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第19話:狂い出す歯車
「織田さま、大変なことになりました! 秀吉殿に実子の秀頼さまが誕生しました。おめでたい……はずなのですが城内の空気は、氷のように冷え切っています」
肥前名護屋から戻った家康は、大坂城の不穏な熱気に、思わず首をすくめた。
信長は、赤子の泣き声が響く奥御殿の屋根の上で、不気味に目を細めていた。
「だまっとりゃあ、家康。あれは単なる赤子じゃにゃあ。豊臣という巨大な城を内側から焼き尽くす、呪いの種火だわ。猿は今、我が子可愛さに関白秀次をどう消すかしか考えとらんぞ」
「秀次殿は、これまで秀吉殿を支えてきた養子ではありませんか! まさか……」
「権力の座に情を持ち込むほど、猿も焼きが回ったんだがや。家康、おみゃあは今のうちに秀次からそっと手を引いておけ。巻き込まれたら、徳川もろとも灰になるぞ」
家康が秀吉の元へ祝いに参じると秀吉は我が子を抱き、狂おしいほどの笑みを浮かべていた。
「家康、この子の邪魔をする奴は、誰であろうと許さぬぞ」
その瞳の奥にある狂気を見て、家康は本能的に悟った。豊臣の安泰は、この子の誕生によって逆に終わりを告げたのだと。
「……織田さま、風向きが変わりましたね」
「ほうだ、嵐が来るぞ。どえりゃあデカい奴がな」




