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第23話:秀吉狂う
「織田さま見てください、この桜……あまりに美しすぎてかえって不吉ではありませんか。秀吉殿は、まるで何かに取り憑かれたように金銀をばら撒いて笑っておられる」
醍醐寺、家康は狂瀾を極める祝宴の中で青ざめた顔で周囲を見渡していた。
信長は秀吉が座る金色の御座の後ろに立ち、その首筋に冷たい息を吹きかけていた。
「猿はもう、桜の花びらが自分の命の欠片に見えとるんだわ。あいつには、ここにおる全員の顔が死神に見えとるはずだがや。特におみゃあの、その狸のようなツラがな」
信長が秀吉の背中をポンと叩くと秀吉は、ビクンと肩を震わせ杯を落とした。
「信長様……?? いや、家康か……お主、わしが死ぬのを待っておるな……」
秀吉の濁った瞳が家康を射抜く。家康は、慌てて平伏したが隣で信長がゲラゲラと笑い声を上げた。
「ほうだ、家康。もっと怯えて見せろ。おみゃあが優しくすればするほど、猿は死が近付くのを感じて発狂するんだわ。これが最後の花見だわ、猿の絶望を酒の肴にして飲み干せ」
家康は震えながら酒を口にした。桜が舞い散る中、秀吉の命の灯火が信長の嘲笑にかき消されるように揺れていた。
「……織田さま、もう十分です。あの方はもう、壊れています」




