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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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残った違和感

 朝の空気は、少しだけ冷えていた。


 窓の外では、まだ街が完全には目を覚ましていない。遠くで車の音が流れ、鳥が低く鳴いている。


 ミリアは椅子に座ったまま、動かずにいた。


 昨日のことを考えていた。


 不意に現れて、不意に去った男のことを。


「……まだ壊れてないんだな」


 意味は分からない。


 けれど、その言葉だけが頭に残っていた。まるで昔から知っている誰かに言われたような、妙な感覚がある。


 ミリアはゆっくりと手を握る。指先の感覚は、いつも通りだった。


 けれど胸の奥に、わずかな違和感が残っている。


 あの男の目を思い出すと、胸の奥がざわついた。


 敵を見る目ではなかった。恐れている目でもない。


 どちらかと言えば――観察しているような目だった。


 ミリアは小さく息を吐く。


 そのとき、扉がノックされた。


「起きてるか」


 タケトシの声だった。


「……うん」


 扉が開き、タケトシが部屋に入ってくる。


 いつもの無表情。けれど視線は、わずかに周囲を探るように動いていた。


「昨日の男のことを考えているな」


 ミリアは小さくうなずく。


「気配が、変だった」


「敵か?」


 タケトシは少し考え、それから首を振った。


「まだ分からない。ただ――」


 言葉を切り、窓の外へ視線を向ける。


「見られている可能性はある」


 ミリアも窓の外を見る。


 そこには、いつもの街があるだけだった。人が歩き、店が開き、朝が始まっている。


 それでも。


 どこかに誰かがいるような気がした。


「……昨日の男?」


「断定はできない」


 タケトシは短く答える。そして机の上に一枚の紙を置いた。


「依頼だ」


 ミリアは紙を見る。


 簡単な地図と、短い説明だった。


「倉庫街?」


「人を探す依頼だ」


 タケトシは腕を組む。


「灰鐘が動いている可能性がある」


 その言葉に、ミリアの視線が少し上がる。


 灰鐘。敵の組織だ。


「捕獲対象らしい」


「……誰を?」


 タケトシはわずかに間を置いた。


「まだ分からない」


 静かな声だった。


「ただ、偶然とは思えない」


 昨日の男。


 今日の依頼。


 そして灰鐘。


 点がどこかで繋がりそうな気がした。


 ミリアは立ち上がる。


「行く」


 タケトシは軽くうなずいた。


「準備は三十分」


「うん」


 ミリアは装備の袋を手に取る。


 そのとき。


 胸の奥の違和感が、ほんの少し強くなった。


 理由は分からない。


 ただ。


 昨日の男の声だけが、まだ耳に残っていた。


「……まだ壊れてないんだな」

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