聖職者が同性愛を取り戻すために呼び出したのは悪魔でした
私の家庭はめずらしいことに日本人の家系の生まれなのに、キリスト教という宗派の生まれだった。
宗教とは、実に面倒くさいものでその掟に従おうとすればするほど、規則の中にある矛盾と向かい合って生きている日々のような気がする。
そう、それは私(聖愛)も例外ではないのだ。
「私の願いを叶えるためにいでよ…Belial」
それでも家庭の事情はクソ喰らえな私は、その夜自分の部屋に魔法陣を書いくと、とある悪魔を呼び出すことに成功した。呼び出されたモノは、悪魔であるのに悪魔の中でも高貴な存在で、私なんかが呼び出せるのか不安だった。
それでもやらなくちゃ!っていう私の想いが通じたのか、私の目の前に黒い羽根が生えた存在が何もないところから飛来した。
『この俺を呼びだせる人間が…まだこの時代にいるとはな……』
何もない空間から呼び出された彼は、なにやらとても楽しそうに微笑んだ。
悪魔といえば、ヤギのようなツノに恐ろしいほどの見た目で圧倒してくるのかと思いきや、ツヤのある長い黒髪に美しいまでに整った顔立ちのモノが呼び出された。
聖職者として、18年間生きてきて、悪魔に出会うのは、これが初めての事だった。
「私の願いを叶えてくれるのよね?」
私は、悪魔と向き合うとその目をそらさずに聞いた。
『代償はどうするつもりなんだぃ?』
悪魔は、私の願いを聞く前に私が何を差し出せるのかを聞いてきた。
「代償は、私の恋人の寿命を好きなだけ持っていくといいわ」
『…自分の寿命ではなく、恋人の?…これは傑作w』
悪魔に私の命ではない物を差し出せるのか分からなかったけれど、何やら悪魔はすごく楽しそうに笑い転げている。
「相手を見ればアナタにも分かるわ…私がしたいことの本質がね」
私が何故、彼を呼び出したのかというのは、彼は悪魔の中でも同性愛を謳っている悪魔だからだ。
もちろんキリスト教において同性愛はご法度中のご法度だ。
なぜなら、それは簡単な話。もしも、この世界の全ての人間が同性愛に目覚めてしまったら、世界に新しい生命は生まれてこないことになってしまうからだ。
だが、多様化社会に時代が変わるにつれて、『いまの時代』という流行が聖書が創られた時のルールを上書きさせるかのように、同性愛を法皇が認める認めない問題がことしやかに囁かれているわけだが、なんと呼び出した悪魔はもうずいぶんと昔から同性愛を人々に進めた神であった。
それはもちろん正当な神などではなく心が曲がった邪神に他ならないのだけれど、私は彼に頼らなければならない事態になってしまったのだ。
私は、悪魔に今日までのことを話した。私が、恋人の寿命を差し出すことを決めた経緯についてだ。
それは、一ヶ月前の出来事だった。同じクラスの女子が私に告白をしてきた。
それは、女子校としては、よくあることらしい。私の中での問題は、そこではなかった。
「彼女はね。私に告白してきたくせに、裏で男と付き合っているのよ…」
『ほぅ』
私の家が厳格なクリスチャンであることを知っている彼女の告白に、私はその本気さをかって付き合ったわけなのだが…フタを開けてみたら、この通りというわけだ。
『つまり、復讐がしたいというわけだ』
「なにを言っているの?なんのために貴方を呼び出したと思っているの?」
『………?』
ありきたりなお願いをされたと思った悪魔が、あまり無い人間の発言に「おや?」という顔をする。
「私は厳格なクリスチャンなのよ?彼女の気持ちを受け取るために貴方を呼び出したのよ。この恋をなんとしても成就させなさい」
そう、私はあの日。彼女の告白を受け取ったのだから、それが永遠でなくてはならない。相手を呪いたいから悪魔を呼んだんじゃない。
悪魔を呼び出さなくても何とかできたらよかったけれど、私はどんなことをしてでも彼女を私の手に戻させてみせる。
彼女が戻らないと言うのなら、それこそ悪魔に寿命を吸われつくせばいいし、彼女が戻ってきたとしても、家族を納得させる理由がそこには必要になるだろう。
『…くくっアンタ相当狂ってるwでも、筋は通してくるあたりが面白い。つまりは、アンタは悪魔に堕落させられたから同性愛者になってしまった。とでも言いたいわけだ?』
悪魔は、まるで私の思惑を読み取ったかのように、このあとに起こるであろう私の言い訳を推測してみせる。
「そうでも思わなければやりきれない気持ちになってしまったのかもしれないわね」
