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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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追われていたもの

 倉庫を出たとき、夜気がわずかに冷たくなっていた。


 潮の匂いが強くなり、遠くで船のエンジン音が低く響いていた。


 ミリアは小さな手を握ったまま歩いていた。


 子供はまだ震えている。


 だがもう、逃げようとはしなかった。


「……どこから来た」


 タケトシが静かに尋ねる。


 子供はしばらく黙ったままだった。


 唇が動く。


 声にならない音が漏れる。


「……あっち」


 小さな指が、倉庫街の奥を指す。


 暗く入り組んだ通路の先。


 灯りの届かない場所だった。ミリアの胸の奥がわずかにざわつく。理由は分からない。


「親は」


 子供は首を振る。


 その動きに、迷いはなかった。


 タケトシの表情がわずかに変わる。


「……一人か」


 子供は答えない。


 ただミリアの手を強く握る。


 その力が、すべてを物語っていた。


 風が吹いた。


 どこかで金属が擦れる音がする。


 ミリアの身体が自然に緊張する。


 戦う前の感覚だった。


 だが今回は違う。


 守るべきものがある。


「……来る」


 ミリアが小さく言う。


 タケトシが即座に周囲を見る。


「人数は」


「……分からない」


 だが、確実に近づいている。


 足音。


 重い靴の音。


 複数。


 倉庫街の奥から、こちらへ。


 子供の身体が震え始める。


 握る力がさらに強くなる。


 逃げたいのではない。


 隠れたいのでもない。


 ただ、離れたくないという震えだった。


「ここにいたのか」


 低い声が響く。


 暗がりの奥に、人影が現れる。


 銃を持った男たちだった。


 灰鐘の装備ではない。


 だが、雰囲気だけが似ていた。


 荒い。


 獲物を見る目。


「ガキ一人で逃げ切れると思ったか」


 男の一人が笑う。


 ミリアの胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。


 戦う感覚が戻る。


 だが今は違う。


 守るための戦いだった。


 ミリアは子供を背中に隠す。


 考えるより先に動いていた。


 男たちが止まる。


「……そいつか」


 視線がミリアに集まる。


「噂の」


 言葉は最後まで言われなかった。


 だが、意味は分かった。


 ミリアは動かない。


 ただ、子供の手を離さない。


 逃げる選択はなかった。


 自分から戦う理由を持ったのは、初めてだった。

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