰も助けてくれる人はいないのだから)



 ダイアナの目に涙が浮かび、床に落ちた。

 貴族が感情を露わにしてはいけない。

 今は亡き母から言われた言葉だが、どうしても今は守れなかった。


 次々と涙は落ちていき、ドレスを濡らした。

 古臭いスパンコールが涙を受けて精一杯輝いていた。


 そうしてダイアナが静かに泣いていると、突然背後から肩を抱かれた。



「えっ……?!」



 ダイアナは驚き、目元の涙を拭うのも忘れて振り返った。

 すると、そこにいたのは一人の男性だった。

 

 プラチナブロンドの美しい髪。

 切れ長の瞳はダークグレーとダークブルーの珍しいオッドアイ。

 中性的な顔立ちで、女性から人気のトリスタン・オータムフィールド侯爵子息だ。


 同じ学年ではあるもののダイアナは彼のことをよく知らない。


 そんな彼が何故自分の肩を抱くのだろうか。


 ダイアナの混乱は次のトリスタンの一言でさらに深まった。



「婚約破棄をしたというのなら、俺が貰おう」

「えっ?」



 ダイアナは目をぱちりと瞬いた。

 周囲からは「キャアアァァァァァァ!! トリスタン様ァァァァァァァ!!」という悲鳴が聞こえてくる。


 トリスタンは端正な顔をダイアナに向ける。

 その顔にダイアナは見惚れ、頬を赤らめた。



「涙が止まったのならここから出よう」

「えっ、えっ、待ってくださいっ! あの、トリスタン様っ!?」



 何が何だか分からない。

 そう思いながらダイアナは足に力を込め、手を引くトリスタンに抵抗した。

 そうするとトリスタンは目を眇め、口角を下げた。

 そして、



「いや、待たない」

「きゃっ!!」

「キャァァァァァァァァ!! トリスタン様ァァァァァァァァァ!!」



 トリスタンはダイアナを軽々と横抱きにしてみせた。

 するとまた会場が湧く。


 ダイアナは困惑と注目された恥ずかしさにトリスタンの胸に顔を寄せた。



(一体、何が起こってるの……?)



 まるでアニメみたいだ。

 ダイアナはそんな風に思いながら、トリスタンによって無理やりその場から退場させられるのだった。







 ダイアナがようやく口を挟むことができたのは、オータムフィールド侯爵家の馬車に乗せられたときだった。



「あのー……トリスタン様……」

「なんだ?」



 トリスタンはこれまで見たことのないような優しい笑顔をダイアナに向けた。

 思わずこれにダイアナは目が潰れそうになった。



(イケメンだ! 間違いなくトリスタン様は前世で言うイケメンだわ!)



 世が世ならアイドルになっててもおかしくないだろう。

 いや今世でも歌やダンスで覇権が取れるかもしれない。



(いや、そういうことじゃなくて……!!)



 ダイアナは規格外のイケメンを目の前にしてつい違う方向に思考が飛んでしまうのを慌てて止める。

 そして胸の内の疑問を口にした。



「……なんで先ほどはあのようなことをしたのですか?」

「君のことが好きだからだが?」

「す、好き!?」

「ああ」

「えと、その、でも、私、トリスタン様とお話したことありませんよね……? クラスも違いますし……誰かと勘違いしてませんか……?」

「勘違いしてない。俺はずっと君だけを好きだったんだ」

「はぅ……」



(イケメンからの愛の告白って、凄いのね! 心臓が痛い……!)



 ダイアナはドキドキし過ぎて呼吸が上手くできないほどだった。


 気持ちを落ち着けようと馬車の窓から外を眺めると見知らぬ道を走っていた。

 てっきり自分の家に送り届けてもらえるのかと思っていたのだが、どうも違いそうだとダイアナは気が付いた。



「……トリスタン様……この馬車はどちらへ向かっているのですか?」

「俺の家だが?」

「えっ、あっ、そうなのですねっ! では、この辺で下ろしていただいてもよろしいですか? この辺ならまだ歩いて家に帰れると思いますので」

「ん? なんで帰るんだ?」

「え? なんでと言われましても……私の家ですから……」

「婚約者なんだから、帰るなら俺の家でも問題ないだろ?」

「はい??」



 この短時間に何度驚かされるのだろう。

 ダイアナは目の前のイケメンがただのイケメンでないことに、このときようやく理解できた。



(トリスタン様って、結構ぶっ飛んでるのね……っていうか、天然?)