多様化社会という言葉を知っていても、世間がソレを本当の意味で理解する日なんてこない。
だから、同性愛が間違ったことをしている!と、思っている親を納得させるには、悪魔の彼は私にとって都合がよかったのだ。
私は、悪魔と一緒に休日の街中を歩く。彼女の居場所はGPSを使えば簡単に分かる。
『本当に彼の寿命ではなく、彼女の寿命をくれるのかい?後悔とかないの?』
あるで、悪魔に慈悲の心があるかのような問いにびっくりしてしまう。
「ないわ。彼女の寿命が短くなっていっしょにいられる時間は少なくなってしまうけれど、生涯私のことだけを見ていてほしいの」
『ふーん。一途でたいへんよろしい』
悪魔は私の頭をポンポンと撫でる。
本当は悪いことをしているはずの私が、肯定されているような気持ちになるから、なんだか心がおかしくなってしまいそうだ。
私は、恋人の浮気相手の男の家にあがると、自分の彼女がいる部屋の扉を開けた。
彼女は、浮気相手の男と一緒にテーブルでジュースを飲んでいた。
「え、あれ?聖愛ちゃんどうしたの?」
少し焦った彼女が私の方を見る。
「なんで浮気したの?」
私は、単刀直入に聞いた。
「え?違うよ?これは、ただの友達だよ?」
「貴女が、その男と寝たことはもう知ってる」
本題の核心をついた発言に青ざめる彼女。
「何言ってるの?そんな証拠どこにもないでしょ?」
証拠って何のことを言ってるの?証拠を突きつけられない人間は、みんな泣き寝入りしないといけないわけ?
あまりにも素直に謝ることができない相手に呆れてしまいそうだ。
「だって、その男を差し向けたの私だから」
『?!?』
彼女と悪魔が、なんだってー?!と、言い出そうな顔になる。
「どういうこと?!聖愛ちゃんが、彼を私に紹介したのに、寝たことを怒ってるってこと???」
「そりゃそうでしょ。貴女、私の恋人でしょ?男女が一緒にいたらスることするのは当然でしょ?みたいな顔しないでくれる?」
ついつい冷たい表情を相手にぶつけてしまった。
「それは!!聖愛ちゃんが何もしてくれないから…」
「私は、貴女を大切にしたいんだから当たり前でしょ!でも、貴女は目先の肉欲に負けたんだよ」
「……怒られてる意味がわからないんですけど…」
「そうね。だから私は、公平にジャッジしてくれる第三者を呼んできたのよ」
悪魔はずっと私の隣に立ち、人に見えているのか見えていないのかよくわからない状態でいたんだけれど、私の言葉を聞いた瞬間に、彼女と浮気相手にも見えるように現れた。
『ぇえ?!!』
いきなり現れた真っ黒い存在に二人が目を白黒とさせている。
そんな仁王立ちの悪魔は、ゆっくりと口を開いた。
『うーん…話は聞いていたが、人間が肉欲に負ける気持ちは分かるよ』
「そうよね!!」
悪魔は、召喚した私の味方ではなく彼女の肩を持ちたいみたいだ。
『けどさ、聖愛が言うように、付き合ってほしいって言ったのは君なわけだろ?別れてから彼と一緒になればよかったんじゃないか?』
なんだか悪魔のくせに正論だ。
「それは、本当に付き合いたいのが彼ではないから…」
『じゃ、相思相愛なのに、なんでこんなことになっちゃったんだろうね?聖愛が君に手を出していたら、こんな過ちはしなかったって断言できる?』
「それは……………ごめんなさい…」
私よりも悪魔のほうが優しく問い正すもんだから、彼女はぽろりぽろりと本音をこぼし始めた。
「体が満たされなくて浮気した私を…聖愛は軽蔑してるんだよね?」
ここで涙で訴えてくるのはズルくない??
「本当に一番好きなのは聖愛なんだよ?」
彼女が私に抱きついてきた。
「(…本当に信じていいのかな…」
そんな私のところへ悪魔はやってきて、優しく頭を撫でた。
『また、浮気されたら呼べよ。その時には、2回分を徴収することにしよう(おそらく、それはすぐそこだよ』
「ありがと」
なんだか、私はただ駄々をこねている人みたいな扱いをされて終わった。
たしかに悪魔にお願いした事は、彼女が私に帰ってくることだけど、なんだか一度疑ってしまうと、本当の意味では相手のことをもう信用することはできないような気がした。
彼女から、軽蔑したか?と聞かれたけれど、私が1番軽蔑したのは、ここまでされて裏切られているのに簡単にそれを許した自分自身へかもしれない。
ひとこと言いたいのは、
同性愛をしている人にとって浮気相手が異性であるってことが何よりキツイ気がする。
結局、自分に足りないモノがあるとして、
結果それは同性であるがゆえに埋められないんだよ。




