倉庫街
港に近い倉庫街は、昼でもどこか薄暗かった。
古い倉庫が並び、金属の扉とコンクリートの壁が続いている。潮の匂いと油の匂いが混ざり、空気は少し重かった。
人通りは少ない。遠くでフォークリフトの音が鳴り、金属のぶつかる音が時々響いている。
ミリアはゆっくりと歩いていた。タケトシは少し後ろを歩いている。
依頼の内容は単純だった。この区域で行方不明になった男を探すこと。
それだけの依頼だった。
けれど。
タケトシの表情は、いつもより少しだけ警戒していた。
「……どう?」
ミリアが小さく聞く。
タケトシは周囲を見渡す。
「静かすぎる」
短い答えだった。
確かに、人の気配が少ない。港の倉庫街なら、もう少し動きがあってもいいはずだった。
ミリアは足を止める。
風の音。遠くの金属音。
そして。
わずかな気配。
視線を感じた。
「……いる」
ミリアが言う。
その瞬間だった。
倉庫の影から、男が一人出てくる。作業員の服を着ていた。
だが、その動きは不自然だった。
「動くな」
男が言う。
同時に、別の方向から足音がする。
背後。
右側。
左。
倉庫の影から、数人の男たちが姿を現した。
ミリアは周囲を見る。
全部で五人。
武器は銃だった。
タケトシは小さく息を吐いた。
「……やっぱりな」
「灰鐘?」
ミリアが聞く。
「可能性は高いな」
男の一人が銃を構える。
「抵抗するな」
静かな声だった。
「こちらは捕獲命令を受けている」
ミリアの視線がわずかに動く。
捕獲。
つまり。
最初から、これが目的だった。
タケトシが一歩前に出る。
「交渉の余地は?」
男は首を振った。
「ない」
その瞬間。
ミリアは動いた。
足音はほとんど鳴らない。一歩で距離を詰める。
銃口が動くよりも早く、腕を払う。
金属の音。
銃が地面に落ちる。
同時に、膝が男の腹に入った。
男が崩れる。
残りの男たちが一斉に動く。
「撃て!」
乾いた銃声が響いた。
ミリアは倉庫の影に飛び込む。コンクリートに弾が当たる音が連続する。
タケトシもすぐに動いた。
「右!」
短い声。
ミリアは身体をひねり、影から飛び出す。次の男の腕をつかむ。
体勢を崩す。
そして、地面へ叩きつけた。
男が動かなくなる。
残り三人。
ミリアはゆっくりと立ち上がる。
呼吸は乱れていない。
ただ。
胸の奥で、何かが少しだけ動いていた。
戦いの気配。
血の匂い。
昔の記憶が、わずかに浮かび上がる。
男たちは後ずさった。
「報告と違う」
誰かが小さく言う。
ミリアは何も答えない。ただ静かに立っている。
次の瞬間。
再び銃声が響いた。




