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孤島で“鬼”になった少女は、文明世界で人の心を取り戻す ――Princess of the Flies――  作者: ベルモット
第1章 ここに、いていい

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8/21

無邪気な言葉

 積み木は、少しずつ高くなっていた。昨日より、崩れる回数が減っている。どうしてかは分からない。ただ、私の手が、少しだけ慣れてきている。


 子どもは、積み木を置くたびに私を見る。できた、という顔。私は、どう反応していいか分からず、ただ見返す。


「つぎ、ミリア」


 順番を渡される。


 私は、積み木を手に取った。軽い。角が丸い。力を入れすぎなくていい。島で何かを積むときは、崩れないように力を込める必要があった。


 そっと、置く。


 積み木は、倒れなかった。


 子どもが、ぱっと笑う。


「すごい」


 その言葉が、胸に当たる。痛くはない。でも、驚いた。すごい。私は、そんなふうに言われたことがない。


 少しして、部屋の外が騒がしくなった。大人の声。足音。遠くで、誰かが名前を呼んでいる。


 子どもが、顔を上げる。


「ねえ」


 私を見る。


「ミリアってさ」


 私は、身体を少し固くした。続きが来る前に、身構えてしまう。


「つよいんでしょ」


 言葉は、軽かった。悪意はない。確かめるみたいな響きだった。でも、その言葉は、島の記憶を引っ張り出す。


 私は、答えられなかった。


 子どもは、気にせず続ける。


「だって、きず、いっぱいある」


 腕を指さされる。視線が、そこに集まる気がした。胸の奥が、ざわっとする。


 私は、反射で手を引いた。立ち上がる。距離を取る。頭の中が、速くなる。


 子どもは、驚いた顔をする。


「ごめん」


 すぐに、そう言った。理由も聞かない。言い訳もしない。ただ、謝った。


 そのことに、私は、戸惑った。謝られるのは、久しぶりだった。


 どうしていいか分からず、私は立ったまま止まる。


 積み木が、床に転がる音がした。ひとつ、倒れただけだった。


 子どもは、もう一度言った。


「いやなら、いい」


 それだけ。


 条件も、評価も、なかった。


 私は、息をひとつ吐いた。肩の力が、少し抜ける。


 ゆっくり、腰を下ろす。


 子どもは、何事もなかったみたいに、積み木を直し始める。


 私は、少し遅れて、手を伸ばした。同じ高さに、積み木を置く。


 倒れない。


 その瞬間、胸の奥で、小さな音がした。昨日と、似ている。でも、少し違う。


 怖さの中に、戻れる場所がある。


 私は、ここに戻ってきた。


 そう、思えた。

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