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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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倉庫街

 港に近い倉庫街は、昼でもどこか薄暗かった。


 古い倉庫が並び、金属の扉とコンクリートの壁が続いている。潮の匂いと油の匂いが混ざり、空気は少し重かった。


 人通りは少ない。遠くでフォークリフトの音が鳴り、金属のぶつかる音が時々響いている。


 ミリアはゆっくりと歩いていた。タケトシは少し後ろを歩いている。


 依頼の内容は単純だった。この区域で行方不明になった男を探すこと。


 それだけの依頼だった。


 けれど。


 タケトシの表情は、いつもより少しだけ警戒していた。


「……どう?」


 ミリアが小さく聞く。


 タケトシは周囲を見渡す。


「静かすぎる」


 短い答えだった。


 確かに、人の気配が少ない。港の倉庫街なら、もう少し動きがあってもいいはずだった。


 ミリアは足を止める。


 風の音。遠くの金属音。


 そして。


 わずかな気配。


 視線を感じた。


「……いる」


 ミリアが言う。


 その瞬間だった。


 倉庫の影から、男が一人出てくる。作業員の服を着ていた。


 だが、その動きは不自然だった。


「動くな」


 男が言う。


 同時に、別の方向から足音がする。


 背後。


 右側。


 左。


 倉庫の影から、数人の男たちが姿を現した。


 ミリアは周囲を見る。


 全部で五人。


 武器は銃だった。


 タケトシは小さく息を吐いた。


「……やっぱりな」


「灰鐘?」


 ミリアが聞く。


「可能性は高いな」


 男の一人が銃を構える。


「抵抗するな」


 静かな声だった。


「こちらは捕獲命令を受けている」


 ミリアの視線がわずかに動く。


 捕獲。


 つまり。


 最初から、これが目的だった。


 タケトシが一歩前に出る。


「交渉の余地は?」


 男は首を振った。


「ない」


 その瞬間。


 ミリアは動いた。


 足音はほとんど鳴らない。一歩で距離を詰める。


 銃口が動くよりも早く、腕を払う。


 金属の音。


 銃が地面に落ちる。


 同時に、膝が男の腹に入った。


 男が崩れる。


 残りの男たちが一斉に動く。


「撃て!」


 乾いた銃声が響いた。


 ミリアは倉庫の影に飛び込む。コンクリートに弾が当たる音が連続する。


 タケトシもすぐに動いた。


「右!」


 短い声。


 ミリアは身体をひねり、影から飛び出す。次の男の腕をつかむ。


 体勢を崩す。


 そして、地面へ叩きつけた。


 男が動かなくなる。


 残り三人。


 ミリアはゆっくりと立ち上がる。


 呼吸は乱れていない。


 ただ。


 胸の奥で、何かが少しだけ動いていた。


 戦いの気配。


 血の匂い。


 昔の記憶が、わずかに浮かび上がる。


 男たちは後ずさった。


「報告と違う」


 誰かが小さく言う。


 ミリアは何も答えない。ただ静かに立っている。


 次の瞬間。


 再び銃声が響いた。

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