崩れる包囲
再び銃声が響いた。
弾丸がコンクリートを削り、白い粉が空中に散る。ミリアは影の中で身体を低くした。弾道を見て、次の動きを読む。
銃を撃っているのは三人。
距離はそれぞれ違う。
だが、呼吸が揃っていない。
連携が甘い。
ミリアは一歩踏み出す。
次の瞬間、倉庫の影から飛び出した。
銃口がこちらへ向く。
しかし、遅い。
ミリアは男の腕を払い、身体を回す。そのまま肩を引き、体重を乗せて投げた。
男の身体が地面に叩きつけられる。
息が止まったような音がした。
残り二人が距離を取る。
「下がるな!」
ひとりが叫ぶ。
だが声には焦りが滲んでいた。
ミリアはゆっくりと立ち上がる。
銃を拾う気はない。
必要ない。
男たちは互いに視線を交わす。
予定と違う。
そう顔に書いてあった。
ひとりが通信機に手を伸ばす。
「こちら――」
言葉が途中で止まる。
ミリアが距離を詰めていた。
腕を取る。
通信機が落ちる。
男は慌てて銃を向けた。
ミリアは身体をひねる。銃声が耳の横をかすめた。
次の瞬間、肘が男の胸に入る。
男が後ろへ倒れた。
残りは一人。
男は数歩下がり、銃を構え直す。
指が震えていた。
「……化け物」
小さく呟く。
ミリアは答えない。
ただ静かに立っている。
胸の奥で、さっきの感覚が少し強くなっていた。
血の匂い。
戦いの音。
遠い記憶が、ほんの少しだけ浮かび上がる。
男は引き金を引いた。
銃声。
ミリアは身体を横へずらす。
弾は壁に当たり、火花が散った。
距離は、もう近い。
ミリアは踏み込む。
拳が男の腹に入る。
空気が抜ける音がした。
男は膝から崩れる。
倉庫街に、急に静けさが戻った。
風の音だけが残る。
ミリアは立ったまま、呼吸を整える。
胸の奥のざわつきが、ゆっくりと静まっていく。
そのとき。
タケトシが近づいてきた。
「……早いな」
ミリアは肩を軽く動かす。
「終わった」
タケトシは倒れている男たちを見る。
しばらく黙ったままだった。
そして小さく言う。
「様子がおかしい」
「灰鐘?」
「ああ」
タケトシは通信機を拾う。
画面を確認する。
「部隊が少なすぎる」
ミリアの視線が動く。
「……どういうこと?」
タケトシは少しだけ考え、それから周囲を見る。
倉庫の影。
高い壁。
遠くの屋根。
「様子見かもしれない」
その言葉の意味を、ミリアはすぐ理解した。
これは本隊ではない。
ただの確認。
試し。
つまり。
誰かが見ている。
ミリアは静かに周囲を見る。
風が吹く。
だが、人の姿はない。
それでも。
どこかから視線を感じた。
遠くで、何かが動いたような気がした。
ミリアはその方向を見る。
だが、そこには誰もいなかった。




