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第28話:役者のタヌキ
「織田さま、三成殿が挙兵しました! 大坂の妻子達は人質……あぁ、もう終わりだ。私は天下の嫌われ者として腹を切るしかありません!」
下野小山の陣。家康は、届いた急報を手にわざとらしく畳を叩いて号泣してみせた。
信長は、家康の頭を容赦なく踏みつけ、その耳元で冷酷に囁いた。
「家康、その泣き真似も板についてきたにゃあ。三成が動いて、おみゃあは心の底で小躍りしとるだろうが。今、この場におる諸大名は妻子を奪われて動揺しとる。そこを優しさという毒で支配するんだわ」
「優しさ……、ですか?」
「家族が大事なら三成の元へ帰れと泣きながら言ってみせろ。そう言われて帰れる武士はおらん。おみゃあに一生貸しを作るハメになるんだがや。ほれ、行け、狸役者!」
信長に背中を蹴り飛ばされ、家康は諸大名の前に進み出た。
「皆の者……三成を恨むな、悪いのは私だ。家族を助けに大坂へ戻れ、私はここで一人で討ち死にする……」
家康が枯れた声で絞り出すと福島正則らが「家康殿に命を預ける!」と狂ったように叫び出した。
「……皆、目が血走っています」
「ほうだ、おみゃあが吐いた嘘の慈悲がこいつらを殺戮マシーンに変えたんだわ。どえりゃあ魔王の素質があるにゃあ、家康」




