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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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動き出す影

 灰鐘の拠点は、街の地下にあった。


 古い施設を改装しただけの場所だが、内部は静かで整然としている。長い廊下の奥に、会議室の灯りがついていた。


「対象は少女一名」


 机の上に資料が並んでいた。写真は一枚だけ。そこに写っているのは、ミリアだった。


「孤島事件の生存者」

「例の生存者か」


 男たちは低い声で話していた。資料をめくる音だけが、部屋の中に小さく響く。


「倉庫街で確認された」


 別の男が資料を指で叩く。


「昨夜、行動を開始している」


 その言葉で、数人の視線が動いた。


 倉庫街。


 港に近い区域だ。物資の出入りも多く、人目も紛れやすい。


「確認された戦闘能力は高い」

「しかし制御不能の可能性あり」


「捕獲優先」

「ただし――」


 ひとりの男が言葉を切る。


「排除も許可する」


 その一言で、部屋の空気がわずかに重くなった。


 そのとき、壁際に立っていた男が小さく笑った。


「へえ」


 軽い声だった。


 会議室の視線が、そちらに集まる。


「興味あるのか、サク」


 灰鐘サク。


 組織でも名前が通っている戦闘員だった。サクは椅子にも座らず、壁にもたれたまま資料を見ている。


「孤島の生き残りなんだろ」


 視線は写真に向いたままだった。


「面白そうじゃないか」


 男の一人が眉をひそめる。


「任務だ。遊びじゃない」

「分かってるよ」


 サクは肩をすくめた。


 そして、もう一度写真を見る。


 ミリア。


 その名前を見た瞬間、口元がわずかに歪んだ。懐かしい、という言葉だけでは足りない記憶が、静かに胸の奥から浮かび上がってくる。


 蝿の音。


 血の匂い。


 倒れた子どもたち。


 そして、死体の山の上に座っていた少女。


 あの光景だけは、今も少しも濁らない。


 サクは静かに息を吐く。


「まだ壊れてないんだな」


 小さな声だった。


「何か言ったか?」

「いや」


 サクは笑う。


「任務だろ?」


 机の上の資料を指で軽く叩く。


「俺が行く」


 部屋の空気が少し動いた。


「理由は?」

「簡単だよ」


 サクは写真から視線を外さない。


「俺が一番、こういうの得意だからな」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 灰鐘サクは、組織の中でも最前線の戦闘員だ。近接も遠距離もこなし、任務成功率はほぼ完璧だった。


「いいだろう」


 机の向こうの男がうなずく。


「灰鐘サク。ミリア捕獲任務を任せる」


 サクは軽く手を上げた。


「了解」


 短く答え、写真を取り上げる。


 そこにいる少女は、昔と変わらない顔をしていた。けれど、目の奥にあるものだけは少し違って見える。


 それが、余計に興味を引いた。


 サクは静かに笑う。


「楽しみだな」

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