5/35
第5話:猿と狸の戦い
「織田さま、ついに始まりましたよ。秀吉の軍勢が、まるで蟻の群れのように押し寄せてきました! あんな数、どうやって跳ね返せと言うんですか」
家康は、小牧山の陣中で刻々と届く敵軍の情報に顔を真っ青にしていた。
信長は、陣の隅で勝手に兵糧の干し肉をかじりながら地図を指でなぞった。
「数が多けりゃ強いと思うのは素人の考えだがや。猿は今、勝ちを焦っとる。そこをちょいと突っついて、メンツを丸潰れにしてやるんだわ」
「ちょいと突っつくって……相手は十万を超えているんですよ!」
「池田恒興たちに横腹を突かせて、別動隊を叩け。おみゃあの得意な待ち伏せだ。猿がキーキー叫ぶような、最高に格好悪い負け方をプレゼントしてやるんだわ」
家康は、半信半疑で井伊直政や榊原康政に迎撃を命じた。結果、徳川軍は秀吉の軍勢を見事に撃破する。
「織田さま! 勝ちました! まさか本当に勝てるとは……」
「喜ぶのはまだ早いがや。猿はこれで、おみゃあを武力で屈服させるのを諦めただけだ。次はもっと汚い、ぬるぬるした手でくるぞ」
勝利の美酒に酔う暇もなく、家康の胃は再びキリキリと痛み始めた。