「何かおかしいか?」

「はい、えええと、その、まだ私たち婚約を結んでいませんよね……? まずはトリスタン様のご両親に、それと私は叔父夫婦に相談しなくては」

「別に当人同士が愛し合っていれば周囲の許可などいらないだろう?」



 トリスタンはきょとんとした表情をする。

 トリスタンの考えは現代日本なら通用するものだろうが、ここは中世ヨーロッパに似た世界だ。

 ましてやお互い貴族なのだからそんなことがまかり通るわけがない。



「それともダイアナは俺のことが好きじゃないのか?」

「はえ?」

「俺みたいなタイプは嫌いか?」

「あぅ、そのぉ」

「婚約を申し込まれて嫌だったか?」

「い、嫌じゃないです!! 嬉しかったです!!」

「そうか、それなら良かった」



 トリスタンは十人が見れば十人が惚れる笑顔でそう言ってのけた。


 これにまたダイアナは心臓が痛くなった。



(無理! こんなイケメンに観覧車みたいな狭いところで迫られて、婚約を断れるわけないじゃない!!)



 ダイアナはもう一度気持ちを落ち着けるために馬車の窓から外を見つめるのだった。



 しばらくしてオータムフィールド侯爵家に到着し、ダイアナはトリスタンの案内で屋敷の中に入る。

 先触れがあったのかメイドとともに最初に出迎えてくれたのは妙齢の女性だった。


 トリスタンに似た容姿の美女。

 母親のクレアだというのがダイアナにはすぐに分かった。



「ようこそ、我が家へ。歓迎するわ」

「は、はじめてお目に掛かります。ダイアナ・ネザビーと申します」



 ダイアナは拙いながらもマナー通りに礼をする。

 その姿を温かい眼差しで見るクレア。


 それからクレアは優しく伝えた。



「あら、私たちはじめてじゃないのよ?」

「そう、なのですか?」

「ええ。詳しい話はあとにいたしましょう。まずはその個性的なドレスを着替えちゃいましょう」



 クレアは悪戯っ子のような笑みを浮かべて見せた。


 メイドに案内されてダイアナは客間に通された。

 そこでダイアナはいきなり入浴を勧められた。

 一度は断ったが、「奥様の言いつけですので」と言いくるめられ、仕方なくダイアナはよく知らない侯爵家の風呂に入ることになった。


 ダイアナはメイドたちに頭のてっぺんから足の先まで綺麗に磨かれた。


 そして風呂上りには手入れのされてない肌に丁寧に軽めのメイクをされ、枝毛だらけの黒髪は軽く鋏を入れられた上で綺麗に整えられた。


 用意された流行を取り入れたドレスは少しサイズが大きかったのでメイドが手早く直してくれた。


 鏡に映る自分は普段見る同級生と同じ貴族の少女なのだと実感できるものだった。



(やっぱり、メイクのあるなしだと見え方が違うわ)



