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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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残されたもの

 侵入者たちは動かない。


 床に倒れたまま、意識だけを失っている。

 部屋の空気は、まだ戦闘の緊張を残していた。


 ミリアはしばらくその場に立ち尽くす。

 呼吸を整えながら、状況を一つずつ確かめていた。


 だが、身体の奥の警戒は解けない。

 終わったとは思えなかった。


 タケトシは侵入者の一人に近づく。

 無言のまま装備を確認していく。


 ポケット。

 ベルトの裏。

 靴の内側。


 やがて、小型の通信機を取り出した。


 見慣れない形状だった。


「……灰鐘だな」


 低く呟く。


 ミリアは反応しない。

 だが、その言葉はどこかに触れた感覚があった。


 記憶ではない。

 もっと深いところに残る何か。


 島の空気。

 死の匂い。

 崩れていく音。


 言葉にできない断片が、一瞬だけ胸をかすめる。


「知っているか」


 タケトシが問う。


 ミリアは小さく首を振った。


 知らない。

 それでも、無関係ではない気がした。


 通信機がわずかに震える。


 タケトシは躊躇なく電源を落とした。


「位置は割れている。

 次が来る」


 断定だった。


 ミリアは窓の外を見る。

 闇は変わらない。


 だが、先ほどよりも重く感じる。


 見られている。

 そんな感覚だけが残る。


「移動する」


 タケトシが言う。


 準備は早い。

 判断にも迷いがない。


 だがミリアは動かない。


 倒れた侵入者たちを見ていた。


 敵としてではない。

 別のものとして見ている。


「……島では」


 言葉が途切れる。


 続きは出ない。


 だがタケトシには分かった。


 あの島では、倒れた者はそのまま死んだ。

 助ける余裕も、意味もなかった。


 ミリアは膝をつく。


 一人の呼吸を確かめる。


 生きている。


 それだけで、十分だった。


 タケトシは何も言わない。

 それが許容の答えだった。


「行くぞ」


 短く告げる。


 今度はミリアも立ち上がる。


 迷いはない。

 だが、以前とは違う感覚がある。


 戦うためではない。

 生きるために動く。


 外へ出る直前、ミリアは一度振り返る。


 暗い部屋。

 倒れた三人。

 壊れていない空間。


 それを見て、はっきりと理解する。


 もう、島とは違う。


 外に出ると、夜の風が頬を打った。


 その中に、ほんの一瞬だけ。


 誰かの視線のようなものが混じる。


 姿は見えない。


 だが確かに、どこかで見ている存在がいる。


 それは敵意でも警戒でもない。


 どこか歪んだ興味に近いものだった。


 ミリアは気づかない。


 だが、何かは確実に動き始めていた。

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