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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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小さな影

 銃声の余韻が、まだ空気に残っていた。


 倉庫街には静けさが戻りつつある。潮と油の匂いが混ざった重たい空気が、低く漂っていた。


 倒れた男たちは動かない。タケトシは通信機を一つ拾い上げ、状態を確認してから静かに息を吐いた。


「……やはり様子見だな」


 ミリアは答えず、少し離れた場所を見ていた。


 胸の奥に残るざわつきは消えていないが、戦いの衝動はすでに静まりつつあった。


 代わりに残るのは、戦いのあとに訪れる理由のない空虚だった。


 タケトシが近づく。


「戻るか」


 その言葉に、ミリアは小さく頷く。


 そのときだった。


 かすかな物音がした。


 金属の陰で、何かが動く気配。


 ミリアの視線が自然とそちらへ向く。


 タケトシも同時に気づいた。


「……まだいたか」


 警戒が声に混じる。


 だが、次に現れたのは銃を持った男ではなかった。


 人影ではなく、小さすぎる影だった。


 ゆっくりと姿を現したのは、幼い子供だった。


 泥で汚れた服。擦り切れた靴。怯えきった目が、こちらを見ている。


 ミリアの身体がわずかに強張る。


 子供は後ずさった。


 明らかに、ミリアを恐れている。


 その怯え方に、足が止まった。


 胸の奥が、鋭く痛む。


 理由は分からない。


 だが、逃げたくなる感覚だった。


「……大丈夫だ」


 タケトシが静かに言う。


 子供は首を振る。


 視線はミリアから外れない。


 震えていた。


 ミリアは一歩だけ前に出る。


 子供の身体がびくりと跳ねた。


 昔の記憶が、ほんの一瞬だけ浮かび上がる。


 血の匂い。


 泣き声。


 倒れていく小さな身体。


 ミリアは視線を落とす。


 どうすればいいのか分からなかった。


 ただ、胸の奥が締めつけられる。


 子供が、小さな声で言った。


「……たすけて」


 その一言で、胸の奥が強く揺れた。


 ミリアの中で、何かが動く。


 戦いの衝動とは違う、別の感覚だった。


 ゆっくりと顔を上げる。


 子供の目は、まだ恐怖に満ちていた。


 それでも、必死にこちらを見ている。


 ミリアは、もう一歩踏み出した。

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