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第1話:新説本能寺の変
天正十年六月二日。明智軍の奇襲を受けた本能寺は、猛火に包まれていた。信長は燃え盛る床の上で、悠然と敦盛の一節を舞い始める。
「……人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。一度生を享け、滅走ぬべき者の…………あちちっ! どえりゃあ熱いがや! 火の回り、早すぎだわ!」
格調高く死ぬはずがあまりの熱さに信長は、能面を投げ捨てた。
「……いや、やっぱり死ぬのは辞めだわ。死んで伝説になるより生きて歴史をひっかき回す方がよっぽどおもろい遊びだぎゃあ」
信長は鼻を啜り、煤まみれで床下の隠し通路へ潜り込んだ。
それから数日。明智の追っ手から命からがら逃げていた徳川家康は、道端の藪から伸びてきた手に首筋を掴まれた。
「……よぉ家康。わしが死んで、喜んどるツラしとるにゃあ」
振り返った家康は、この世の終わりのような絶叫を上げた。
「あ、ああ……織田さま!? 幽霊! 化けて出るなら光秀の所へ行ってください!」
「うるしゃあわ、家康。おみゃあは、今日からわしが天下を操るための操り狸人形だわ。拒否権は、にゃあで従わんのなら今すぐ首をはねるがや!」
地獄の二人羽織が、今ここから始まった。




