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死体の山で蝿に囲まれていた少女は、“蝿の王女”と呼ばれながら人間になることを学んでいる  作者: ベルモット
第3章 使われる力

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通り過ぎた男

拘束した男を引き渡し、倉庫街を離れたころには、夜の空気がさらに冷えていた。


海から吹く風が強い。


ミリアは歩きながら、もう一度だけ振り返った。


暗い倉庫の屋根。


そこには何もない。


それでも、あの感覚はまだ消えていなかった。


「……まだ気にしてるのか」


タケトシが前を向いたまま言う。


「分からない」


ミリアは正直に答えた。


「でも、いた気がする」


タケトシは少しだけ歩く速度を落とした。


「気配は? 音は?」


「ない」


ミリアは首を振る。


タケトシはそれ以上聞かなかった。


ミリアの感覚は、こういうとき外れないことを知っているからだ。


倉庫街を抜け、小さな通りに出る。


人は少ない。


街灯の光が、濡れた舗道を淡く照らしている。


そのとき。


前から一人の男が歩いてきた。


背は高くない。


黒いコート。


ゆっくりした歩き方だった。


すれ違うだけの距離。


ミリアは、ほんの一瞬だけ男を見る。


男の視線も、ミリアに向いた。


その目。


不思議なほど静かな目だった。


まるで――


観察しているような視線。


男はそのまま歩き、ミリアの横を通り過ぎる。


言葉はない。


足も止めない。


ただ、静かにすれ違う。


数歩進んだあと。


男の声が、背中に落ちた。


「……まだ壊れてないんだな」


ミリアは振り向いた。


しかし、男はもう歩き続けている。


黒いコートの背中。


街灯の下を通り、暗闇に溶けていく。


「知り合いか」


タケトシが低く聞く。


「……違う」


ミリアは答える。


けれど。


背中の奥の感覚が、強くなる。


あの視線。


屋根の上で感じたものと、同じだった。


ミリアは男が消えた通りを見る。


もう誰もいない。


それでも。


確かに、あの男は


自分を知っている気がした。

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