 頬に紅を入れるだけでこうも明るく見えるのかとダイアナは感心した。


 そうして客間で身支度を整えていると、部屋の扉がノックされ、別のメイドがダイアナを呼びに来た。



「ダイアナ様、旦那様と奥様、それからトリスタン様がお呼びです」



 次に案内されたのは中庭だった。

 中庭にはガラス張りの温室があり、そこにトリスタンとオータムフィールド侯爵のブロデリック、そして、先ほど出迎えてくれたクレアが待っていた。


 ブロデリック侯爵は王宮騎士団団長という肩書で、その肩書に恥じぬ頑強な体格だった。

 顔には戦いでついた傷跡が残っていて、鋭い眼光で睨まれるとダイアナは緊張が走った。


 直立し、指まで伸ばして腰を九十度に折る。



「こ、この度はありがとうございました!! そしてすみません! 色々とご迷惑をお掛けして!!」

「あ、ああ……」



 ダイアナの勢いのある謝罪にブロデリックは戸惑ったような表情をした。

 これにクレアはくすくすと笑う。



「ダイアナさん、謝る必要はなくてよ? ほら、そちらに座って」

「は、はいっ! 失礼します!!」

「ふふっ。もう、あなたが怖い顔するからダイアナさんがびっくりしてるでしょう」

「そ、そうなのか?」

「ええ。ほら、スマイル。笑顔になって」

「こうか?」

「うーん、65点ってところかしら?」

「うむ……手厳しいな」



 ダイアナが椅子に腰かける間にブロデリックとクレアがそんなやり取りをしている。

 仲が良い姿にダイアナは緊張が解れた。


 クレアがそれに気が付いて、ダイアナを見て微笑んだ。



「紅茶をどうぞ」



 メイドを下げさせ、クレアが手ずから紅茶を人数分淹れた。


 そして腰を落ち着けると、トリスタンが口を開いた。



「それで結婚式の日取りなんだが、できれば学生のうちにしたいと思っている」

「ぶっ!? ちょ、ちょっと待ってください!!」



 飲もうとして口に入れていた紅茶を思わずダイアナは吹き出し、待ったをかけた。

 これにクレアも続いた。



「そうよ、トリスタン。まずは婚約発表が先よ」

「そうか」

「そうではないです! あのー、クレア様? 婚約とか結婚とか、話が早すぎませんか?」



 ダイアナは眉を下げてクレアを見つめる。

 クレアはこれに首を傾げてみせた。



「そうかしら?」

「そうです。だって、私とトリスタン様がちゃんと話したのは今日がはじめてですよ?」

「でも貴族の結婚ってそういうものではなくて? 私なんて主人とはじめて会ったのは結婚の場でよ?」

「そうなんですか?」

「そうよ」

「そ、そういうこともありますけど、でも、トリスタン様は人気な方ですし、私なんかよりも素晴らしい方がいると思います」



 ダイアナはそこで頭の片隅に追いやっていた今日の出来事を思い返す。

 それからチラリとトリスタンを見て、恐る恐る口を開いた。



「……トリスタン様はお優しいから、学園パーティーの最中に私が目の前で婚約破棄をされたのを哀れに思って手を差し伸べただけなんです……」

「でも、うちのトリスタンはあなたのことが好きなのよ?」

「そ、それは、建前というやつです。優しいから、私を助け出すために婚約を持ち出して、婚約の理由を私のことが好きだからということにしているだけです……」



 馬車の中で言われた言葉を本当だと受け取るにはあまりにも唐突過ぎた。

 それにどうしても本音と建前というのを気にしてしまう。

 彼の本心かどうかがどうしても分からない。



「私は特別美しいわけではないです……特別頭が良いわけでもありません……人並み以下です……それなのにトリスタン様ほど優れた方が私を選ぶ理由はありません……」



 それがダイアナの気持ちだった。

 アニメみたいな展開。

 だがどこかに落とし穴があるんじゃないかと気持ちが落ち着かない。


 ダイアナはテーブルに視線を落とした。


 するとクレアがダイアナの手を取った。

 ハッとして顔を上げるとクレアがダイアナを慈しむような目を向けていた。



「……さっき、私たちはじめましてじゃない、と言ったわよね? 実はね、私たち夫婦はあなたの亡くなったご両親の学生時代からの親友だったの」

「父と、母の……」

「ええ。私たち四人はいつも仲良くしていたの。だから、よくお茶会を開いてはお互いの家を行き来していたのよ」

「そうだったんですね……すみません……記憶になくて……」

「ううん。仕方が無いわ。あんなことがあったんだもの。……ご両親が亡くなってから苦労されたわね……私たちはずっとあなたのことを心配していたのよ……」



 そう言うクレアの目に薄っすらと涙が浮かでいた。


 亡くなった大好きな両親。その両親のことを想ってくれ、さらにはその娘である自分を想ってくれたクレアの優しさにダイアナの胸は締め付けられる。


 ダイアナの目にも涙が浮かんだ。



「今のネザビー伯爵になってからよくない噂ばかりを聞いて、何度あなたをあの家から連れ出そうと思ったか。でも、立場的にあなたを助けられなくて本当に心が苦しかった。何もできなかった私を許してね」

