無邪気な言葉
積み木は、少しずつ高くなっていた。昨日より、崩れる回数が減っている。どうしてかは分からない。ただ、私の手が、少しだけ慣れてきている。
子どもは、積み木を置くたびに私を見る。できた、という顔。私は、どう反応していいか分からず、ただ見返す。
「つぎ、ミリア」
順番を渡される。
私は、積み木を手に取った。軽い。角が丸い。力を入れすぎなくていい。島で何かを積むときは、崩れないように力を込める必要があった。
そっと、置く。
積み木は、倒れなかった。
子どもが、ぱっと笑う。
「すごい」
その言葉が、胸に当たる。痛くはない。でも、驚いた。すごい。私は、そんなふうに言われたことがない。
少しして、部屋の外が騒がしくなった。大人の声。足音。遠くで、誰かが名前を呼んでいる。
子どもが、顔を上げる。
「ねえ」
私を見る。
「ミリアってさ」
私は、身体を少し固くした。続きが来る前に、身構えてしまう。
「つよいんでしょ」
言葉は、軽かった。悪意はない。確かめるみたいな響きだった。でも、その言葉は、島の記憶を引っ張り出す。
私は、答えられなかった。
子どもは、気にせず続ける。
「だって、きず、いっぱいある」
腕を指さされる。視線が、そこに集まる気がした。胸の奥が、ざわっとする。
私は、反射で手を引いた。立ち上がる。距離を取る。頭の中が、速くなる。
子どもは、驚いた顔をする。
「ごめん」
すぐに、そう言った。理由も聞かない。言い訳もしない。ただ、謝った。
そのことに、私は、戸惑った。謝られるのは、久しぶりだった。
どうしていいか分からず、私は立ったまま止まる。
積み木が、床に転がる音がした。ひとつ、倒れただけだった。
子どもは、もう一度言った。
「いやなら、いい」
それだけ。
条件も、評価も、なかった。
私は、息をひとつ吐いた。肩の力が、少し抜ける。
ゆっくり、腰を下ろす。
子どもは、何事もなかったみたいに、積み木を直し始める。
私は、少し遅れて、手を伸ばした。同じ高さに、積み木を置く。
倒れない。
その瞬間、胸の奥で、小さな音がした。昨日と、似ている。でも、少し違う。
怖さの中に、戻れる場所がある。
私は、ここに戻ってきた。
そう、思えた。