「……そのお気持ちが嬉しいです……ありがとうございます……」



 自分を気にかけてくれる人がいる。

 それがどれだけ救われた気持ちになるか。

 ダイアナは耐えきれず、一筋の涙を零した。


 それをクレアは自身のハンカチでそっと拭ってくれる。


 かつての母のように優しくしてくれるクレア。

 ダイアナはクレアに母の面影を見た気がした。


 そんなクレアはにこりと笑った。



「それでどうかしら? うちのトリスタンとの結婚」

「……大変ありがたいですが、でも、私なんかがトリスタン様と結婚なんて……」

「『私なんか』、なんて言わないで。それにね、うちのトリスタンはね、あなたのこと小さい頃からずっと好きだったんだから」

「えっ!?」

「二人はね、幼馴染なのよ。お茶会で会うと、いつも楽しく遊んでいたんだから」

「そうだったんですね!」

「そうよ。トリスタンのことを『トリス』『トリス』って呼んでね。とってもかわいかったんだから」



 その時の光景を思い出しているのかクレアはうっとりとした表情を浮かべている。

 一方のダイアナは『トリス』という言葉に覚えがあった。


 記憶の糸を辿っていると、ふと、天使のような綺麗な少年を思い出した。


 綺麗なプラチナブロンド。

 珍しいダークグレーとダークブルーのオッドアイ。


 その少年と遊んだ記憶が急に思い出された。



「トリス……覚えています……あの子がトリスタン様なんですね?」



 改めてトリスタンを見た。

 何故、今まで気が付かなかったのだろうとダイアナは思った。

 中性的な顔立ちには面影が色濃く残っていた。



「二人の婚約の話も出てたんだけど、家の格差を気にした先代が反対して当時はできなかったの。でも今なら口出しをする人もいないし、婚約は解消されたからうちのトリスタンと婚約しても問題ないわ」



 クレアは席を立つと、トリスタンの背後に立った。

 そしてトリスタンの方に手を置く。



「うちの息子。中々いい男に育ったと思うの。結婚相手に不足はないと思うんだけど、どう?」



 クレアの言葉にダイアナは思わず笑った。

 だが、ダイアナは自分の身の上を思うと素直に受け取れなかった。



「でもやっぱり、私がトリスタン様の結婚相手だなんて……私よりもっと相応しい方がいらっしゃいますわ」



 ぽつり、とダイアナは呟く。

 これまでの叔父一家、特にシャーロットに浴びせかけられた心ない言葉の数々がダイアナに自信を無くさせていた。


 信じたいが、また学園パーティーであったように婚約破棄をされてしまったらと思うと、その提案を受け入れにくかった。


 すると、ずっと黙っていたトリスタンが席を立ち。

 そして近くで咲いていた赤いバラを一本手折るとダイアナの前で跪いた。

 ダイアナがそれに驚いているとトリスタンはダイアナに向かって赤いバラを差し出した。



「俺にはダイアナしかいない」

「トリスタン様……」

「君は、子供の頃、ケンカをしているメイドたちを話し合いだけで場を収めた。俺はそれに感動したんだ。問題を力ではなく、話し合いで解決することを教えてくれた」



 トリスタンは目を細め、ダイアナを眩しそうに見た。



「みんなが君を愛していた。俺もその一人だ。君はみんなに対して優しくて、平和をこよなく愛していて、俺はそんな君を好きになったんだ」



 何かと争いの多い貴族社会。

 その中でダイアナのような存在は特殊だろう。



「俺は騎士になる。君が嫌う戦いに身を投じなければならない。だが、それも君が愛する平和を守るためだと俺は思ってる。君が守りたい平和を俺は俺の方法で守る。だから、俺と一緒になってくれないだろうか」

「……」



 ダイアナは胸が苦しくなった。


 自分を理解してくれる人が、受け入れてくれる人がここにいたことに。


 両親が死に、仲の良かったメイドたちとは別れ、友人たちは嘘の噂で離れてしまって、孤独だった。


 ダイアナの目に涙が溢れた。



「……私で、よければ、お受けします。トリスタン様」



 トリスタンの手から赤いバラを受け取り、ダイアナはぽろぽろと涙を流した。



 こうしてダイアナはトリスタンと婚約を結び、数か月後には学生で結婚をした。

 当主のブロデリックをはじめ、オータムフィールド侯爵家の全員がダイアナとトリスタンの結婚を喜び、ダイアナは新たな自分の居場所を見つけ幸せに過ごすのだった。




END

お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
ダイアナよかったね(´;ω;`) その後の元婚約者、従兄弟、叔父一家がどうなったかや、そちら視点のお話も是非読みたいです(*^_^*) ダイアナは争いが苦手ですから、本人には知られないように周りがこっ…
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